第3話 バブみってなーに?
「バブみって知ったんだけど、なんなの?」
めぐりが首を傾げながら、聞いてきた。
「男性が年下の女性に母性を感じることだ」
俺はなんとか説明する。
「ごめんね、年下じゃなくて」
「なんで謝るんだよ、別に謝るところじゃないから」
めぐりは本当に申し訳なさそうな顔をする。
無風なはずな家なのに、めぐりの髪がサラサラと揺れる音が聞こえた気がした。
それぐらいに心が痛くなる顔だった。
「じゃあ、おぎゃるは?」
「年下の女性に甘えて、赤ちゃんになりたくなることだな」
俺がそう答えるとめぐりがぐっと顔を近づけてきた。
めぐりの巨乳が俺の胸に当たりそうな距離まで迫って来る。
「じゃあ私の赤ちゃんになりたい?」
「うっ!」
かつてそれを言ったはずなのに俺は咄嗟には答えらない。
「答えてほしいなぁ」
「流石に恥ずかしい」
本心をそのまま言うしかなかった。
これを吐露するのもなんだか恥ずかしい。
「前は言ってくれたのにぃ。私って母性ないの?」
めぐりは心配そうに尋ねてきた。
「あるに決まってんだろ!」
俺は思わず大きな声を出した。
そこだけはめぐりに自覚してもらわないと困る。
「年下じゃなくてごめんね」
「どうして謝る? そこは謝ることではないだろ!」
なんでそうなる。
めぐりは少し涙目になっている。
「せっかく、歩夢君を喜ばせられると思ったの!」
「できてるってば」
俺はそう声をかけてもめぐりは首をぷるぷると横に振る。
「だってだって、私、歩夢君の立派なママになれる自信ないんだもん」
「もう十分すぎるぐらいにできてるってば俺はこれ以上何を求めればいいんだ?」
俺なりにめぐりを励ました。
めぐりはそれを聞いてもあまり納得していなさそうだった。
これはしっかり言い聞かせなくてはならない。
「誰でもお母さんになった時は、初めてのお母さんだ。そこからいいお母さんになろうとするのも立派なママだと思うぞ」
俺がそう言うのをめぐりは静かに聞いていた。
めぐりがやっていることは立派だと俺は伝えるつもりで思いのままを言った。
伝わっただろうか?
「じゃあじゃあ」
めぐりがせかせかしていた。
何を焦っているのだろう?
「バブみを感じてオギャってほしい」
「いやちょっと待ってくれ!」
驚いたせいで変に大きな声が出た。
いきなりステップアップしすぎた。
何をそんなにめぐりが悩むことがあるだろうか。
そこは自信を持っていいと思う。
「私が歩夢君にバブみを感じるの!」
「確か、女性のバブみって意味合い、オタク発祥のバブみとは違ったな」
俺が言うと、めぐりはこくこくと激しくうなずく。
「そうなのっ。だから、うーん」
めぐりは悩んだ様子を見せる。
このままでも埒が明かない。
「学校に行こう」
「うんっ!」
めぐりの気は晴れていないだろうが、俺は切り替えることにした。
※
「よう、努力マン元気してるか?」
佐藤が笑顔で声をかけてきた。
努力マン、それが俺のあだ名だ。
スーパー鉄人努力マンとか言われる。
なんかのヒーローみたいだ。
いろいろ頼まれごとこなしているうちに佐藤が名付けてきた。
俺はこんな感じにいろいろ頼まれる。
クラスメイトから。
「掃除当番やってくれんか?」
「いいよ」
運動部から。
「部活の助っ人頼む」
「いいよ」
先生から。
「資料運ぶの手伝ってくれ」
「いいっすよ」
こんな感じだ。
頼まれごとはなるべくやる。
徳を貯金するためだ。
情けは人の為ならずという。
ゴミ拾いだってしている。
他人がポイッと捨てた運が拾えるという人がいたからだ。
おかげさまで俺はいい人と周りから言われている。コミュニケーションもしやすくなり周りと円滑に会話もできる。
何より人に役に立ってる俺ってすごいって自分を褒める理由になるんだ。
家帰っても筋トレ。
自分との約束を守っているだけだ。
自信をつける方法は、自分との約束を守ること。
それを聞いてから、ルーティンを決めてそれをずっとこなしている。
毎日to Doリストを書いてこなしている。
ただそれだけだ。
もちろん勉強もやってる。
「偉いなぁーよくやるなぁ」
佐藤が俺のことを今日も褒めてくれた。
別にこれをやったからと言って成績が伸びるわけでもない。
こうでもしないと成績が落ちないから不安、平均70点ぐらい努力した割にあんまり良くもない。
ストイックと言われるけど、習慣化してさえしまえばそんなでもない誰でもできることだ。
ちなみに、めぐりにもあだ名がある。
みんなの聖母様と呼ばれている。
一度そのあだ名についてどう思うかめぐりに聞いたところ、家で聞くと、「見た目だけじゃない?」と否定してくる。
あまりにそう言われるのは好きじゃないらしい。
当たり前に挨拶をしていて、みんな平等に接しているだけだと言う。
めぐりは人間が好きなんじゃないかと思う。
誰に対しても平等な愛を注ぐ。
そんな博愛主義な印象がある。
本人は聖母扱いされるのを嫌がるが、ほんわか笑顔で挨拶する姿は聖母にしか見えない。
※
めぐりがエプロン姿で迎えてくれる エプロンは黄色で可愛いくまさんの顔が真ん中にドーンと書かれている。
豊満な胸のせいでくまさんの顔が少し歪んでいるのだけ気になる。
いや、豊満の胸の方が正直気になる。
新妻みたいだなぁ。
「今日も外だと頑張ってたね」
「あれが俺のキャラだから」
めぐりは「しょうがないなぁ」と言いつつ、頭を撫でてきた。
「今日これからは私にいっぱい甘えてね、歩夢くん」
「はぁー、疲れた」
疲れの限界が来たのか、そのままめぐりに寄りかかってしまう。
「もう、こんなになるまで頑張っちゃって。ぎゅーしちゃうね」
俺はめぐりに抱きしめられた。
とってもあったかい。
それから懐かしい感じがする。
「すごいよ、こんなことできるなんて必ず報われるよ、今日はもう休もうね、歩夢くん」
めぐりの声が俺の鼓膜を優しく撫でてきた。
「人に役に立つかどうかだけで自分の生きる価値なんて決めなくていいの、生きてるだけですごいんだよ」
「そうは思えないって」
そういった根拠のない自信を俺は持てない。
一方で、根拠のある自信は理解できる。
だからこそ、人に役に立って俺が俺をすごいんだと思いたいんだ。
社会人が働くのだって結構このモチベーションの人は多いんじゃないかと個人勝手に推測をしている。
「そこで私の出番だよ」
誰よりも不器用で何もできないことを俺は俺を知っている。
俺はダサいだろう。
俺は痛々しいだろう。
俺は情けないだろう。
でもめぐりはそんなダメすぎる俺を優しく包み込んでくれる。
「赤ちゃんって歩ける瞬間、感動するんだよ」
めぐりの笑顔がまさに聖母の笑顔に見えた。
「歩けることのすごさを忘れたの? 自分が呼吸できることのありがたさを忘れたの?」
めぐりがふっと力が抜けるような笑顔を見せる。
「あはは、忘れていたよ」
「だからこそのバブみだよ?」
めぐりはそう言ってくすくすと笑った。
俺の中でふと疑問が浮かぶ。
「ところでどうしたんだ、バブみを感じておぎゃらせるって急に言ってさ」
「私、やっと頑張りたいと思ったの!」
「頑張る? できてるだろ」
俺がそういっても、めぐりはぶんぶんと首を横に振った。
どうやら、めぐりは頑張るということが本人的にはできていないらしい。
「私は生まれて初めて歩夢くんみたいに本気で頑張りたいと思ったの!」
「俺みたいに? 頑張ってるっちゃ頑張ってるけどもっとしなくちゃいかないけどなぁ」
「このままじゃ、歩夢君潰れちゃう」
めぐりは大きな声を突然出した。
顔を見ると泣きそうであり、本気で心配されているのがわかる。
「最近俺は限界は感じたりはするなぁ」
めぐりは両手でこぶしを作り、激しく上下にさせる。
少し胸も揺れるので目の毒だ。
「まずは成功の定義を徹底的に下げよう!」
「成功の定義?」
成功の定義なんて考えたかったことなかった。
強いて言うなら、人に役に立てた時。
テストでいい点を取れた時とかが俺にとっての身近な成功だろうか。
「朝起きただけですごい、学校に行きただけですごい、とにかく自分を褒め褒めしよ」
めぐりは親指で○マークを作ったり、人差し指で何度も丸を作ったりをしている。
「私と一緒に生き方を変えていこう」
「そうしてくか」
俺がそういうと、めぐりは微笑んだ。
「うんっ、だから何でも言ってね、私の前では、全部曝け出していいからね?」
「少しずつ弱音を吐けるようにしてくよ」
手をぱんとめぐりは叩く。
「うん、楽しみに待ってるね」
めぐりの笑顔は実の母親より母らしいものに見えた気がした。
めぐりのママ力は少しずつ上がってるのかもしれないと思う俺だった。
◆◆◆あとがき、お礼、お願い◆◆◆
ここまでお読みいただきありがとうございます。
母性といえば、ばぶみですねぇ。
めぐりさんは確実にママっぽくなってきました。
もし、
こんな幼馴染うらやましい。
めぐりさん、可愛い、結婚してくれ
おぎゃあああああああああああああああ!
ぼぶぅううううううううううううううう!
と思ってくださいましたら、
♡、☆☆☆とフォローを何卒お願いいたします。
レビューや応援コメントを書いてくださったらできるだけすぐ読みますし、返信も速やかに致します。
次回はめぐりsideでの話です、彼女が何を考えているかについてのお話です。
公開日は5月1日6時頃です。
お楽しみに!
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