第12話
氷花はお風呂から上がるとおかみさんに着替えや他にたびにひつような物を渡されました。
せんたくされた着物にうでを通すと帯を締めます。おかみさんはそれをてつだってくれました。
「……娘さん。あんた、名前は?」
「わたしの名前ですか。氷花といいます」
「氷花ちゃんかい。あたしは風雲というんだ。よろしくね」
ちょっとすごい名前だと氷花は思いました。
おかみさんもとい、風雲は「じゃあ。行こう」とお風呂の脱衣場(だついば)から出るようにうながします。氷花は言われた通りにしたのでした。
あさぎともえぎの待つ部屋に風雲と一緒に向かいます。けど風雲は隣の部屋に行くように言いました。
「……氷花ちゃん。あんたも年頃の娘さんだ。男の人と一緒の部屋で泊まるのはかんしんしない。せめて隣の部屋で寝なよ」
「……わかりました」
「あたしができるのはここまでだ。後はあんた次第だ」
「ありがとうございます」
「お礼はいいよ。氷花ちゃんが無事にお城に着けるように祈っておくよ」
そう言って風雲は自分の持ち場に戻っていきました。氷花は渡された着替えなどを手に持って隣の部屋に入ったのでした。
あさぎともえぎはどうしたものかと頭を抱えていました。氷花は確かに王妃の首飾りを受け取ってはくれましたが。
王様が彼女を受け入れてくれるかまでは予想をしていなかったのです。氷花は芯のしっかりした女の子だとは思います。
けど王様が氷花に心を開いてくれるか。それに思い至った時、二人は気づきました。王様は幼い頃に母君の王妃様から冷たくあたられていたことにです。そのせいで王様は女の人に不信感を持つようになりました。
「……どうしたらいいんだろうな。もえぎ」
「おれもそれは思うよ。王様が女の人が苦手だったのを忘れていた」
二人はふうとため息をつきます。とりあえず、氷花をお城に連れて行き、王様と会わせてみない事には何も始まりません。あさぎともえぎは仕方ないとはらをくくる事にしたのでした。
さて、隣の部屋の氷花は寝る支度をしていました。王様はどんな方なのか。
それは気になっていました。あさぎともえぎは「良い方だ」と言っていましたが。でも自分をちゃんと王妃としてくれるかはわかりません。
(……どうしたものかしら。あさぎさんともえぎさんは王様を信じてほしいと言っていたけど)
氷花はそのままおろしていた髪をゆるく束ねます。寝間着を着て寝台に入りました。目をつむるとすぐに眠気がやってきます。深い眠りについたのでした。
『……氷花』
不意に低い声で呼びかけられました。氷花は声の主が男の人だとすぐにわかりました。答えようとしましたが。何故か、声が出ません。
『そなたは王の妃になりたいだろうが。それはいばらの道ぞ。どうしてもなりたいのなら。はらをくくる事だ』
男の人はそう言うと氷花の前に姿をあらわします。黒い髪にあわい水色のひとみのきれいな男の人がたたずんでいました。
『……我と今の王は顔やかみ、ひとみはおなじだ。が、中身はまったく違う。なかなかに気難しい男だぞ』
男の人は最後にそう告げると姿を消しました。氷花はやっとこれが夢だと気づきます。最後に目の前が真っ暗になり氷花のいしきはそこで途切れたのでした。
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