第10話
氷花はヒスイの首かざりを受け取り、あさぎともえぎにあらためて「みやこに来ていただきたい」とたのまれました。
それに対して氷花は「せめてあと二日は待ってほしい」と返事をします。あさぎともえぎはことわるかと思われましたが。意外にもうなずいてくれたのでした。
そうして二日間は旅に向けての準備に追われました。氷花は大忙しの二日間を過ごしたのでした。
その後、氷花はあさぎともえぎと共に雪風村を発つことになります。お父さんとお母さん、妹のつらら、近所のおじいさんである雪之丞さん、村長の五人だけが見送ってくれました。あさぎともえぎの提案であります。
「……気をつけて行ってくるんだぞ」
「うん。お父さん、お母さん。つらら。雪のおじいちゃん。今までありがとう。行ってくるね」
「……氷花ちゃん。王様がいやになったら帰ってきてもよいぞ。わしらはいつでも待っておるからな」
「本当にありがとう。私、頑張るよ」
「お姉ちゃん。大丈夫だよ。あたしもお姉ちゃんがちゃんと王妃さまになれるように祈っているから」
つららの言葉に氷花はうなずきました。お父さんとお母さんは涙ぐみます。雪之丞のおじいさんは無理もないと思いました。お父さんとお母さんにとっては氷花もつららも可愛い娘です。手放すのは寂しいはずです。
「……氷花さま。その。よろしいでしょうか?」
「……はい。お父さんたち、元気でね。行ってきます」
氷花が手を振るとつららも笑顔で手を振りました。お父さんとお母さんも同じようにします。雪之丞のおじいさんも「達者での」と言って氷花に特製の丸薬をたくさんくれました。それを麻袋(あさぶくろ)に入れたのですが。こうして三人はみやこのある氷上に向けて出発したのでした。
ヒスイの首かざりは氷花の胸元をかざっています。といっても氷花は安全のために着物の下に首かざりをつけていました。あさぎともえぎは護衛もかねて一緒にいてくれています。
「氷花さま。氷上までは片道で五日はかかります。それはこころえておいてください」
「わかりました」
「わたしたちの足でそれくらいはかかりましたが。氷花さまの足だともっとかかるかもしれません」
それを聞いて氷花はため息をつきたくなりました。でもみやこに行かないとへいかには会えません。仕方ないと思うのでした。
半日が過ぎました。やっと雪風村から二つ隣の町まで来ました。ここであさぎともえぎはきゅうけいをしようと言います。氷花も疲れていたのでしたがうことにしました。
「……氷花さま。なにか食べたいものはありませんか?」
「……とくには。むしろ、あさぎさんともえぎさんはお腹が空いていないんですか?」
「われらに敬語はひつようないですよ。でも。そうですね。お腹はすいています」
「じゃあ。この町の食堂(しょくどう)に行きませんか。大衆食堂(たいしゅうしょくどう)だったら色々とあると思いますよ」
「そうですね。行ってみましょうか」
うなずいたのはあさぎでした。もえぎもそうですねとうなずきます。三人でこの町の食堂を探してみたのでした。
その後、町を歩く人に大衆食堂の場所をきいてみました。すると「明けの明星亭(みょうじょうてい)だったらうまい料理が出るよ」と教えてくれます。場所を詳しくきいてから三人で向かいます。少し町のかいわいを歩くと看板がありました。それには「明けの明星亭」と書いてあります。ここだと思ったあさぎは食堂から出てきたお客にたずねます。
「……ここは明けの明星亭ですか?」
「おう。そうだよ。にいちゃん、旅のお人かい?」
「そうですが」
「ここには旅人も多くくる。二階では宿屋もやっているぞ。ちょうどよかったな」
「……はあ。どうもありがとうございます」
がははっと笑いながらお客もとい、がたいのいいおじさんはあさぎの背中をばしっとたたいてその場を去っていきました。もえぎと氷花はそれを意外だという表情で見ていたのでした。
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