雷女房
遠山ゆりえ
第1話
むかしむかし、ある村に、たいそう美しい娘がおりました。
娘は美しいだけでなくこころねもよく、働きものでした。
ただひとつ困ったことに、娘は雷が大好きでした。
雷が好きなことぐらい別に良いではないかと思ったら大間違いです。
雷が遠くから聞こえてくると畑仕事も手につかず、そわそわし始めます。
雷雨のなか家に入らず両手を高く挙げ、狂ったように稲光を求め、走り回ります。
なんとか娘を落ち着かせようとしても無駄です。雷が鳴っている間は何かにとりつかれているかのようでした。
村人は娘が雷に打たれるのではと、ひやひやしていましたが不思議と落ちることはありませんでした。
その姿は稲妻に照らしだされ、恐ろしいほど美しいのでした。
雷が止むと、いつもの気立ての良い娘に戻るので、村のある男が嫁にほしいと言いました。
家のものは大喜びです。さっそく婚礼の準備も整い明日が結婚式という時でした。遠くからゴロゴロと音が鳴りだしたのです。
例によって娘の様子が次第におかしくなるのを見た家人は外に出られないよう、柱に縛りつけました。
可哀想ですが仕方ありません。柱に縛りつけられた娘は、じたばたしましたがどうにもなりません。
ゴロゴロ、ピカピカ雷はいつもより激しく、嵐のようでした。
とその時、ひときわまばゆい光が家の中まで届き大音声が響き渡りました。光は娘の頭の真上で激しく花火のごとく散りました。
辺りが静かになると、家の者はぐったりした娘の姿を目にしました。抱き起こした娘は、すでに事切れておりました。その顔は微笑みをたたえ、穏やかだったそうです。
不思議なことに娘に火傷の跡も無く、家も火事になりませんでした。
きっと娘を見初めた雷神が自分の女房にするため、迎えに来たのだと村人達は口々に語りました。
今でもその村には、娘を縛りつけた柱が残っていて、嫁入り前の娘はその柱に触れてはいけないと伝えられているそうです。
雷女房 遠山ゆりえ @liliana401
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