第40話:祭り④

皇子達が射的の参加料として500デニルをそれぞれ支払って、的から20メートル離れた射的台の前に立つ。

彼らの目の前にあるテーブルには一丁のデリンジャー型簡易魔力砲が置かれている。

皇子達の他には、先に順番を待っていた兵士2名が並んでおり、計五名で一回当たり射的が行われるようだ。

皇子達も兵士達も魔力砲を手に取った。兵士達は手慣れているため、当然のようにバレルを開けるが、皇子達は初めて扱う異国の銃に少し悪戦苦闘していた。

「やれやれ」

見かねたラーク達が皇子達を手伝う。さながら兄弟や従兄妹のように。


バレルを開けるとそこには銃本体に溶接された魔力弾が装填されている。当然取り出すことはできないが、通常の火薬式銃であればリムとその中心に雷管がある弾薬底部には、雷管は無く真鍮色の底部がフラットになっており、そこには魔法陣が刻み込まれている。

通常であれば、様々な魔法を弾丸に込められる軍規格の魔法陣が刻み込まれているが、払い下げられる際に民間流通用のそれに書き換えられて払い下げられるのだ。

再び殺傷兵器に加工しようとしても、払い下げ時に強力なセキュリティがかけられており、無理に加工しようとすれば銃全体が破壊され二度と使えなくなる様に安全対策が施されている。

使用者が魔力を充填する際は、魔法陣に指を当て魔力を送り込んで充填していく形になる。


ラーク達の助けを借りてバレルを開けた皇子達は銃弾に刻み込まれた魔法陣に指を当てる。

三人共目を閉じ、指先に意識を集中させ体内魔力の操作を始めた。


「ほー・・・」キャメルが感心したように呟く。

「若いのに3人共魔力操作がうまいじゃん。特に一番年下のルシンダは魔力の流れが丁寧だね。」


「アルバータ嬢も穏やかだけど力強いわ、海兵隊に欲しいわね。」


「皇子殿下もなかなかやるぞ、一番パワフルな魔力を持っているみたいだな。あれは陸軍の白兵戦部隊でも十分通用するんじゃないか?キャメル」

「確かにね。あれだけコントロールがうまいなら即戦力だねー、流石は皇族と言う所かな。よく修練をしているよ。」

「それと比較するとやっぱり修練していない兵士はやっぱり難しいみたいね。しかもまた海兵隊のメンバーだし・・・軍にはせめて基礎魔力操作位は習得させるように上申しないと・・・」

アヤメが顔を手で覆いながら頭を抱える。


「確かに、これではちょっと格好がつかない。いくら手軽に魔法弾が使えると言っても工場で生産した弾丸を使い切ったら野戦では自分たちで充填しなきゃならんのだぞ?俺も帰ったらカールトン閣下に上申しておく。」

自らも溜息をつきながらラークがやれやれと言う感じでアヤメの溜息に応えた。


その当事者の兵士の方はと言うと、何とか体内魔力の錬成は行えているが、銃弾に込めるための魔力操作に手こずっている。あれでは十分な魔力の充填は難しいだろう。


『そこまで!充填を終わって下さい~』

店主の声が響く。

どうやら、制限時間まで充填した魔力で魔法弾を撃つルールの様だ。

「なるほど、これなら魔力錬成の力量に応じて発射した魔力弾の威力や射線の安定性が決まるというわけか。」

ラークが感心したように手を打った。

「確かにこれだと効果的な魔力錬成の訓練にもなるね、これも帰ったら閣下に上申して訓練に取り入れてみようか?少なくとも陸軍では取り入れようと思う。」

「そうだね、海兵隊には絶対にやらせようと思う。」

「さて、殿下達はどうかな・・・?」

ラークが視線を動かした先には、既に満タン迄充填を終えた銃を手にすでに準備を整えた三人兄妹がいた。


「ウォーロック閣下・・・殿下達は将来が楽しみですな、と言うより純粋な個人の魔法力での勝負だと、私たちの兵では手も足も出ないかもしれません。残念ながら。」

「確かに皇族という事もあり殿下たちは魔力操作の修練は積んでおります。攻撃や防御等様々な魔法も修練していますので、1対1なら三人共十分な戦闘能力を持っていますよ。殿下達は。」


「なるほど、それではそろそろ射的も始まるみたいですし、見学させてもらいましょうか・・・」

ラークの声に四人が向き直ると、皇子達は既に銃を構えて20m先の的に狙いを定めている状態であった。


「店主、あの的は何でできているのか?」

「ミスリル合金ですよ。魔力が当たれば一時的に色が変わります。万が一にも破壊されないようにミスリルを使っております。」キャメルの問いに店主が答えた。

「それなら大丈夫か・・・」

「どうした?キャメル」

「いや、皇子達が持っている銃から感じる魔力がかなり多いのでな。的や周囲の建物が大丈夫か気になったんだ。」

「それなら的の後ろにもあの通り防御壁を立ててますので大丈夫だと思いますよ。」店主がキャメルの懸念をぬぐうように話しかけて来た。

「そうか、万が一的を破壊したら申し訳ない。」

「あははは、今まで壊されたことは無いですがねぇ。多分大丈夫でしょう。」


「それでは皆さん、撃ってください!段数は二発、当たれば点数に応じて景品、外れてもダビドゥス名物『イカの一夜干し詰め合わせ』を参加賞で持って帰れますよ!」


まずは二人の兵士が引き金を引いた・・・が、充填された魔力が安定していないのか、的に届く前に霧散してしまった。二発目も同様、がっくりと肩を落として彼らは引き下がった。

「やはりこうなるか・・・」ラークが納得の表情をしている。


皇子達も兵士の様子を見ながら、やや自信なさげに自らも銃を構え引き金を引く。


その直後、何かがひび割れる音がした後、爆発音と砂煙があたり一面に立ち上っていった。

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