第6話

 私はサー・ガレン、幾度も繰り返される人生の中でエリンと出会い、彼女を守るために剣を振るってきた老騎士だ。


 この世界で彼女は王女として私の傍にあり、私は彼女の忠実な騎士団長として仕えていた。

 彼女との絆を再確認し、共に戦場を駆け抜け、平和を取り戻したその矢先に、王国は内乱に飲み込まれた。裏切り、嫉妬、権力への渇望が渦巻き、王家に忠誠を誓ったはずの貴族たちが反旗を翻した。


 私はエリンを守るため、全てを賭けて戦った。反乱軍が王宮に迫る中、私は彼女を連れて脱出しようとした。「殿下、私が道を開きます。どうか生き延びてください」と懇願したが、彼女は静かに首を振った。「ガレン、私は王女として逃げるわけにはいかない。


 この国と民のために、最後まで立ち向かうわ」。その気高い決意に、私は彼女を止められなかった。彼女の瞳には覚悟が宿り、私はただ彼女の剣となることを選んだ。

だが、戦況は絶望的だった。裏切り者の数は増え、私の騎士団は次々と倒れていった。私は剣を手に血路を開き、彼女を囲む敵を斬り続けた。傷を負いながらも、彼女の側を離れなかった。


 だが、ついに力尽きた瞬間、反乱軍に捕らえられた。私の目の前で、エリンは縛られ、引き立てられた。彼女はなおも気高く、恐れを見せなかった。「ガレン、あなたを責めないで。私は自分の道を選んだの」と彼女は私に微笑んだ。その笑顔が、私の心を刺した。


 そして、処刑の日が来た。王都の広場に吊るし台が設けられ、民衆が見守る中、エリンは連れてこられた。私は鎖に繋がれ、動けぬまま彼女を見つめた。彼女の首に縄がかけられ、反乱軍の首謀者が彼女を「国を裏切った王女」だと糾弾する声が響いた。


 私は叫んだ。「やめろ! 彼女は無垢だ! お前たちこそ裏切り者だ!」だが、私の声は届かず、縄が引かれた。彼女の体が宙に浮き、息が絶える瞬間、私は魂が引き裂かれるような痛みを感じた。



 エリン……またしても、私はお前を守れなかった。彼女の亡骸が吊るされたまま揺れるのを見ながら、私は自らを呪った。五十を過ぎたこの体は、戦場では無敵だったかもしれない。


 だが、最も愛する者を救う力はなかった。鎖を解かれた後、私は彼女の体を抱きしめ、涙を流した。王女としての威厳も、私との絆も、全てが無に帰した。彼女の冷たい手を握り、私は呟いた。「なぜだ、エリン。なぜ、私ではお前を救えなかったのだ」


 内乱は終わり、反乱軍が王国を掌握した。私は生き残ったが、心は死に絶えていた。彼女を失ったこの世界に、私の居場所はない。だが、繰り返される人生の中で、私は知っている。


 次の世界で、また彼女と出会うだろう。そのたびに愛し、そのたびに失うのかもしれない。だが、私は諦めない。彼女の吊るされた姿が脳裏に焼き付いたまま、私は次の人生へと進む覚悟を決めた。


 エリン、私の王女、私の魂の半身。お前が吊るし首にされたこの世界は、私にとって永遠の地獄だ。私の無力さが、お前をこんな結末に導いた。だが、私は誓う。 


 次の世界で出会うなら、今度こそお前を守り抜く。お前が王女であろうと、村娘であろうと、私はお前を愛し、お前の命をこの手に守る。お前が再び私の前に現れるその日まで、私は生き続ける。


 どうか、エリン、安らかに眠ってくれ。お前の気高さと優しさは、私の心に永遠に刻まれている。そして、次の人生で、私に再びその笑顔を見せてくれ。私はお前を待ち続けるよ。どんな悲劇が訪れようとも、お前との絆は決して絶えない。

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