第4話
私はサー・ガレン、幾度も繰り返される人生の中でエリンと出会い、愛し続けてきた騎士だ。この世界で彼女は貴族の娘として私の婚約者となり、私は彼女と共に幸せな未来を築こうと誓った。
だが、その誓いは脆くも崩れ去った。エリンが魔獣に襲われ、私の目の前で命を落としたのだ。
あの日、私たちは公爵領の森へ馬車で出かけていた。結婚の準備の一環として、彼女が幼い頃に愛した場所を私に見せたいと言ったのだ。彼女の笑顔は輝き、森の木漏れ日の中で彼女はまるで妖精のようだった。
私は彼女の隣で剣を携え、いつでも彼女を守れるようにと気を張っていたつもりだった。突然、森の奥から咆哮が響き、巨大な魔獣が飛び出してきた。鋭い爪と牙を持つその獣は、私がこれまで戦ったどの敵よりも凶暴で迅速だった。
私は剣を抜き、エリンに「下がれ!」と叫んだ。彼女を守るため、私は魔獣に立ち向かった。剣がその厚い皮を切り裂き、血が飛び散る中、私は全力を尽くした。だが、魔獣の動きは予測を超えていた。一瞬の隙をつかれ、その爪が私の脇をかすめた瞬間、エリンが叫び声を上げた。
振り返ったときには遅かった。彼女は私を庇おうと飛び出し、魔獣の牙が彼女の胸を貫いていた。鮮血が彼女の白いドレスを染め、彼女は私の名を呟きながら倒れた。
「エリン!」私は絶叫し、魔獣に全ての怒りを叩きつけた。剣がその首を切り落とし、獣が息絶えるまで私は斬り続けた。
だが、勝利の代償はあまりにも大きかった。彼女のそばに跪き、私は彼女を抱き上げた。彼女の瞳はすでに光を失い、冷たい手が私の頬に触れた。「ガレン……ごめんね」と彼女はかすかに囁き、そのまま息を引き取った。
なぜだ。なぜ、こんなことが起こるのだ。私は騎士だ。彼女を守るために生きてきたはずなのに、またしても彼女を失った。私の手は震え、彼女の血に染まった剣を握る力さえ失いそうだった。
繰り返される人生の中で、彼女を救えない無力感が私を苛む。前世で彼女が自ら命を絶った痛みも、この世界で彼女が魔獣に奪われた悲劇も、私の心に深い傷を刻む。私の愛は、彼女を守る力にならないのか?
森の静寂の中、私は彼女の亡骸を抱きしめたまま動けなかった。貴族の娘としての気品も、婚約者としての約束も、全てが灰と化した。私の胸は空っぽで、ただ彼女の名を繰り返し呼び続けることしかできなかった。
エリン、エリン、エリン……お前を失うたびに、私の魂は削られていく。五十を過ぎたこの老いた体は、戦場では無敵だったかもしれない。だが、お前を守ることにおいては、私はあまりにも弱い。
それでも、私は立ち上がるしかない。彼女が死に、私が生き残ったこの世界で、私は何をすべきか。魔獣を斃した剣を手に、私は誓った。
次の人生で、またお前と出会うなら、今度こそお前を救う。どんな敵が立ちはだかろうと、どんな運命が私たちを引き裂こうと、私はお前を守り抜く。お前が笑い、私の手を取ってくれるその日まで、私は戦い続ける。
エリン、私の光、私の魂の半身。お前が魔獣に奪われたこの世界は、私にとって永遠の悪夢だ。だが、私は諦めない。お前との絆が、私を次の人生へと導いてくれると信じている。どうか、安らかに眠ってくれ。
そして、次の世界で、私に再び笑いかけてくれ。私はお前を待ち続けるよ。いつまでも。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます