異界大戦記  ~第一章:揺籃期編~

呂瓶尊(ろびんそん)

第一節:Era of Genesis. ー創世の時代ー

第1話:集う三人

このお話は地球によく似た、でも地球とは違う空間世界で紡がれる・・・でもどこかで地球とも繋がっている、とある歴史の物語・・・


邦歴2245年6月1日、やや湿度が高い初夏の気候。

二人の男が佇む艦橋の正面に設置されたディスプレイ全てが白い閃光に包まれた。

計器類にかじりつく軍服姿の人々、彼ら彼女らを指揮すると思しき人間に至るまで全ての人員がまばゆい光に包まれる。

直後、全てのディスプレイが暗転し漆黒の画面に赤い文字が躍る。


【Defeated. Training ends.敗北、訓練終了


「負けたか・・・」

男が閃光対策用のゴーグルを外しながらやれやれと言う感じでつぶやく。見渡すと艦橋要員にも負傷者や死者はいない。

ここは『エルフィン南方海洋同盟国Elfin Southern Maritime Alliance(E.S.M.A)』初等士官学校、一般的な高等学校相当の戦術学習用教室。将来軍人を目指す少年少女たちが中等学校を卒業し、激戦の倍率である入学試験を経てようやく入学が叶う超エリートの卵が集う学校である。


そして、負けを呟きディスプレイに向かって左側に佇んでいた男はラーク=スピークス。襟元と胸元には海軍中佐を示す階級章が光る。180センチの長身、細身ながら引き締まった筋肉を海軍制服であるダークブルーの上着と水色のシャツにライトイエローのネクタイ、ホワイトのパンツと黒の軍靴に包み、金髪とブラウンの中間と言える髪色と同色の瞳を持ち、顔面偏差値も高くクールなイメージで美丈夫な軍将校である。ただ、決して暗い・冷徹ではなく仕事は丁寧で真面目にできるが、寧ろその見た目から想像がつきにくい面倒見の良いおとこでもある。


ラークの右隣に佇む男も同様に中佐の階級を所有しているがこちらは陸軍所属であることを指し示す階級章となっている。

「なかなかに壮絶だな・・・この負け方は、なぁラーク?」

かぶりを振りながらため息交じりに左手で顔を覆うこの男はキャメル=メビウス。ラークの同僚であり友人だ。ラークほどではないが180センチにあとわずかで届く長身と彼を凌ぐ肩幅、がっしりとした体型ながら艶のある漆黒の頭髪と同じく深淵の闇のごとき瞳が吸い込まれるような印象を与えるこちらも美青年と言っていい外見である。一見おとなしい印象を与えるが、笑顔を絶やさない口角と常に楽しい事を探している少年のような表情が彼の内包する快活さを表している。こちらは陸軍制服であるガンメタリックの上着にホワイトのシャツと深紅のネクタイ、ベージュのパンツとブラウンの軍靴でその逞しい体を覆っている。


二人がいたのは海軍戦艦の艦橋を模した演習用の疑似艦橋。二人は軍命令にて士官学校の視察兼指導任務として母校を訪問していた。同期である二人は若いながら様々な任務で成果を挙げ、共に26歳で今の階級を勝ち取っている。


「まぁ、仕方ないか。いくら士官学校生と言えど、今年入学してようやく艦隊運用実習を学び始めたところだ。いくらおとなしい優等生で座学に励んでいても、実戦経験がない少年少女おこちゃま達は『死なない戦争ごっこ』で舞い上がるものさ。」

そう諭すラークにキャメルもうなずく。

「確かに・・・、しかも今回が最初の演習授業で模擬艦橋に入るのも初めてとくれば仕方ないわな。ここは若人を導く鷹揚な先輩としての度量の見せ場かな」

「その通り、俺たちの1年生時代もそれほど大差なかっただろうしな・・・まぁ2年生相手の実習だ、ぼこぼこにされるのが前提だ、そもそも。」

呵々と笑いながらラークが模擬艦橋から踵を返して退出していく。

早足で追いかけながらキャメルがラークの背中に言葉を投げかける。

「次は座学研修だったな、場所はどこだっけか?」

「場所は・・・1号館の大講堂だな。チャイムが鳴ったら演習が終わった学生たちが移動してくる、さっさと行くか。」

電子クリップボードに表示された研修レジュメを見ながらラークは振り返らずに答える。

「授業内容は、歴史かぁ・・・、しかも往国歴Past Century(P.C)から邦歴Federal Century(F.C)までの『全世界歴』じゃねえか。これ確か最低2時間はある授業じゃなかったか?寝てるから終わったら起こしてくれ・・・」

「阿呆、本部に帰着したら報告書が待っているし、生徒たちへの総評もせねばならないから寝てる暇なんかないから諦めろ。そもそも全世界歴は俺たちが何故今の時代を生きているか知るうえで大事な学問。過去を振り返ることを忘れたら滅びにつながるという事から必ず学ばされるからな。瞼にカラシでも塗って眠気を飛ばすんだな。」

キャメルのボヤキにラークは至極もっともな正論であしらうと、キャメルの方も溜息一つ残して講堂へ向かって歩を速める。肩を並べて歩く二人の背中に、

「やほー!」

と言う軽快な掛け声とともに強烈なドロップキックが襲い掛かった。


『ぐッ!』二人同時にうめき声をあげ、崩れ落ちた。


「ごめん!元気だった?久しぶりー!」

カラカラと陽気な笑声を見せながらうずくまる二人に声をかけたのは、二人の同期で海兵隊少佐にして女性将校であるアヤメ=ランバージャック。

身長175センチの長身、炎のような紅の頭髪とあどけなさが残るオリエンタルな顔立ち、そしてなかなか立派な胸を持っている。

同期の二人からは少し昇進が遅れているが、それでも26歳で少佐と言う規格外の出世を遂げており、尚且つ白兵戦の主力である海兵隊の一部隊を指揮する身でありながら、美女としての評価も高い。

ただ、当然ながら荒くれものの海兵隊で育ってきた経歴からか、その性格は天真爛漫ながら豪放磊落以外に似合う言葉が見つからない。


「任務で遅くなってごめんねー!私もこれから一緒に行くよー!」


「・・・お前、いつもいつも蹴りかましてくるんじゃねぇ・・・」

「全くだ、大丈夫かラーク?アヤメ、もう少し普通に挨拶をしやがれ・・・」


蹴り飛ばされた二人はアヤメに悪態をつきながら三人仲良く講堂に歩を進めていった。

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