恋は盲目

林林<ばやしりん>

第1話

 俺は喜多林大だ。

 現役高校一年生、青春真っ只中だ。

「あ!大ちゃん!」

 おっと、俺を読んだのは結城楓、保育園からの幼馴染だ。

「おはよー」

「なんか眠そう?だねまた夜遅くまで本読んでたの?」

「そりゃあもちろん、好きなものに埋もれられる日々こそが至高なものでね。」

「なんか楽しそうだね」

 おっぺけペーな言い方だったせいか、聞き慣れた台詞だったせいか、ぽけっとした返事をしてくる。

「楓は昨日してたの?」

「私は……教えない?」

「なんじゃそりゃ」

「なんでもいいでしょ?」

「いや、彼氏連れ込んでたりしたらまじ萎えるんだが、」

 俺の可愛い可愛い楓の貞操は守られねばならない。だからこそ近寄る男は許せないのだ。

「そ、そんなこと絶対ないよ!!…………大ちゃんがいるし」

「ってそんな強く言わなくても、っていうか最後なんて言った?」

「…………教えない!!」

「情緒不安定だなー」

 いきなり強く言ったり機嫌が良かったり、今日の楓は少しおかしい。

「————大ちゃんのせいだし」

「ん?」

「いや、なんでもない。」

 学校への道も七割は歩いて、道に本校の生徒の顔もちらほら。

「あれ結城さんじゃね?」

「まじ可愛いよな、彼氏なりてー!」

 けしからん、本当にけしからん発言だ。

「楓、お前は俺のものだからな。」

 そういう男を横目に俺は楓へ愛の告白、もといいろいろとする。

「言われなくても私は大ちゃんのものだよ」

「可愛いな。」

「————んんん、ずるい!!」

 楓が顔を赤らめてそう言った。

 何かモジモジとしている。

「何が?」

「大ちゃんに口説かれると上っ面の言葉でも刺さっちゃうよ。」

「チョロいな。」

「いうなし。」

 可愛い。

 楓はほんとに可愛い命に変えてでも守る覚悟がある。

「ってもう学校じゃん。」

 気づけば校門を超えた下駄箱にいた。

「そうだね。」

「くみも違うからここでお別れかな?」

「ん、」

 少しは寂しそうだ。

 そう言いつつも目を瞑り顔を俺の方へ向けていた。

 そこで俺は楓の唇を奪った。

 柔らかくて、心地が良い、だけど少し恥ずかしくて、人が見てないかという怖さもあって、もちろん罪悪感もあって、とにかく最高なのだ。

「いってらっしゃい。」

「そっちこそいってらっしゃい。」

 ちょっぴり新たな学校は心配だけど、楓がいれば安心だ。

 そう思って、俺は楓の元を離れて、教室へと向かった。

 

 

 

「お!、大じゃん今日はちょい早いな。」

「ああ、なんか気分が良くてな」 

「なんじゃそりゃ。」

 朝っぱらから話すのは、俺の友人の愛新覚羅 庄司くんだ。

 どうにもかの満州帝国の皇帝、愛新覚羅溥儀の子孫らしい。

「そうそう、大、結城さんって知ってるか?、結城楓さん。」

「ああ、知ってるけど何か?」

 この場で楓の話が出るのはあんまりないことで少し驚いた。

 庄司が知っているとも思わないしな。

「いやあ、めちゃくちゃ可愛いじゃんか、」

「認めざるおえないレベルでな。」

 目をきらきらと輝かせながら、想いを馳せる庄司、いえない、幼馴染なんて言えない。今朝そのめちゃくちゃ可愛い女の子の唇を奪ったなんて言えない。

「顔よし、スタイルよし、勉学もできてスポーツもそこそこできる。なんかいいとこ取りだよな、」

「だよなーすげい生まれた時からの才みたいなの感じるよね。」 

 楓は顔がいい。小顔にパチクリとした二重の目。高い鼻。モデルみたいな口。

 艶やかな黒髪はロングで結ばれていない。

 スタイル、もとい豊満なたわわを実らせて、細いウエストである。

 勉強もできる方…………って完璧じゃねぇか。

「そんなめちゃ可愛い結城さんに、俺告白したいんだよなー。」

「おいおい、よせ、轟沈するぞ。」

 何を言い出すかと思えばそんなこと、まぁしたにしろ楓は断るだろう。だって楓は俺のこと大好きちゃんだからね☆

「まぁそうなんだけどさ、でも顔くらいは拝みたいよなー。」

「そうだな、旧校舎の奴ら許せんよな。」

 俺が通う学校は新校舎と旧校舎に分かれていて、どの学年も1から4組が新校舎。5から7組までが旧校舎で過ごすことになっている。

 校舎ごと違うため移動教室などでしかすれ違うこともなく、かなり疎遠になる。

 悲しいこった。

「そうそう、いっそ、5組に潜り込もうかな。」

「いけるんじゃね?」

まあ適当に言っておけばいいだろう。こいつは馬鹿なのだ。

「誰か一人殺るか。」

「俺も行きたいから二人殺ってくれ。」

「お安い御用よ。」

 なんとも物騒な話に路線が変更し始めたが、それくらい楓は人気なのだ。

「ちょっと男子〜!HR始めるから静かにして!!」

よくある系女子だ!!!!!!!初めて見た。こういう系の子って恋とかできるのかな、普通に古◯川みたいにエロい子だったらいいけどって、何考えてんだ俺、俺には楓がいるんだ。

「わかりました。」 

 女子からのお言葉を真摯に受け止め、俺らは席についた。

    

    昼休み。

    

「楓ー」

「どうしたの?」 

 昼休み、高校生としてはこのひと時がたまらないものだ。あるものは友達とワイワイ話しながら食べる。あるものは恋人とあーんなんかやっちゃって非モテに見せつけてきやがる(殺気。)また、あるものは一人でおトイレで食べたりもする。

 何故か解禁されている屋上で、二人だけで食べる飯、これ即ち最高なり。

「飯はよ食べよ。」

「うん。」

 そう言って楓はお弁当をあけた。

綺麗な仲間だ。お弁当の中にはハンバーグや卵焼き、それにのり弁。彩のミニトマトに、ちょっと俺が苦手なブロッコリー。見るだけで食欲がそそられる。

「美味しそうだな。」

「でしょ、頑張って作ったんだから」

「…………食べたい。」

 綺麗な卵焼き。

 一切の濁りもないクリーミーな黄色。

 美味しそうだ。

「もう、大ちゃんったら、」

「美味しそうなのは食べる主義なので。」

 そう言って楓は、指差した卵焼きを箸でつかんだ。

「はい、あーん。」

「大胆だね。」

「——いうなし。」

 赤面している。

 早く食べろこらとでも言いたげな顔つき。

 可愛い。

 まあ許してあげよう。

「ぱくっ。」

 口の中に広がるたまご感。だが、甘さも感じる。なんだろうか、完璧という言葉がはまる。

 美味しすぎるぞこれ、と言っても食べ始めたのは今日に始まったことないんだけどな。 

「んーー、美味しい」

「それはありがとね。」

「家庭的な楓ちゃん好きやで。」

「〜〜〜もう!」 

 少し怒らせてしまった。

「ちょっと確認したいことあるんだよね。」

「何?」

 振り向いた途端。

 俺は楓の唇を奪う。

「何をすると思ったら、」

「全然違うじゃん。」

「何が?」

「キスの味は卵焼きみたいな聞いたことない?」

「それをいうならレモンじゃない?ったく、キスしたかっただけじゃないの?」

「もちろん、いつだってイチャイチャしたいさ。」

 グッドポーズをしながら軽く発言をする。

「ずるい、」

「何が?」

「なんか大ちゃんにリードされてばっかなの腹立つ」

ふと、楓がそう言い出した。まあ仕方ない、楓は照れ屋さんだから。

「じゃあ自分から攻めてみよっか。」

 ぷんぷんとしている楓もかわいい。

 自分から攻めてきてくれるならば尚更だ。

「ん、」

 腕を広げて、俺の胸元に飛び込んできた。

 すっぽりとおさまる。

 いい匂いもするせいか心地がよりいい。

 にしてもやわらかい。

「ハグですか、」

「そうです。」

「キスは」

少し、いじわるをしてやろうと思っていった。

「自分からは、」

「全く、これだから————」

 そう言って、俺は楓の唇にもう一度口をつけた。

「そんなちゅっちゅっして楽しいの?」

sure!!美少女とちゅっちゅっして楽しくないやつがどこにいる?否!!いるわけなどない!!!!!!!

「うん、楽しい。」

「というか、そろそろご飯食べないと遅れちゃわない?。」

「そうじゃん。」

 時計を見たら授業が始まる二十五分を切っている。

 移動に五分かかったとしてあと二十分間しか食べれない。

「もぐもぐ…………、」

「ってなんで私のお弁当食べてるのさ」

「ほら、たまには弁当交換なんかアリじゃない?。」

 楓の弁当を貪る。

 美味しい。

「そんなに私の料理が好きなら今度から作ってこようか?」

まじですか!いいんですか!ならお言葉に甘えちゃおっかなー。なんて思ったりもする。というか思ってる。作ってもらお。

「うん、いくらでも払うから作って。」

「——仕方ないな。」

 ゆっこりとした笑みで言っている。

 天使か、そう思うくらいには可愛い尊顔。

 目の当たりにできることが奇跡と言うし。

 まぁいいや早く食べよ。

 ご飯を食べて、そして確実教室へと向かった。

 

  六限目

 

「故人西のかた黄鶴楼を辞し

 煙火三月揚州に————」

 六限目。漢文。

 もうちょっとでおうちに帰れるそんな少し気が踊る時間だ。

「これは七言絶句と言われていて、李白の代表作です。

 前半は華やかな情景を謳っていますが、後半では故人、つまりは大切な親友との別れを悲しんで終わります。」

 李白か、どうにもパッとしなくてこの話は好きではない。

 相手が決めたことなんだから、それを尊重して見送るのが、本当の親友であり、故人の役目の筈。

 それを言って欲しくないって一点張りは少し気が乗らない。

 激励したけど実は、と詩っていたならば、この絶句がお気に入りになっただろうに。

「では、皆さんにこの作品について、深く考えてもらいます。この作品を読んでどう思ったか、李白の心情など。紙に向かって切磋琢磨してもらいます。」

 そう言って前の人から紙が回される。

 書くことについてはもちろん、この作品に対する酷評だ。

 李白という人を深く知らない素人が語るなとても言われそうだが、その判断材料がこれしかないのだから仕方もない。

 そこでこう記した。

 私は黄鶴楼にて孟浩然の広陵にゆくを送るについて、あまり良い印象を抱けなかった。

 まだ初めは華やかな情景を想像できていたのだが、後半については親友の別れを悲しむだけである。

 それは非常に滑稽であり、本当の親友と呼べるのか、と言いたい。

 親友ならば、別れを惜しむが、それでも最後は行ってらっしゃいと送るのが筋だ。

 大切な人の考えを尊重することこそが役目なのだと思う。それを本当の親友と呼ぶのだ。

 以上から、私はこの作品について、こう評価しました。

 俺の考えは多分正しい。

 そう思いつつ、先生に提出して課題を終えた。

 席についたら庄司に声をかけられた。

「お、大、もう終わったのか?はえーな。」

「もちろん、早く終わらせて、漫画読んでやるんだよ。」

「って、お前そこに忍ばせてたのか!」

 机の中から、漫画を取り出す。

「しっ、静かにしろ。」

 指を立てて促した。

「にしてもこれむずいわ、上手く評価とか考察とかできねー」

「まあ適当にいい作品だとか言っとけばいいんじゃね?知らんけど。」

「適当なやつだなオメェは、まさかそんな感じで提出したわけじゃないよな!?」

「ざっつらいと、その通りだよ庄司くん。」

「まじか、」

「まあ頑張りたまえ、俺は漫画読んでるから。」

 そう言って漫画のページを開いた。

 庄司は頭で悩んでなんとか文字に起こしていた。

 お前一様中華民族の末裔だよな(満州帝国)。

 そんなこんなで、六限は終了を迎えた。

 

 下校。

 

「大ちゃーん。」

「お、楓」

 校舎に夕焼けが映える。

 カラスが泣いている。

 空は朱に染まる。

「いっしょに帰ろ」

「うん。」

 そんな中、肩を並べて俺と楓は帰路へと踏み出した。

「ねぇねぇ大ちゃん。」

「どした?」

「いやが実はさ明日まで親いないからさ、そっちの家行ってい?」

「別にいいけど、なぜに?」

 いつもならこんなことない、親がいなくても普通に自分の家に帰るのが決定事項。

「い、いや、その」

「何書く仕事してるんだよ、言ってみー。」

「じ、実は昨日の夜、ホラーなやつ見ちゃって、こ、怖いんだよね」

 ブルブルと震えている、本当に怖いのか?

 いつもにないような感じだ、朝はそんなことなかったのにな。

「ふーん、それで人肌恋しくて、一緒に寝たいと、」

「——そゆこと。」

「まあいいけど、」

「ありがと大ちゃん。」

 そう言って俺の腕をとった。

 楓の成長した役満ボディが俺の腕に直に伝わる。直で揉みたい。

「あの、かなり柔らかいものが当たってるんですが。」

「当ててるんだよ」

「こんなえっちな子だっけ?」

「もー、仕方ないな、今日はこのくらいで許してあげますよ。」

「えっちって言われたからやろ?」

 そういう時楓の顔が赤く染まった。

 本当に夕焼けに引けを取らない。

「もーーー。」

「ほらほら、手とれ。」

 そう言って手を差し出す。

「——男らしい。」

 俺の腕を触ってのことだろうか。

 そのまま恋人繋ぎにする。

「だろ、」

 目があったので、そのままキスをした。

「ぷはっ、大ちゃん大胆。」

「そこに唇があったから。」

「社会じゃ通用しないんだからね!。」

「まぁまぁいいだろ、そこにある可愛い楓をモノにしたかっただけさ。」

「————お膳立て上手なんだから。」

「本心だぞ?」

「もーーーーー。」

 そう言いながら、家の近くへと来た。

 夕焼けの光に照らされながら、その影を見ながら、俺らはさらに足を進めた。

 そろそろお家だ。

 

 放課後

 

「————ということがあってさー、本当にめんどくさいよねー。」

 放課後。俺の部屋。俺と楓は家が隣、といいこともあるので、こうよく、互いの部屋を行き来して遊んだり、話したりしている。 

「俺はそれが、嫌味にしか聞こえないんだが。」

「いやー!でも流石に休み時間に駆け込むはないよ。」

「なんかドラマチックで良くね?」

 そんな経験がない俺はそういうことくらいしかない。

「いや好きでもない人に好きっで言われても嬉しくないよ、それに大ちゃんがいるし、」

「楓、」

 どうも、楓は今日告白されたらしい、休み時間にだ。

 先輩らしくて、その先輩が教室で愛を叫んだそうだ。

「それよりも…………なんかゲームでもして遊ぼうぜ!!」

「そうだね!」

 そう言って、俺は、witchというゲーム機の格ゲーをし始めた。

「なぬ!負けれぬー!!!!!!!」

 楓はそう叫びながら、ガチャガチャとコントローラーを動かしている。

「これで終わりだ!くらえー!!、」

「あ、あぁぁぁぁぃん、」

 瞬間、楓が扱っているキャラクターが倒れた。

「変な声出すなって、」

「えー!なんでー?」

 言わなくてもわかるだろ、というのが俺の心境だか敢えて言わせてもらおう。

「わかるだろ、」

「ふーん、そうなんだ。」

 途端、悪戯な笑みを浮かべて、顔を赤らめた。

 非常にエロい。というか色っぽい。

 キャミソールがはだけて、そのうちに秘めた豊満なやつが出そうになってる、というかちょっと出てる、先っちょじゃないぞ。

「こんなのはどう?」

 そう言って楓は、下着の上の部分をゆっくりとずらし始めた。

 本当に見えそうだ。

 恥じらいを持った笑みというのがやはりまた刺さる。

「こんなすけべな楓にはお仕置きが必要かな、」

「……え?」

 そう言って俺は楓の両肩を掴み、ベットに押し倒した。

 顔が近い、両者共に赤面、プラス少しの恥じらい。

「————するの?」

「したいのか?」

「…………言わなくてもわかるでしょ、」

 目を背けた、だが体は背けない、なぜなら俺に床ドン状態にされているからだ。

「わかった。」

 俺はゆっくりと楓のキャミソールに手を近づける。

 いい匂いがする、花の匂いだ。

 多分シャンプーの匂いだろう、何を使っているのかは聞きたいところだ。

 キャミソールに手を触れた。

 ゆっくりと脱がす。

「大ー!ご飯よ!!早く来なさい」

「はーい。」

 母からの伝言でムードが台無しになってしまった。

 それにしても、気まずい。

 緊迫した状態で見つめあっている。ひょっとしたら十分後には色々オッパじまってたかもしれないと言うそんな状態を想像してしまう。

「あ、後にしよっか。」

 後でと言ってしまった。

 つまり後でヤッてしまうのだ。

 この手で楓を犯してしまうのだ。

「う、うん。そうしよ。」

 楓の顔が文字どおり楓のようだ、朱に染まるとはこのことか。

 俺は楓を床ドンから解放した。

 少し心がつーんとする。楓と離れたことへの損失感だろうか、不思議ともっと近づきたいと思った。

 

 夕食にて。

 

 階段を下り、皿準備した。その時、お互いに目を合わせないようにしていた。

 合わせると顔が熱くなるからだ。

 一通り終わったところで、みんなでいただきますの挨拶をした。今日はハンバーグだ。贅沢に二個ある。一つはデミグラスソース。もう一つはポン酢の味付けだ。

「おばさんのご飯美味しいです!」

 楓がハムスターのように頬張る。可愛い。

 溢れ出るこの小動物感はなんだろう、守ってあげたくなる雰囲気はどこから出るのだろうか。

 そう思っても口には出さず心のうちに秘めた。

「まぁなんて嬉しいこと言うのかしら、はい、これ大の分だけどあげちゃう。」 

 母さんがそういうと、まだ手をつけていない俺のハンバーグを楓の皿に乗っけた。

 悪魔か、邪智暴虐とはこのことか。

「おい。」

 変にキレることはできない、と言うかしたくないので、ツッコミを入れる形で言った。

 もちろん、手でお母さんにずしっとした。

「そういえば楓ちゃんは。やっぱりいいや。」

 お母さんは何かを言いかけた。何を言いたいのかは知ったこっちゃないまあいいや。

「なになに?」  

 いいや気になる。俺はめちゃくちゃ気になるぞ。

「いやなんでもない。」

 どうしたんだろ、やけにしゅんとしている。楓もだ、なぜ母の前だとうつむくんだよ。いつもあんなに元気じゃん。

 なんか隠されてる?そんな疑問もある。あとで楓に問い詰めてみよう。

 

 食後。

 

「おい、楓。」

 ご飯を食べ終えて、俺は楓に何を隠しているのかを問いただそうとした。

「あ、ごめん帰るね。さよなら。」

 聞こうとした途端、楓は家を出た。不穏だ。いつもじゃない。いつもなら帰るね!また明日。と言って帰るのだ。なのに今日はいつもは使わない。"さよなら"と言った。それにいつもよりしゅんとして帰っていった。

 (なんなんだよ、はっきりしろよ。)

 いつもとは違う、ちょっと暗い雰囲気に心が不安一色になりながら。床に着いた。

 

 朝。

 

「んー、おはよ。」

「ああおはよう。」

 お母さんとおはようした。お父さんは単身赴任で家から離れている。

「あれ?楓は?」 

 いつもなら楓がいる。というか起こすのも楓だ。

 生活の一部なのだ。

「楓ちゃんから聞いてないの?」

 お母さんが動揺しながら聞いてきた。

 どういうことだ?話?昨日のことか。そんなの聞いてないよ。どういうことだよ。

「何?何も聞いてないけど。」

「そう、聞きたい?。」 

 お母さんがそう言った。その声に嫌な予感を覚えた。なぜだろう。どこか怖い。

「うん。」

「楓ちゃん。引っ越しちゃったのよ。親が単身赴任で、みんなでついていくみたいなの。」

「は?。」

 え、どういうこと。は、じゃあ、楓とはもう会えない?。嫌な予感は的中した。嫌だ。嫌だ。なんで言ってくれなかったの。

「待って、まじで、どこにいくの?」

「長野県よ、長野の南木曽ってところ。」

 長野県。田舎じゃん。なんでそんなところに単身赴任するんだよ。便も少ないし行きずらいじゃん。楓に会いたい。早く会いたい。

「長野県?上じゃん。」

 俺は愛知県の犬山市に住んでいる。明治村や犬山城があるところだ。そこから長野なら、割と近いか。

 全くふざけるな、せめて昨日には言わせてくれよ。

「そうね。」

「ごめんお母さん行ってくる。」

 そう言って部屋にある貯金を握りしめて家を出た。

 最後に何かお母さんが言いかけてきたが、そんなの知らない。今は走ることに集中するのだ。走れ!。走れ!。

 今なら李白の気持ちがわかる気がする。本当に大切な昔からの親友。その親友との別れの辛さ、寂しさ、最後は胸張っておくれなんて無理な話だ。何を言っていたんだ俺は。

 以前の国語の授業で、黄鶴楼にて孟浩然の広陵に行くを送る。という作品を学んだ。あの作品を「クソ以下」と評価した俺。

 今はわかるなぜ李白は最後まで寂しさに沈んだのか。

 電車に駆け込んだ。

 そこから豊橋へと向かう。豊橋まできた。豊橋から飯田線に向かう。長野県へ通じる唯一の電車道だ。

 豊橋から飯田線に乗って、進む、日がどんどん登っていく。日が沈まぬうちに向かいたい。早くしてくれ、早く。会いたいよ、楓。

 死ぬ気で時又駅まで来た。

 日が上り切った。正午だ。

 腹が減った。そういえば、朝ごはんも抜いている。忘れていた。まぁいい。とにかく今は走れ。走れ。時又から死ぬ気で走った。息が切れようと、信号が赤だろうと。目の前が林だろうと。走った。そうした結果、山本というところまできた。

 だが、ここからは山道だ。なんなら峠だ。熊も出そうだ。どうしよう。少し怖い。だけど、楓のためなら行ってやる。

 そう言って峠道へと足を踏み入れた。

 舗装されている道もアスファルトがはげているところがある、ボロボロだ。木が倒れて道を塞いでいる。だがそんなことはお構いなしだ。こんなことで諦めてたまるものか。年輪の数がすごい気を飛び越した。

 太陽が西に傾きかけている。だが、そんなことは関係ない。太陽が沈むよりも早く走れば良いだけだ。

「うわぁ。」

 ごろんと転んでしまった。

 両足が擦りむけた。血だらけだ。ついでと言わんばかりに腕の節々も気がつけば擦りむけている。服もところどころ穴が空いている。

 それでも走るのだ。楓と会うために。————大好きだから。

 走れ、走れ、そう言い聞かせて走る。目の前にどんな猛獣がいようと、無視して走った。何があろうととにかく走った。

 峠道を走り走り走り抜いたとき。目の前には何軒もの家がたった集落が見えた。きっと、ここだ。ここに楓がいる。そう思った。同時に安心が来た。

 ゆっくりと集落を歩く。すると、某引越し会社のトラックが見えた。ここだ。そのトラックを見た瞬間俺は可能性が確信に変わった。ここに絶対楓はいる。そう思った。結果、また走った。そこまで長い距離ではなく、短い距離ではあるが、それでも一秒でも早く楓と会いたいから。

 家の庭を駆け抜ける。大きな庭だ。だがそんなことどうでも良い。家の中に入った。もちろん靴は脱いだ。

「ん?え!?!?だ、大ちゃん。」

 楓がいた。非常に驚いている。

 それもそうだろう。別れると思った男の子が目の前にボロボロになっていたんだ。

 目つけた瞬間俺は楓を抱きしめた。強く強く抱きしめた。この世で一番大切なものだからだ。

「もう、痛いよ。」

「ご、ごめん、でも。ぐすん。」

 俺は泣いてしまった。怖かった。もしかしたら一生会えないのかもしれない。もしかしたら道中熊に出くわしてたかもしれない。そんなことを考えるだけで涙が溢れた。

「もー、いつもは私が下手だけど、今日は上だね。」

 そう言って、俺の頭を撫でる。柔らかい。暖かい。この温もりが一番心地が良い。

「なんで、何も言わないで出ていくのさ。」 

「それは、、言いづらかったの。なんかいうと泣いちゃいそうだった。」

 顔を顰める。俺は今楓の胸の中だがわかる。この声はそうだ。

 幼馴染を舐めるのではない。

「楓。」

 俺は楓の胸から離れた。よし、言おう。なんだかんだキスまでしておいて、いえていなかったことを、長い時間一緒だったのにいえなかったことを。

「な、何?」

「俺、やっぱり楓が好きだよ。何よりも大事だ、愛してる。ほんとに好きだ。大好きだ。」

「な!?」

 俺が叫ぶようにいうと、楓は口を押さえて赤面した。顔がとても赤い。熱を出しているようだ。

「ずっと、言って欲しかった。私も大ちゃんのことが好き。大好き!!。」 

 そういうと、楓は俺に抱きついてきた。ああ、これだ。やっぱり楓とのハグが安心する。ハグを数分した後。俺は楓と見つめ合った。そのまま楓はキス顔をしてきたのでキスをした。

「あらあら〜。」

「「ん!?!?」」

「い、いやーすごいねお熱いですなー。」

 んー?!?ふと横を見たら楓のお父さんとお母さんがいた。

 楓に夢中になっていて、ここが楓の一家の家ということを忘れていた。ということは、お父様とお母様の前で堂々と抱きしめてキスをしてしまったのだ。

「あ、仲良くさせてもらってます。」

 いきなりすぎてそのようなことしか言えなかった。仕方ないだろう。うん、そうだ。

「うーん、やっぱりそうしましょうか。」

 楓ママが何か楓パパと相談している。一通り話して納得し終わったのかコソコソ話は終わった。

「大くん。楓を大くんの家に住まわせてもらうことってできる。」

 楓ママからの質問が飛んできた。なんだそんなことか、そんなことならば非常に簡単だ。というかこっちからお願いしたいくらいのことだ。

「ええ、もちろん。嬉しいです。」

 楓と一緒に住むことについては全然オッケーだから即答した。

「なら、楓をよろしく、大くん。」

 楓パパからのお願いもあるので、楓と一緒に帰ることにした。

「それにしても……」

 楓が何が言いたげだ。その姿も可愛い。楓中毒かも俺。

「どうしたの?。」

「そんな血だらけだし、とりあえずお風呂入る?。」

 ふと自分の体を見た。足や手からは血が出ている。こんなの名誉の傷だ、どうでも良い。だが、見た目はよろしくない。

「風呂、沸かしておくわね。」

 楓ママはそう言って、風呂場へと赴いた。

 こうして、俺は楓との再会を果たして、一緒に暮らすことになったのだ。

 大切な存在は絶対に離さない、この思いもしっかりと忘れないでいこう。楓を見て思う喜多林大なので合った。

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