第16話

良太は、少し戸惑った。


 「分かってるよ、お兄ちゃんじゃなくたって…。でも…。」

 

 妹が泣く。


 『罪』


『罪 罪 …罪』


それしかなくなってしまった。

罪に捕まる。

もう、『本当の死』から、逃れられない―…。


「俺は、ひと気のない処へ行く。

だから、もう 明日、いや、今から―…」

「ダメ!!」


――理々は、兄の遺体を、埋葬しなくては、と 思っている―…


「来いよ。」

2階に妹を呼ぶ。


「0・1・2・3・4・5・6・12・15・20・24・30・60…」

「?」

踊り場で、良太は妹に言う。

「こういう数字ってさ、意味もってると思わないか?」

 妹と部屋に入ると、良太はアナログのかけ時計を、指差した。

「ほら。」

「あ…ほんとだ。」

でも、それが、どうしたというのだろう、という、妹の顔。

良太は次に、物理の教科書を広げた。


「基本だ。単純に、これ 見ろ。

等速直線運動―…

 x=vt」

「私、こういうの、よく分かんないよ。」

「じゃあ、これから言うことだけ聞けよ。分かっても分かんなくてもいいから。

時間の変位は、進んだ距離を速度で割ったもの。


…俺の魂の中にはな、いつも『12秒』を刻む、魔法の時計の針みたいのがある。」

「うん。」

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