修羅場4会談

@runa666

修羅場4会談

仕事帰りに、彼氏と食事に行った。

「美月ちゃん。結婚の話考えてくれた?」

 「うん。まだ早いんじゃないかなって」

 だって、和樹と私は同棲してもないし。好きでいてくれるのはわかる。ただ、結婚って運命みたいなものじゃないかな。私がフリマで小銭を稼いで、仕事を頑張ってるのを、喧嘩したときに守銭奴って言ったよね。

 「美月ちゃん、いつもそればっかり。俺、美月ちゃんに振り回されてる場合じゃないの。もう5年付き合ってるんだよ。ほら困ると黙る」

 最近は会うと結婚結婚って。まだしたくないよ。結婚を目的にしたくないよ。

 「ごめん。今日あの日だし、疲れたから帰るね。また誘ってね」

 あの日なんて全然嘘。


 価値観の違いとか当たり前だけれど、急かされてばかりで疲れる。

 「お姉さん一人なんだ。飲みっぷりいいね」

  隣で飲んでいる若いビジネスマンから、話しかけられる。

 「疲れたよ。口を開けば周りが結婚結婚って。したくもないのに」

 ほろ酔い状態で、口も酒も進む。

 「わかる。俺の元彼女も結婚結婚って。まだそんな年じゃないよ。こないだ浮気したら殺してやるって、包丁持ちだされて。そのくせあいつ、自分が浮気して相手が好きだから別れるって。そしたら今度、なんで止めてくれないのとか。お姉さんは自立してる感じがいいね」

 「なにそれ」

 「ちょっと休憩しない?」

 甘いささやきに乗ってしまった。

 連絡先を交換して、お互いの立ち位置に共感した。和樹はお酒を飲むと嫌な顔するけど、智也は一緒にいて楽だし心地いい。なんとなくで、メールしたり会ったり。

 「美月ちゃん。何か隠していることない?」

 手帳型スマホケースを、落としそうになる。

 「和樹君。どうした、いきなり?」

 久々のお泊りで料理好きな、和樹がチャーハンを作るのに包丁を持っている。ドンっという音を立て、ネギが切り落とされた。私は自分が皿の上で首をきられる光景が思い浮かび、目をつぶった。

 「何もないよ」

 「ふーん、そう」

 振り向きもせず、空気にとけるような声量で、和樹は言った。


 久々に智也と遊園地に行った。

「そんな重い男別れればいいのに。」

 「え?」

 そんなつもりで言ってない。

 「え?そういうことじゃなくて」

 「合わないよそいつ。俺の方が美月のこと幸せにできるって。美月は俺とそいつどっちが好き?」

 なんか、こういう質問疲れる。

 「疲れたから帰るね」

 「じゃ、また誘うわ。」

 和樹を軽く扱われるのは違う。恋愛じゃない情とか、思い出だってあるのに。はあ、明日も仕事頑張ろう。


 「美月さん、なんかぼーっとしてるね」

 会社にいても頭が痛い。人懐っこい後輩が、少し心配そうに話しかけてくる。友達の部下で、よく相談に乗っている。慕ってくれるのが嫌いでなかった。

 「そう。飲みすぎた。本当に仕事以外できないわ」

 「美月さんのおかげで皆助かってるんです。そんなこと言わないでください。」

 必死に視線を合わせて、慰めてくれる悟。つい私の中の困ったちゃんが首をもたげる。

 「私ね、不倫しない保証はないと思う」

 もはや確信である。けれど私は結婚する以上まじめな関係でいたい。

 「そんなことで美月さんをくずだって笑うやつがいたら、僕がぶんなぐってやります。」

 「なにそれ?」

 思わず笑って、コーヒーを一杯おごってあげた。

 「悟君、付き合いたい。君が好き」

 「うれしいです。僕も美月さんのことずっと見てたから」

 幸せに、ショッピングデートをして中学生のようにはしゃいで。年甲斐もなく、若い子にデレデレする私は親父か。

 家の前に、まさかの和樹と智也がいた。

 「そっか、本当にしてたんだ、浮気。許さない」

 和樹の目から一筋の涙がこぼれた。少し心が痛む。

 「俺といるのが一番楽しいって言ったのに、よくも嘘ついたな」

 智也の目が怒りに燃えている。

 「ひっ」

 私は悟の手を引いて逃げ出す。この子は守る、辛いときそばにいてくれた。この子が好きだ。

 「にげるな、卑怯者」

 智也が、包丁を出した。和樹は、ゴルフクラブ。

 「いやあっ」

 私はハイヒールも脱ぎ捨て、必死に走る。気づくと悟の手も離れていた。今頃無事だといいけど。

 さすがの私も、足も痛いし、段差に転んだ。逆光で見えない人影。

 「美月先輩、大丈夫ですか。」

 「悟君、無事だったんだ」

 「そうですよ、よかった。」

 悟の声にほっとした瞬間、貧血で倒れた。


 気づくと私の家だった。

 目の前には、ごたごたの関係者3人と私。

 「あれ?仕事は?」

 「休みって言っておきました」

 「そう。悟君、ここにいたら殺される。逃げよう」

 手を取るも悟は動かない。

 「なんでですか?僕たちみんな美月さんの恋人じゃないですか。許してあげます。僕を見捨てて逃げたこと」

 悟の笑顔はうつろだった。

 「俺は旦那担当」

 「俺は彼氏」

 「僕は愛人ってことで」

 男性陣はけらけら笑っている。

 どうしてこうなった。もう仕事に行きたい。こんなの嫌だ。

 「仕事?美月はいつも逃げるね。都合が悪いことって、逃げてもなくならないよ」

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