第22話
氷花と風藍が結婚してから十年が経ちました。
二人は仲が良く、おしどり夫婦と周囲から呼ばれています。子も生まれていました。三人います。男の子ばかりですが両親をしたってくれています。つららもあさぎとめでたく恋がじょうじゅしていました。氷花夫妻よりニ年遅れて結婚しています。
「……王妃さま。今日はへいかのお誕生日ですね」
「ええ。今ごろ、あさぎともえぎたちは大騒ぎでしょうね。月藍(げつらん)や風月、氷雪(ひょうせつ)も乗り気なようだし」
氷花が言うと侍女は笑います。ちなみに月藍は長男で風月が次男、氷雪は三男です。風藍と氷花の子供たちになります。
月藍は九歳ほどですが。王太子として優秀だともっぱらの評判でした。風月は七歳で氷雪が五歳です。
「……王妃さまは何かを考えておいででしょうか?」
「……わたしは。例年のように氷に閉じこめたお花を作って贈るつもりよ」
「そうなのですね。へいかもお喜びになるでしょう」
侍女が言うと氷花は笑いました。この十年で彼女は気品あふれる高貴な女性に成長しました。けど素顔は穏やかで素直なままです。侍女はそれをよく知っています。
「王妃様。お昼になったら食堂に行きましょう。厨房の者たちがうでによりをかけて作ったお料理が待っていますから」
「そうね。わかったわ」
氷花は頷くとお茶を飲みます。侍女は一礼して部屋を出たのでした。
お昼になり氷花は食堂に向かいます。
すでにへいかこと風藍や月藍たちがそろっていました。
「あ。母上。いらしたのですね!」
「ええ。月藍たちも来ていたのね」
氷花が答えると月藍がこちらにやってきます。
「……母上。今日は父上のお誕生日です。贈り物は持ってこられたのですか?」
「持ってきたわよ。前と同じものだけど」
氷花はそう言うと月藍と共に風藍たちのもとに行きます。いすにすわると風藍に贈り物を手渡しました。
「……あ。氷漬けにした花か。相変わらず綺麗だな」
「風藍様はつばきが好きでしょう。それを氷漬けにしてみました」
氷花が言うと風藍はにこやかに笑います。本当にうれしいのねと内心でおもいました。
「……ぼくたちからは父上の似顔絵と剣につけるかざりです。似顔絵は氷雪が描いて。かざりはぼくと風雪が二人でつくりました」
「ほう。似顔絵は氷雪がかいたのか。かざりも月藍と風雪が作ったと。がんばったな」
「はい。兄様たちみたいにはできないけど。いっしょけんめいかきました」
「えらいな。見せておくれ」
風藍が言うと風雪は丸めたかみを手渡してくれます。広げてみると一人の男性が笑っている絵がかかれていました。小さい子なりにがんばってかいたのが伝わってきます。
「……ふむ。なかなかのできじゃないか。ありがとう。風雪」
「はい。よろこんでいただけて嬉しいです」
「月藍と氷雪のも見せておくれ」
「月兄上といっしょに作ったんですけど。わたしは不器用で」
「そんなことはない。まあまずは見てからだな」
風藍が言うと月藍と氷雪は顔を見合わせます。それでもおずおずといった様子で小さな紙包みを手渡しました。開けてみると青の房かざりが二つ入っています。あわい青の方が月藍で濃い青の方が氷雪が作ったと二人はいいました。
どちらも丁寧に作ってあります。ちょっと不恰好ではありますが。風藍はよろこんでいます。
「大事につかわせてもらう。皆、ありがとう」
風藍が言うと子どもたちはほっとしたらしくはにかんだように笑いました。その後、お祝い用の赤飯などをみなで食べたのでした。
夜になり風藍は氷花とゆっくりお茶をのんでくつろいでいます。
今日にあった出来事をたがいに報告しあいました。
「……風藍様。今日はたのしかったですね」
「ああ。子どもたちからいろんなものをもらったしな」
「ええ。わたしも誕生日が楽しみです」
氷花が言うと風藍はお茶を口にふくみました。そうしてから答えます。
「そうだな。氷花からの贈り物も良かったぞ」
「ふふ。ありがとうございます」
「……そろそろ寝るか」
風藍が言うと氷花はうなずきました。外ではちらほらと雪がふっています。風藍と氷花はねむるためにしんしつへいきました。仲良くねむりについたのでした。
氷の花 入江 涼子 @irie05
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