繋がらない
「みくちゃん、どうしたの? なかないで」
「泣いてないよ。大丈夫」
嬉しさのせいだと思う。涙が出ていたので、すぐに手でぬぐって涙が千夏に見えないようにした。
それから時々、誠の方でこんなことがあった、友達とこんなことをしたと話すようになった。千夏はそんな話を楽しそうに、いつかまことくんにあってみたいな、と言って聞いてくれていた。
今から思えば架空の物語を信じやすい頃で、そう言った類の中の一つだっただけかもしれないけど、無条件に受け入れてもらえたから、自分の中が何か充たされた様に感じた。
その千夏も、6歳になる時には親の仕事の都合で別の街へ引っ越してしまった。
これまで千夏以外と、二人の自分について話し込めたことはない。
小学校に入る前にはもう、他人に分かってもらうことをあきらめていた。
ある程度知恵が付いてくると自分が二人いるという空想のような話を信じてもらうには、何か目に見えるはっきりとした根拠が必要だと気づいた。
けれどそれは手に入れられなかった。実際にあると説明できるような証拠は何も見つからなかった。
例えば、お互いに連絡を取ることも出来ない。
もう一方の自分自身に電話をしようと思ってもできない。小さいうちから美久の時は誠に、誠の時は美久に何度も電話をかけてみたけど、繋がった試しはない。さっきまで親が長電話を楽しんでいたというのに、自分に変わった途端まともに電話が機能しなくなる。
手紙も何故か一通も届かないし、ネットを介しても繋がらない。
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