僕は抹茶喫茶で恋をする

天雪桃那花(あまゆきもなか)

年上お姉さんにドキッ! 恋に落ちて

 恋は突然で。

 恋は落ちるもの。


 そんな風に聞いたことがある。


 僕、恭介きょうすけは初恋もまだな男子高校生だ。

 誰も好きになった事がないのがコンプレックス。


 親友の優悟ゆうごなんか幼稚園の時にはもう、好きな女の子が何人もいたっていうのに。


     ◆


「恭介。なあ、そんなに気にすんなよ」


「えっ?」


「告白してきた子泣いてたけどさ。仕方ないよ」



 学校の昼休み。

 僕は優吾と生徒会室でお弁当を食べている。



「斉藤さんだっけ? 誠実にお断りしたんだろ?」


「ああ、まあ。誠実かどうかはなぁ。どんな断り方が正解なんだよ?」


「さあな〜。俺断ったこと無いもん」


 優悟はニンマリ笑う。


「はいはい」


 まったく気が重い。




 僕は生徒会長をしている。


 推薦でクラス代表になっちゃって立候補するハメに。


 ちなみに優悟は副生徒会長だ。

 もう一人の副生徒会長は福地ふくちさんというのだがくだんの斉藤さんと友達だから始末が悪い。

 僕は冷酷な人間だとさんざん罵られた。


「福地も言い過ぎ」


「仕方ないよ。福地さんは斉藤さんとすっごく仲が良いんでしょ? 彼女、僕に恋人とか好きな子が居ないのか? って必死に聞いてきてたし」


「しっかし色男は辛いねぇ。恭介がすっげえモテるのはその整ったアイドル顔と長身のモデルスタイルとどこか優雅な物腰だよな」


「優雅な物腰〜? なんだよ、それ。物語の王子様じゃあるまいし」


 僕は女子にモテるからって別に嬉しくない。

 だって告白を断るのが心底面倒だから。



 カノジョを作りたいとか思えないぐらい僕は友達といる時間が楽しすぎるのか。


 ころころと恋人を変える優悟だったが、友達付き合いは良かった。



      ◆



 僕が恋愛ができないのは小学生の時のトラウマもあると思う。


 同じクラスで目立つグループにいた子から告白された。


『恭介くん、好きです! わたしと付き合ってくださいっ!』


『えー、うーん』


『じゃあ、お友達になって!』


『友達? 良いけど……。同じクラスだしもう友達みたいなもんじゃないの?』


『違うのっ! お友達からってね、特別な関係なんだよ。いつか恭介くんとわたしは恋人同士になるんだから』


 大好きだって泣かれて。

 付き合えないと断る度に小学生の僕には罪悪感が胸に広がった。


 僕はその子を好きになろうと努力した。

 だけど僕はいい加減イヤになってしまったのだ。

 クラスの女子のほとんどに囲まれてその子と付き合わないのかと責められた事がある。

 うんざりだった。


 ――僕は好きだって嘘をついたら良かったの?



     ◆



 ある日、僕は優悟に連れられて『抹茶喫茶いっぷく庵』なるお店に行く事になった。 



「俺、あんな小洒落た店に一人じゃ行けない。恭介一緒に行って欲しいんだ」


「なんで?」


「なんでって。カノジョが俺にぜひとも来てほしいって言うからさ」


「ああ。優悟のカノジョ、新しいバイト始めたんだっけ?」


「なんでも制服が可愛いから俺にどうしても働いてる姿見せたいんだって」


「へえ〜。そういうもんなの?」


「そういうもんらしい。お願いだ! 恭介、頼むっ!」


 優悟の頼み、日頃なにかと世話になっているので無碍むげにはできない、恩返しだ。




 僕と優悟が『いっぷく庵』に入ると店内はまるで豪華な旅館の庭園のようだった。

 室内だけれど白い玉砂利が敷かれていて和傘や毛氈が置かれた長椅子が並んでいた。



 僕は甘味が大好きだ。

 何を食べよう?

 抹茶あんみつ、お汁粉に抹茶ティラミス……目映りしてなかなか決まらないな。

 ついメニュー選びに没頭してしまう。



「いらっしゃいませ」


 その、凛と張る美しい声に僕はハッとなって店員さんを仰ぎ見た。

 僕より年上だろう。

 着物がよく似合っている。


 ――ドキンッ!!


 にこやかに微笑むお姉さんをひと目見た瞬間、僕の胸の奥が衝撃を受けた。 

 カアーッと顔も体も一気に熱くなる。

 動悸がしている。


「――あっ……」


 思わず声が出てしまった。


 かっ、かわいい。

 それに美人だ。

 笑った表情は可愛いのに、キリッとした雰囲気がしていて美しい。


 僕は呆けたように店員さんに見惚れていた。

 彼女はにこやかな微笑みを浮かべたまま優悟の方を見た。


 あ、れ……?


 店員さんがほんのり顔を朱に染めた。


「架純。約束通り来たからな」


「ふふっ、嬉しい」


 素敵な店員さんの、弾けるような笑顔は優悟に向けられている。



 ――僕は察した。



 ……初めての恋。

 僕は、――恋に落ちた数分後、――失恋した。


 あっけない、恋の終わりだった。



「優悟、こちら俺のカノジョの架純。先週から付き合い始めたんだ。架純は大学生なんだぜ」


「はじめまして。優悟から恭介くんの話は聞いてるよ。あのね、優悟ったら恭介くんの話ばっかりでね」



 気が遠くなる。


 僕はこれからどうしたら良いんだろう。


 好きな人の好きな人は、親友。


 こんなに胸が痛い、苦しい。


 どうしようも出来ないじゃないか。


 甘い疼きに切ない胸の痛み。

 こんなものはいらない。

 叶わないなら恋なんて落ちたくなかった。


 あんなに望んだ初恋は辛くて暗い。






 どうか未来の僕が、優悟から架純さんを奪いたいと思いませんように。




 

          完



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

僕は抹茶喫茶で恋をする 天雪桃那花(あまゆきもなか) @MOMOMOCHIHARE

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画