第4話
私はサー・ガレン、エリンと共に暖かい家で静かに暮らす老騎士だ。
長い旅路を終え、彼女と穏やかな日々を過ごしてきたが、最近、私は体が少しずつ弱っていくのを感じている。咳は止まらず、息をするたびに胸が重く、足取りもかつての力強さを失ってしまった。
六十を超えたこの体は、戦場で受けた傷、果てしない旅で積み重ねた疲労に蝕まれ、もはやボロボロだ。この世界では、とても長生きした騎士だと言われるが、その長さは平穏な年月ではなく、試練と苦難の積み重ねだった。
朝、目覚めると体が鉛のように重い。エリンが庭で花に水をやる姿を見ながら、私は椅子に腰を下ろす。かつては彼女を追いかけて山を越え、剣を手に敵を切り伏せたこの体が、今は立ち上がるだけでも一苦労だ。肺の病が私を蝕み、時折襲う咳は、まるで私の命を少しずつ削り取っているかのようだ。それでも、エリンの前では笑顔を崩さない。「少し疲れただけだよ」と言い訳しながら、彼女の心配を振り払う。
この世界で六十年を超えて生きる騎士は稀だ。
多くの仲間が戦場で命を落とし、あるいは旅の途中で力尽きた。
私がここまで生き延びたのは、エリンを見つけるためだったのだろう。繰り返される人生の中で、彼女を探し続けた執念が私を支えてきた。
でも、その代償は大きかった。関節は軋み、目は霞み、手は震える。老いた体は、まるで古びた鎧のようだ。かつての輝きは失われ、ただ重たく私を縛り付けている。
エリンは私のそばに寄り添い、「ガレン、無理しないでね」と言う。彼女の手が私の肩に触れるたび、その温もりが私の心を癒してくれる。だが、同時に、彼女を残していく日が近づいているのではないかという恐れが胸をよぎる。
私は彼女にどれだけ幸せを約束しても、このボロボロの体ではその約束を果たしきれないかもしれない。それが、老騎士としての私の最後の悔いだ。
夜、暖炉の前でエリンと星の話をしていると、また咳が込み上げる。私はそれを隠し、「昔の旅の話でもしようか」と彼女の気を逸らす。彼女は笑って頷くが、その瞳には私の衰えを見抜く光がある。私はそっと彼女の手を握る。「エリン、君とここにいられるだけで、私は十分だよ」私の声は弱々しく響くが、その言葉に嘘はない。
体は弱り、命は尽きようとしているのかもしれない。それでも、私は老騎士として最後の誇りを捨てない。エリンと共に過ごすこの時間が、私の人生の全てだ。六十を超えたボロボロの体でも、彼女の笑顔を見ていられれば、私はまだ生きている。彼女がそばにいる限り、私はサー・ガレン、彼女を守り続けた騎士であり続けるのだ。
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