第16話:旗艦白兵戦(1)
まず敵旗艦右舷から侵入したキャメルの部隊は、即座に侵入者を排除しようとする艦の防衛部隊に遭遇することとなった。
「ラークは陽動から無事撤退できただろうか・・・」
そんなことを考える余裕もなく旗艦防衛部隊が彼の首を求め押し寄せてくる。
キャメルは強化魔法を組み込んだシールドで防御力を高めた隊を前面に押し出し、後方から魔法銃とクロスボウで射撃させる戦法を取り、着実に支配エリアを拡げていった。
防衛側も応戦はするが、侵入の感知と伝達が遅れ迎撃態勢を十分に取れなかった。通常であれば防衛側も当然装甲服を着用しているが、半数は軍服着用のままで迎撃せざるを得ない状況だ。
対物理と対魔法の術式を組み込んだ強化装甲服を装備しているキャメルの部隊からすれば対応が遅れていることは一安心ではあるが、迎撃態勢が整えば地の利と物量の面でキャメルたちが不利である。アヤメの隊と連携を取って早期に攻略したいところだ。
『アヤメ、そちらはどうだ?』無線で彼女を呼び出すが、応答がない。
『アヤメ、無事か?』やはり返事がない。
「ジャマーでも散布されたか?」
そこでキャメルは副官に呼びかける。
「ビディ大尉!ランバージャック少佐と連絡がつかない。周囲の通信状況を確認してくれ!」「はっ!」
ビディと呼ばれた男はポータブルの端末を手に周囲の状況を検知し始めた。物の十数秒で結果が出る。
「少佐殿!やはりジャミングです!それも魔法によるものです。術者か魔道具を破壊せねば通信は回復しません!」
「わかった。ジャミングの発生源を調べろ、急げ!」「はっ!」
ビディが再び端末に向かいながら今度は魔力のソナーモードに切り替え、ジャミングの発生源を探し始めた。
一分後、発生源を検知したビディがキャメルに進言する。
「少佐殿、ジャミングの発生源はこの通路にありますが少し距離があります。恐らくあの200メートルほど先の天井に取り付けられている黒い端末がマジックジャマーと思われます。あれを狙撃すれば通信は回復するかと。ただし、ランバージャック少佐のエリアにも仕掛けられている場合そちらも破壊せねば通信は回復しません!」
「わかった!アヤメの方は放っておいても自分で気づいて何とかするだろう。こちらはこちらでやるしかない!ラデン中尉!やれるか?!」
「あの距離なら特に問題ないですね・・・まぁやってみます。」
ラデンと呼ばれた男はサモンズとコレクトの混血の末裔で、いくつかの種族の血が混じって今に至っている。彼の代でネコ科獣人の特徴が発現した
ラデン自身は「男女どちらでもお互いが好きになれば問題ない、無理やりだけはダメだ」と言う考え方で、特段男性からのアプローチも冷たくあしらう事が無い為、男女問わず人気である。
ただ、彼の恋愛遍歴は一切語られないうえプライベート休暇中の彼はふらりとどこかにいなくなる為、謎の多い部分でもあるのだが・・・
ラデンは左手を伸ばし、『
彼は一般兵には珍しく、小さいながら異空間を作り出す亜空間魔法を使う事が出来、銃や刀剣類など小型の武器類であればそこに格納して戦闘に応じて取り出すのだ。ただ、あくまで格納するだけで時間が止まったりすることは無いので、腐敗しやすいものや変質しやすいものは入れられず、彼は武器や防具の類のみ格納している。
そして、ずるりと引きずり出されたそれは、
ラデンは
敵の攻撃は当然ながら止まるわけではないが、ラデンは至近に攻撃が飛んできても慌てることなく冷静にターゲットを狙うと引き金を引いた。
火薬の乾いた音と共に、弾丸が飛び出し一直線に端末に向かっていく。吸い込まれるように端末に弾が命中した次の瞬間、端末そのものが爆発音を立てて破壊された。
敵の指揮官らしき人物がその音に驚いて振り返り、しまったという表情をした。
「少佐殿、やはりあれがジャマーの様です、ランバージャック少佐にコンタクト回復しましたか?」
「あぁ、流石だな・・・こちら陸軍少佐メビウスだ!海兵隊ランバージャック少佐、聞こえるか?!」
「あー、漸くつながった。遅いよー、そっちもジャマーがあったんならさっさと潰してよー」
戦闘中なのだろうがいやにのんびりした口調であやめが通信に応じた。
「左舷側はほぼ制圧したよー、こっちは部下に任せてそっちに向かうよ。捕虜から艦内地図は貰ってるからー」
「頼む、恐らく右舷側の方が人員配置が多かったようだ。武装はそれほどでもないが人数がなかなか減らない。来てくれると助かる。…それにしても突入して30分もたっていないぞ?いくらそっちの敵が少ないと言ってもよくこの短時間で制圧出来たな。」
「まぁ、そんなに強くなかったからねー。とりあえず向かうよ。待ってて!」
「あぁ」
通信を終了するとキャメルは部下と敵に向かって声を張り上げた。
「左舷側の敵は海兵隊が制圧した!間もなくこちらに増援が来るぞ!あと少し耐えろ!」
増援と聞いた味方から鬨の声が上がり、敵からは同様のざわめきが聞こえた。
この瞬間、大勢はほぼ決していた・・・
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