ふたりダラダラキッチンドランカー

森上サナオ

一品目 鶏レバーのミートパイとバターソテー

第1話 鶏レバーのミートパイとバターソテー


 パイが食べたくなった。なんかこう、肉肉しいやつ。


 春の嵐というやつなのか、けっこうな雨が降った。

 雨が降ると、農作業の手伝いのバイトは休みになる。

 今日は土曜日で、大学はもちろん休み。一日がぽっかり空いてしまった。

 午前中はファミレスに出かけて、書きかけの小説を進めようとした。でもまったく筆が進まず、やけっぱちに料理でもしてお酒呑んじゃおう、と思った。

  

 スーパーで牛豚合挽き200g 320円が276円になっていた。その隣に、鳥レバーを見つける。

 そういえばあおいさんとりレバー好きだったな、と思ってカゴに入れる。

 まあ、材料費は上がるけど……葵さんからもらってる食費もあるし。

 さらに、セロリ一本が半額85円、パセリも半額53円を発見。これも追加。香味野菜はなんぼあったっていいですからね。

 パイシート、家にあったっけ……?

 去年の年末に買ったやつが残ってたかも……あれ、全部使ったんだっけ……?

 家にいる葵さんに電話して確認すれば分かる。けど、「冷凍庫にパイシートあります?」なんて質問してみろ。葵さんのことだ、自分が食べたいメニューを一方的に告げたあげく、目を輝かせてつまみ食いするに決まっている。

 ……いいや、買ってこ。

 パイシート、四枚入りで380円か、結構するな……。


 家に帰って、とりあえず鶏レバーの下処理をする。

 レバーは半分にカットして、中に残っている血を洗い流す。ついでに、レバーにくっ付いてる心臓ハツも同様に処理しておく。


 セロリとパセリはパイに全部使おう。中途半端に残しても冷蔵庫の肥やしになってしまうだけだ。それに、レバーの処理がちょっと甘くても、アホほど香味野菜入れれば誤魔化せるだろ、というものぐさな打算もあった。


 僕はプロの料理人じゃない。自分が食べたいものを作って食べるのが好きなだけだ。だから手を抜くところは抜く。

 あとスパイス。肉料理はとりあえずクミンぶち込んでおけばそれっぽい味になる。このチート技を覚えてから、肉料理が楽しくなると同時にすべて同じ味になった。なぜだ。


 パイの具を味見する。塩こしょうとスパイスだけだと、ちょっとコクが足りない。

 こういう時はジャパニーズショーユーに限る。……のだけど。


「あれ、醤油がない……」


 まあいいや。中濃ソースで。


 フライパンにソースを一回ししていると、ぺたぺたぺたと足音が近づいてきた。

 ツマミの匂いを嗅ぎつけて、がやって来た音だ。

 まさに猫のような、好奇心を詰め込んだビー玉のような瞳。

 形の良い鼻を、ひくひくさせて漂う香りを嗅いでいる。

 ショートボブの黒髪にドキツいピンクのメッシュが走る。

 グラビアアイドル顔負けの体をだぼっとしたニットで覆い、そこから紫のレギンスに包まれた足がひょろっと出ている。

 渋谷辺りでナンパされてそうな見た目だけど、あいにくここは築八十年のボロい日本家屋だ。


「やったあ〜、ひなたくんありがと〜」


 開口一番言うのがそれか。


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