もてりんご

おみそ

もてりんご



「ねえ、見た?」

「見た見た! 今の人、素敵だったね」

「声掛けて、連絡先交換すれば良かった」


通る人、通る人が俺に魅了され心を奪われる。

そう、俺は……[自称:フェロモン男子]

数日前、人生に三度あると言われているモテ期がやってきた。

1度目は幼少期。

訳も分からずやってきて、訳も分からず去っていった。

今さら悔やんでも仕方がないが、惜しい……惜しすぎる……


それはさておき。

ある日、俺はヤンキー女とぶつかった。


「テメェ、どこに目ェ付けて歩いてんだ?」


ヤンキー女に胸ぐらを掴まれ、顔をグッと掴まれた。

この時、ふと頭を過った──

至近距離で目が合う……

胸ぐらという心臓に程近い距離へのボディタッチ……

この女はきっと俺に惚れたな、と。


「何見てんだよォ!」


顔に女の拳が飛んできた。

照れ隠しは力加減が難しいと誰かが言っていた。


「ったく、テメェのせいで服が汚れたじゃねェか! 弁償しろよな」


今の手持ちを告げると、連絡先を書いた紙を渡された。

やはりこれは──


「へぇ。早かったな」


半日もたたずに弁償するための金を届けると、女は笑顔になった。

そして──


「……はぁ。イライラしまくったら、腹減った。テメェの奢りで飯いくぞ」


肩を抱かれるように彼女と歩く。

……周りからどう思われているのだろうか。

彼女とアツアツなカップルか?


レストランでも豪快に肉を食べる彼女はなんというか野性的で……けど、着飾らない姿を俺に見せてくれているということ……だよな。


──気付けば、彼女に金と心をすっかり奪われていた。

彼女も満更ではないし、良い関係なんじゃないか?


「はあ? もう金ねェって?」

「金よりも価値のあるものがあるじゃないか」

「……ねェから」

「あるんだよ、ホラ!」


そう、それは俺の“身体”!!

着の身着のまま、君に捧げまっす──


「こんの……変態(※形態を変えること。(辞書より引用)野郎ッ!!」


強烈な一発で俺のモテ期が終わり、残酷な現実がやって来た。


「ねえ、聞いた?」

「聞いた、聞いた! ヤンキー女に気に入られようと貢ぎまくったんだって?」

「……信じられない……全財産使ったらしいよ」


最後のモテ期は、絶対に逃さないし無駄にしない──

そう心に誓った。




(終)

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もてりんご おみそ @childollxd

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