勘違い

 まあ、好き勝手自由に生きている莉子と一緒にいるのは自分も楽しいけれど。

「そんなことよりさー、男子との何か良い話はないの? 芽衣とか美久は」

 また唐突な話題転換だ。推測すると、さっきの話に出ていた喧嘩していた男子が二人ともバスケ部のレギュラーで、割と人気のある事から出た発想だと思う。

「私はないよー。別にモテないし、弓道部もほとんど女の子だし」

 奈良原さんは莉子のこうした急な質問にも慣れているようで、平然と答える。

「自分も――」

「あるんでしょ?」

 自分の答えは莉子に遮られた。

「そんなことないって」

「えーっ、なんかー、美久って意外と人気あるよね」

「そんなことないって」

「あるって」

 しつこく食い下がる莉子。けど、言っていることは全く的外れとも言えない。


「――付き合って下さい」

 校舎裏で別のクラスの男子にこんなことを言われたのは三日前のこと。

 二回目か三回目だろうか、こうして男子に告白されたのは。――美久の時だけの話で、誠の場合は今のところこういう経験は一度も無い。――こういうことは男子の方が積極的なのが原因だからなのか、どうなのか。

 確かに美久は一般的に見れば顔立ちが整った方かもしれない。誠も悪くはなく、むしろ良い方に思えるけど……。

 あまり好きではなくても、一応不自然ではない程度に美久の方では女の子らしさが、誠の方では男の子らしさが皆無にはならないようにはしている。クラスの女子の中でも落ち着いていて、それでいて無愛想にならない程度には男子ともコミュニケーションをとっているので、それを良いと感じる男子も時々はいるのかな、と考えてはいる。


「でもそんなことには今あんまり興味ないし、もしそんないい話があっても断っちゃうよ」

「ホントー?」

 面倒な話になりそうなので、莉子には悪いけれどごまかした。

「じゃあこの前一緒に歩いていた人って誰?」

 と思っていたら奈良原さんが急に恐ろしいことを言い出した。

「だれだれ?」

 これは、ややこしくなりそう。

「そんなことあったかな?」

 平静を装うけど、あまり良いごまかし方ではないことは自分でもわかった。

「ほら、昨日浅野君と歩いてたじゃない。1階の渡り廊下のところで」

 助かったかな。

「あれは今度の文化祭準備の手伝いで職員室に呼び出されただけだよ。ほら、委員の田辺さん休んでたからその代理で」

 どうやら奈良原さんは3日前のことではなく、別のことをそういった色恋沙汰と勘違いしているみたいだ。この浅野君との文化祭の仕事はごまかしではなく本当のこと。

「そうなんだー。勘違いだったね」

「ホント? それだけー?」

 莉子はしばらく粘っていたけど、この件に関してはこちらには後ろ暗いことはないので、堂々と返事していると引き下がってくれた。

 それから話題は莉子の恋愛遍歴――よくよく聞いてみると恋愛に発展する前に終わった話や、勘違いが混じったような話が多かったけれど――に移っていき、奈良原さんに時々茶化されていた。

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