第5話:分断のDAWN(夜明け)
往国歴175年当時、世界は生き残った小国家が核となりそこに同じく生き残った小部族や軍人崩れの傭兵集団などが集まり国家を形成し始めていた。
その中に、当然サモンズも国家組織を形成する重要な要素として存在していたのだが呼ばれた方からしてみれば死後の転生者はともかく、いきなり呼び出され知識と経験、そして労働力を提供させられ、元の世界に帰りたいと願ったり転生前の世界に魂を戻したいと思ってもその手段すらないという状況であった。
この時代、術式の不完全さから呼び出されたものは元の世界に返すことはできず、結局のところこの世界で骨を埋めることになったのである。
二千年以上を経た現在ではその方法も開発されたが、当時のサモンズにとっては迷惑以外の何物でもなかっただろう。
無論、彼ら彼女らの子々孫々はこの世界に根を張り、現代まで脈々とその血筋は受け継がれているのだが・・・
そんな世界情勢の中、復興が進むにつれサモンズとコレクトの間にわずかずつだが溝が掘られて行くこととなる。
当然ではあろう、自分達より進んだ技術、知識、経験を持ち、考え方も異質、法体系や善悪の概念すら自分達とは様々な点で異なる異世界の住人。
それに魔法まで長けた者もおり、自分達より様々な面で優れている
当初何の根拠もない漠然とした不安が、いずれサモンズ達が自らの地位を脅かし取って代わられるのではないだろうか?と言う疑念に変化するまで、そう多くの時間を要するわけではなかった。
サモンズ達の方でも、コレクト側のこうした心境の変化と漠然とした不安と疑念を敏感に感じ取っており、呼ばれた側にも関わらずこのような意識を向けられていること自体に釈然とできずにいた。
表立って敵意を向ける事こそなかったが、自分たちに向けられている視線が憧憬から疑念に変わりつつあること敏感に感じ取り、生物としての防衛本能であろうか自然とサモンズ達が自ら集落として集まる力の
復興した人類社会の中に、半ば
そして、最初の悲劇が往国歴175年の年の瀬に引き起こされた。
世界の世界大陸を構成する国家群の内最西端に位置するクルツ共和国、早い段階に戦乱からの立ち直りを開始し、サモンズ達を積極的に活用していた。
単一民族の国家と言うよりは、先述の傭兵国家や滅亡した国家の生き残りが設立した小規模な政治体制が集団化し、国家形成がなされたと言える連合政権の色合いが強い共和主義国家である。
建国当初、様々な集団で形成されたクルツはサモンズ達とも良好な関係を築いており、双方が知恵を出し合い農鉱工業技術を切磋琢磨し向上させ、他の荒廃した地域からの流民も受け入れられる程度の国力回復を果たしていた。
だが、往国歴177年末に選挙により選出されたフォルツ=シャーナが国家元首である大統領に就任すると少しずつ歯車が狂いだした。
フォルツは当時少壮気鋭の30代前半、端麗な容姿とすらりとした長身に柔和な笑顔が女性の圧倒的支持を得ての当選であった。クルツは直接選挙制を取り入れ国家元首は全国民の投票によって選ばれる。当時の女性の投票率は97.3%、これは邦歴に入って2000年以上経過した現在でも破られていない、記録に残る限り史上最高の女性投票率である。
だが、フォルツはその洗練された容姿とは裏腹に内面は過激なコレクト至上主義者であったことは歴史が証明する通りである。
それまで構築されてきた人類とサモンズの友好関係に対し、少しずつ楔を入れ始めたのだ。圧倒的な支持基盤で、自らに都合の良い議員選出の為に議会を解散し選挙を強行。女性中心の支持率で、フォルツの腹心ばかりが当選したことで実質クルツはフォルツの支配する独裁国家に近い形態へと変貌した。
そこから少しずつ政治環境も変貌していく。サモンズに対する職業や居住の自由を制限し、婚姻や勉学にまで及ぶ広範な差別的法案を少しずつ、だが着実に国会を通過させサモンズへの迫害と言える状況をじわじわと作り出したのだ。
フォルツが何故ここまでサモンズに対し敵愾心をむき出しにしていたのかは、現在でも諸説ある。曰く、彼の母親と妹がサモンズ達に暴行された挙句殺された、父親の事業がサモンズ達の詐欺に遭い倒産し一家が路頭に迷う羽目になり、母親と妹が身を売る羽目になり父親は自死した等・・・彼の20代前半までの資料が戦災により焼失している事、彼自身が自らの記録を残していなかった事等もあり、現在でもその原因については定説が定まっていない。ただ彼自身の心情としては、サモンズ達にその技術と経験を活かし富裕層となっていく優秀な者が多かった事にも鬱屈した憎しみとして向けられていたようだ。
いずれにせよ、彼が就任した後の僅か2年余りで合法的に醸成された憎しみで人類がサモンズを迫害するという状況が作り上げられた。
サモンズ達は条件の良い居住地から僻地やスラム、危険度の高い地域に追いやられ、職業についても国家の厳しい監視の下でのみ認められ、技術や経験の供与は善意ではなく強制と義務になり、国家に少しでも歯向かったサモンズ達は皆行方不明になっていった。
財産の所有についても厳しい制限が設けられ、サモンズ達は豊かな生活から一転して貧困層に叩き落された。機を見るに敏な一部サモンズの富裕層は財産を手に早々とクルツを逃げ出していた。
人類側にも良識派は多く、国家と議会のやり方に異を唱える者は多かったが、フォルツはサモンズから収奪した富を自らの支持者に分配することで、強固な支持基盤を形成していた。いくら良識派が異を唱えても取り入れられることは無く、むしろ反国家的として処罰される時代となっていた。
そして往国歴175年12月、『血のクロスロード事件』が双方の対立を決定づける事となる。
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