お子ちゃまには分かりません。
春野 セイ
最初で最後の、狂愛。
彼女は180センチ。私は、150センチ。
初めて出会ったのは高校生で16歳。クラスメートだった。
彼女の印象は背の高い子だな、と思った。
彼女は私のことをお子ちゃまと言ってよくからかった。頭を撫でられ、背後から抱きしめられ、私は彼女にとってぬいぐるみなんだなと思っていた。
私は頭が悪くて、彼女は生徒会長の上に選抜クラスにいた。
ある日、自分の席に戻ると、他のクラスの彼女がすぐにやって来て、机を見た? と聞いてきた。
「何を?」
「これだから、お子ちゃまはっ!」
吐き出すように言って、彼女は去って行った。よく分からなくて、机をよく見ると、何か書いてあった。
あばずれ女。
何のことだろう? よく分からなかったが、その言葉を読んだ時、腕に鳥肌が立ってぞわっとした。
辞書で調べると、人ずれしていて図々しい女、とあって唖然とした。
私ってあばずれ女なのかな、と一瞬、思った。
彼女とは三年間、何度も何度もケンカをした。
愛してる大好き、可愛いと言われたり、大っ嫌いも何度も言われた。
突然、やって来て、「なんであんなことを勝手にしたんだっ」とクラス中の前で怒鳴られたりした。よくある光景だったが、けっこうつらかった。
彼女はアメとムチを使い分けるのが素晴らしく上手だった。彼女ともめるたび、わたしはへとへとになった。何をしても裏目に出る。最後の方はお互い疲れていたと思う。
卒業式の日、彼女と絶交した。
彼女は、家に電話してきて「へそを曲げんな、許してや」となじりながら、友達でいてと懇願してきた。
その頃の私はもう本当にへとへとだった。
これ以上私たちが一緒にいたら、傷つけあって苦しいだけだと思う。だから、もうやめよう。さよならしたいと伝えた。
彼女から、電話越しにいろいろ言われたが、私は頑なに、彼女を拒否した。私は頑固者だった。
卒業してから数年後、24歳の時だった。
高校の友達から電話がかかって来て、彼女が癌になったから、会いに行ってほしいと言われた。
会いたくなかった。けど、会いに行った。
彼女はがんセンターに入院していて、かなり痩せていた。穏やかな顔でわたしを見て、あんたを許すと言った。
その後、彼女は退院して自宅へ戻り、私はその間に何度か会いたいと伝えたが、会いたくないと断られた。
私は、卒業式の日、傷つけたことを謝ろうと思っていた。入院しているときには、言葉が出ず謝ることができなかったからだ。しかし、会うこともなく、彼女は亡くなった。
お葬式に来てと言われたので、生まれて初めてお葬式に参列した。
帰り道、私は電車の中で泣いた。
家に帰ったその夜、また、高校時代の知り合いから電話があった。
彼女からの遺言の言葉を預かっていると言われた。
「恐い」と初めて思った。
聞きたくなかったけど、聞かないの? 人でなし、と言われると、聞くしかなかった。
電話越しに伝えてくれた女の子は、笑いながら「あんたなんか大嫌い」だって、と言った。
それを聞いた私はほっとしていた。肩の力も抜けていたし、聞いてよかったと思った。相手に対して、ありがとうとお礼を言った。
そして、彼女と共通の友人たちと縁を切った。
今では記憶は薄れてほとんど忘れてしまっているが、彼女の激しい狂愛は、今思えば、この人生を生き急いでいたのかもしれない。
それほどまでに彼女は激しい強い人だった。
今、これを書こうと思ったのは、月日が経つうちに、記憶がどんどん薄れていってしまって、これを書くにあたって久しぶりに彼女のことを思い出したからだ。
今ではもう、ほとんど彼女に対する愛情を私は記憶していない。
感情が残っているうちに、記録を残しておけばまた、違ったのかもしれない。
お子ちゃまには分かりません。 春野 セイ @harunosei
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