新しい時代に足跡をつけるバンド

@kaki__n3030

第1話

私はギター。


なんの変哲もないただのギター。

いや、変哲はあるか。かなり使い込まれてるからボディはボロボロで、あちこちテープで補強されてるし、パーツも取れかけ。

産業廃棄物一歩手前。

なんなら滅多に人がこない部屋の一室で埃だらけになってたからもう自分ですらゴミだと思っていた。

私の持ち主も存在を忘れているだろう。

この部屋の持ち主は私の持ち主でもない事からお察しだ。

最後に光を浴びたのはいつだったかな。

演奏してもらえたのは?

なんなら、持ち主に弦を弾かれたのは?

手に取ってもらえたのはいつだったろうか?

ああ、あの時のステージは良かったなぁ…。


なんて、過去を振り返りながらボーッとする日々だった。



そんな私が今日はざっと3000人弱ぐらいの前で照明を浴びている。


なんだこの熱気は?

人の多さは?

こんなステージ知らない。

だって持ち主もこんな楽しそうに演奏してなかったじゃないか。


いや、変わらないものもある。

ボーカルは年月も感じさせないぐらい、そのままの容姿だし相変わらずの暴君っぷりだし、関西弁どこ行った?きも。

でも、ずっと楽しそうに歌ってる。

手元には私のよく知っているマイクと知らない白いマイク。

あのマイクはいつもボーカルが連れ回してたっけ。ポッケに入れてどこにでも連れて行ってるらしい。


リーダーは今日が誕生日らしい。八重歯は相変わらずだし笑顔が変わらない。

彼の手元にも見知ったギター。

彼が従兄弟からもらったというギターだ。

お前もいるのか?


ベースはとても痩せていた。が、喋り出すと相変わらずのアホだ。ほんと、よくベースが弾けるなって思う。練習しててもよくわからないことばかり言っていた。

彼の手元にも私の見知ったベース。


ドラムも全然変わらないな。とても上手い。けど音を聞けばわかる。彼が親からもらったスネアドラムだ。私の持ち主と同じく年下組でいつも一歩ひいていて視野が広い。


あれ…?あのサックス…。

あの暴君ボーカルがパチンコの景品で交換させたやつだ。まて、太り過ぎでないか?

お前?ストレスか?暴君にやられてるのか?

なんだか小難しい機械が増えているな…。



音が鳴る。

音が鳴らされる。

鳴らされる度に落ちそうになるパーツ。

塗装が剥げかけた部分がくすぐったい。

持ち主のギターヒーローは相変わらずのロン毛だがストレートからパーマになっていた。

さらに驚きは昔は人の目を見るのも嫌そうで前髪の伸ばして私とずっと見つめ合いながら演奏してたのに

とても楽しそうにヘアバンドで前髪をとっぱらい観客と目を合わせている。



きっと長い月日が経っていたんだろう。

あの狭いバンで全員が私たち楽器と一緒にメンバーが運転を交代しながら各地のライブハウスを回ってた時から

きっときっと色んな事があったんだろう。


観客がゼロだった事だってあった。

殴り合いの喧嘩したことだってあった。

彼がグループから抜けた時は残念だった。

アイツがいなけりゃ解散だってしたかもしれない。


私の知らない時間が経っていた。


でも忘れられていなかった。

私の持ち主はちゃんと私を覚えていた。

嬉しかった。

持ち主が一枚一枚貼ったステッカーが私の勲章で。


この熱気も人の多さも

こんなステージ知らないけれど

きっとメンバーそれぞれが頑張ってきた証拠なのだろう。

持ち主がこんな楽しそうに演奏している。


私の持ち主のギターヒーローが輝いている。

そして私はそんなギターヒーローを輝かせる一部に再びなれている。


そんな一曲を再び奏でられるこの機会に感謝を。

また一緒にステージに。



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