猫によるネコな異世界転生
あるる
第1話
お猫様と言えば、あのもふもふとしていて、長毛も短毛も愛らしく、ピンと立ったお耳も愛らしい。もちろん折れ耳も愛嬌があり、尻尾も柔らかな身体、そして肉球にキラリと光る瞳。
正直その存在すべてが愛らしく、これこそが可愛いの極地としか言いようのないお猫様。
何度も何度もお近付きになるのを検討したのに、呪わしい私の身体は・・・
お猫様を拒絶する!!!!
この絶望が想像できるだろうか、あの愛らしい御手に触れようと、息を止めて近づいても一瞬が限度なんだ!
しかもその後は色んな意味で最悪な状態になるのでお猫様に近づくことも出来なくなると言う、この悲しみを私はどこにぶつければいいんだ!
何故だ!何故私の身体は!!!
そんな報われない毎日のとある日。
私は車に轢かれそうになっているお猫様を見かけ、思わず体が動いていた。
お猫様を無事腕に抱えた、その記憶を最後に記憶は途切れている。
「っ!!」
・・・・・・はあ、はあ、心臓が物凄くバクバクいっている。
嫌な汗が止まらない、でも、体はどこも痛くない。
周りを見渡すが、見覚えのない場所だ。
手足に包帯もないし、動かして違和感は・・・ たぶん、ない。
っ!!お猫様!!!
せっかく、初めて抱いたのに!!その感触もなにも覚えてない!
な、なんたる、不覚・・・!!!自分のふがいない脳みそが許しがたい!!
「んなぁ~~~~~!!!」
ん?今の声は・・・?
「あ、あー・・・ えっ」
私の声ですよね。
えっ?! いや誰の声だよ今の可愛い声!!!
「あ~~~・・・ ガチかぁ、って私今どうなってるんだろ」
改めてベッドからのそりのそりと這い出る。
寒くはない、立ってみても足にも違和感はない。痛みもない。
別途は簡素めの木製だけど、清潔。ベッド周りにはサイドチェスト的なものと、少し離れた所にクローゼット、小さなテーブルと椅子が2脚。
全て木製だ。病院っぽくないな・・・。
レースのカーテンを開けて窓の外を見て、私は絶句した。
「・・・・・・ゆ、め・・・かなぁ」
お約束通りと言うべきなんだろうけど、見た事のない景色が広がっていた。
レンガ調の街並みにとガス灯のような街灯、遠くに広い壁が見え、その奥には山並みが見える。しかも月が2つ出ている。
日本どころか、地球じゃないですね。はい。
時間的にはお昼過ぎだろうか?道は多くの人が行きかい、少し先に見える人場には屋台が複数見える。
この場所は高台にあるのか、街の様子が良く見えて状況把握に助かる。とは言え、誰かと話して自分の状況を知りたい。
今着ているのはパジャマっぽいので、このまま部屋から出るのは躊躇われる。
勝手をするのは申し訳ないけど、クロゼットになにか上着がないか探そうと開けるとキィと小さな音を立てて開いた。
「お、ラッキー!大き目のカーディガンもあるじゃん~!」
後で謝罪はするのでお借りします、と着込んだ時に、クロゼットの扉の内側に鏡があった!
恐る恐る、でもちょっとドキドキして今の自分の姿を見てみる。
「ええ~~~~!!!!!」
鏡に映ったのは濃紺の髪をショートにした、20歳前後の若い女性。猫耳のある。
そう、ね・こ・み・みのある!!!
恐る恐る自分の手を伸ばすと、あるわ・・・。耳ふわふわだわ・・・。
あ、本物だ・・・ って、ことはですよ!
もしかしてもしかすると、もしかするかもでは?!?!!
そうっと、手を後ろに伸ばすと・・・ あった。
尻尾!!!
「うっわぁ~~~!!すごーーーい!!!」
私が一人できゃっきゃしていると、遠慮気味のノックが聞こえた。
「失礼いたします」
「は、はいっ!!あ、あの、ごめんなさい!!」
どうすれば良く分からず、思わず頭を下げると入ってきた女性が優しく声をかけてくれた。
「まあ、謝られることは何もないですよ。こちらへどうぞ、何も食べていないでしょう?」
「あ、はい」
思い出したようにお腹が「ぐぅ」となり、はずっ!!!
女性に誘われるままに椅子に座るとお茶を入れて、サンドイッチを出してくれたので、遠慮なくいただいた。
「お味はいかがですか?」
「めっちゃ美味しいです~」
「それは何よりです。では、食べながらでいいので、聞いてくださいね」
「あ、はい。色々、私も伺いたく・・・」
「そうですよね。では私の知る限りの事をお伝えしますね。
まず、私はメリッサと申します。ご挨拶が遅れて申し訳ございません」
メリッサさん曰く、この世界は猫による猫のための猫が自由に生きるために、猫の神様が作った世界らしい。
なんという楽園、パラダイス、桃園郷なんだろうか!!
でも、メリッサさんも猫・・・? ん?そもそも私は人間だった気が・・・??
「貴女様は、生前に猫を助けてお亡くなりなったのを覚えていらっしゃいますか?」
「あっ!!・・・そうでした!あのお猫様は?!」
「貴女様のお陰で無事でした。あの時、私のお腹には赤ちゃんがいまして、早く動けなかったのです。
本当に、ありがとうございました」
「えっ・・・。メリッサさんが、あの、猫・・・?」
「はい、私を抱え、道路の反対側に投げていただいたおかげで私もお腹の子も無事でした。
マーク、いらっしゃい?」
メリッサさんがそう声をかけると、控えめなノックの後に小さな小さな男の子が入ってきた。
「おいで。さあ、ご挨拶なさい」
「はじめまして、マークです」
「初めまして!私は瑠璃です」
「ルリ?」
「そうだよ」
「素敵なお名前ですね。宝石のラピスラズリ、そのままの色合いはお名前からなのですね」
「えっ!気付いてなかった・・・」
メリッサさんから鏡を渡され改めて自分を見ると、確かに私の髪は濃紺、そして目は金色だ。
しかも、髪は光の当たり具合で金が見え隠れする・・・ うわぁ、リッチな見た目だなぁ。
「ルリさん、あのね、ありがとう」
「どういたしまして、マークくんが無事生まれてきてくれて良かった」
「うん! あのね、僕ねずっと会いたかったの。今度一緒に遊んでくれる?」
「もちろん、よろこんで。もう少しマークくんのママにお話し聞くから、終わったら遊ぼう!」
「はーい!」
マークくんがそう言って部屋を元気に出て行くと、メリッサさんが注意事項などを教えてくれる。
この世界は猫が幸せに生きるための世界だけれど、猫は狩猟を行う性質もあるため敵や狩りの対象となる動物や魔物が存在する事。
それらから身を守るために街は高く、堅固な防壁で守られている事。
私は元人間であることから、毎日一定額のお金を貰えるが、この世界を楽しむ上でもなにか仕事を探すことがお勧めである事。
いわゆるファンタジー世界のように冒険者などもある事。
望めば、他の種族のいる世界へ行くこともでき、その場合は猫獣人か人間か選べる事。
などなど。
とにかく第一は、猫に尽くし、猫のために失った命、魂を癒す事だからゆっくりとやりたい事を見つけて欲しいという内容だった。
改めて窓から外を見ると、確かに道行く人々の影には猫耳と尻尾があった。
どうやら、耳と尻尾は隠せるようだ。
まだ、何をしたいかは何も思いついていないけれど、明日はマークくんと街の中を探検してみようかな!
お猫様大好きなのに猫アレルギーだった私が、
まさか猫でいっぱいな猫だけの世界に転生できるとは思わなかったし、自分が猫になるなんて想像もしなかったけど・・・!
今、私は幸せいっぱいです!
にゃんにゃんにゃんの日、ばんざい!
――――――――
続く・・・かもしれない。
猫によるネコな異世界転生 あるる @roseballe
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