第8話:悲劇と報復
当時、クルツ共和国軍に従軍中のアルマと言う名の兵士の従軍報告書が残っている。
この報告書ですら指揮官のフルネームが出てこないのは御愛嬌と言うものだろうか?
青髪の指揮官曰く、「これ以上は長引かせられん。砲兵隊を横列に展開させ、砲撃準備を。最終調整の為に魔導士達も呼んでおくように」
「はっ!」
敬礼と共に副官が足早に場を離れる。
間もなく、口径だけであれば70センチはあろうかと言う巨大な砲身5門が、
「砲撃用意、装填準備!」
指揮官の命令と同時に一斉に兵士達が弾込めに取り掛かる。
「弾薬は
その言葉を聞いたとき、アルマは脳内に違和感を感じた。
『確か0型は広範囲作用の焼夷と爆破魔法弾ではなかったか?』
それが記憶違いでないと分かった時、彼の顔は青ざめた。
『殲滅する気だ・・・一人残らず』
気づいたところで彼に止める権限があるわけでもなく、準備が着々と進むのを眺めている事しかできなかった。
また、サモンズ側も深い森林で覆われた丘陵地の地形を生かし、部隊を展開しているのは分かるが姿をなかなか見せず、どの程度の範囲まで舞台を広げているのかが掴みづらい状況であった事も指揮官に広範囲兵器の使用を決断させた一因であった。
準備が整った砲兵隊を待機させながら、指揮官が拡声器のマイクを手にサモンズに投降を呼びかける。魔法による音量増幅と指向性の強化により、5キロ以上は先のサモンズ達の陣地にも声が届く優れものである。
「今であれば投降も認めよう、今すぐ出てくるが良い。ただし砲撃開始後に投降に応じる事は無駄だと予め告げておく!返答は如何に!?」
『・・・・・・』
数十秒の沈黙が流れ、指揮官が再度マイクを手にし、声を発した。
「諸君らの意志は分かった。これより砲撃を開始する、これより先の命乞いは無駄であると覚悟するように!」
マイクを置くと副官に向き直る。
「まずは威嚇射撃と威力の確認だ。我々もこの砲弾を使った事は無いし、テストの意味合いもある。攻撃範囲を把握するうえでもまずは1発お見舞いしてやれ」
「イエス・サー」
低く短く返答し、副官は砲兵隊に指示を飛ばす。
「1番砲、砲撃準備!」「はっ!」
短い返事と共に砲撃準備に取り掛かる。
砲身の後部より弾薬が装填され、蓋が閉められ手動で角度調整がされる。
「砲撃準備完了致しました!」「よし、発射に移る!」
砲撃手がトリガーを構え、上官の合図を待つ体制を取る。
「よし、それでは・・・
トリガーが引かれ、その瞬間轟音と共に魔力のこもった砲弾がサモンズ達の陣地に放たれた。緩い放物線を描きながらサモンズ達の陣地めがけて砲弾が飛んでいく。
しかし、わずかに軌道計算が甘かったのかサモンズ達の陣地約1.5キロ程手前の位置に着弾した。
その瞬間、両軍の間に巨大で強烈な火球が出現し、膨大な衝撃波と熱が襲い掛かった。
3.5キロ程離れていた国軍は強烈な衝撃波に揺さぶられ、未発射の残り4基の砲門が軒並み横転した。また、斥候として最前方に展開していた小部隊では衝撃波により体中の骨を砕かれ即死した者、全身を木っ端みじんに粉砕された者、炎により一瞬で消し炭になった者等、20名ほどの小部隊の内生存したのはたった1名と言う有様となっていた。
彼らより後方に下がっていた部隊でも衝撃波により飛ばされた石や木片等に直撃された者、熱風により火傷を負う者等負傷者が多数発生した。
本陣はかろうじて重傷者こそいなかったものの、軽傷者が多数出る被害を被っていた。尚且つ、折角そろえた砲兵隊も横転によりしばらくは使えない状況となっていた。
サモンズ側についてはさらに被害が甚大なものとなった。本陣が国軍側より着弾点が近かった分、展開していた全兵力の内に無傷の部隊は無く、火魔法により蒸発した者、衝撃波により肉片の見分けもつかないほど砕け散った者等、即死者はその場では把握しきれないという惨状であった。
本陣にいたウインストンも負傷から免れる事は出来なかった。彼自身は戦局がよく見えるようにとなるべく開けた場所から双眼鏡で国軍の様子を監視していたため、着弾による衝撃波をほぼ直撃に近い状態で喰らってしまった。
距離があったためそれ自体が防壁となり即死は免れたが、肋骨の骨折と吹き飛ばされた際に転倒し頭部を強打したことによる一時的な昏睡、火魔法の熱波による火傷等ぎりぎりのところで一命をとりとめるという状況であった。
当然、双方即座に軍を動かすことができるはずもなくより軽傷者が多かった国軍側は一旦撤退し態勢を立て直そうとしたが、その時サモンズ側の陣地から一発の砲撃音が放たれた。
「このままやられっぱなしでいるわけにはいかん!反撃だ!」
「応!」「隊長!1門は使用不能ですが、もう1門はかろうじて使用可能です!」
「よし、その1門で国軍に同じものをお見舞いしてやれ!」
サモンズ側も2門だけではあるが、大砲による砲撃能力は有しており、1門は完全に破壊され使用不能となったが、残った1門で負傷しながらも生き残った魔導士達が国軍に向けて発射したのである。
ただし、衝撃波による故障と魔導士達も負傷していたことで精密操作が出来なかったことにより、発射された砲弾は国軍の陣地を直撃するには至らず、国軍の1キロほど手前の池に着弾し炸裂した。
次の瞬間、池は一瞬にして干上がり、発生した大量の水蒸気が魔力を持った熱を帯びる事で高熱の霧となり両軍の間を覆いつくし、熱傷による負傷者を更に両軍に発生させることとなった。当然の事ながら、今回は国軍側近くに着弾したことにより国軍側の悲劇は甚大なものとなった。
この魔法弾が使用された事により、両軍の活動はほぼ不可能な状態となってしまっていた・・・
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