第貳章   古事記を引っ掻き回した未来人

 一寸法師が挙手して発言いいですか、と言った。


 庚が、体が子どもになったせいで思考まで子どもになったのかと一寸法師に言う。


 一寸法師「庚様、リアル中学生………『DC』の前ですよ。マナーの守らないダメな子に育てるわけにはいきません」


 一寸法師は発言は挙手してからと、教育しているのである。


 庚が話を聞くから言いなさい、とうながして一寸法師は言葉を紡ぐ。


 一寸法師「僕とあらたは、【古代】に【強制転移】されたじゃないですか………そこで、僕と灼は【海の先住王・大海主之王おおみのみこと(燎の前世)】に保護されていたのですよ」


 庚「あなたたち、【前世】から【縁】で繋がってるのね」


 庚は、一寸法師、ウラシマ、燎を見て言った。この情報は初耳のようだ。


 一寸法師は【転移】直後が戦場で【イワレビコ(神武天皇)】率いる【朝廷軍】対【先住者】の【戦】の真っ只中だったと話した。


 話を聞いている伊吹は、【神話の決戦】をリアル体験者から聞いてワクワクしている。【戦争】を知らない子どもの無邪気さに大人たちは微笑ましく思い、伊吹が【火の民】の【先住者】として【未来】に控えている【終末決戦】には参戦することになるので、今だけは【厨二病】を満喫させている。


 一寸法師は、【風魔忍】なので【忍】の【隠形スキル】で戦況を見物していて、それが【古事記】の【イワレビコの東征】だと理解すると、【ニ千年後の未来人知識】からこの時代には存在しない【武器】を造る為に【超越の者】の【覚醒先】を【ドワーフ】にしたと話した。


 庚は、それを聞いて記憶に残る陵究みささぎきわむより体が小柄になっている理由が判った。


 庚「【古代】の【朝廷軍】は【鉄製武器】を所持していたわ。………究、あなた一体どんな【武器】を造ったの?」


【古代】は【石器時代】なので、【石】を素材にした武器が主流だった。しかし【朝廷】は【大陸(中国・韓国)】と交流があり、【大陸】で流通している【鉄器】を武器にしていた。打撃と突きしかできない【石器】に対して、打撃、突き、斬撃と手数の多い【鉄器】を主戦力にしていたので【朝廷軍】は勝利したと歴史では記されている。 


 だが【先住者】は今でも存在しているので、【古事記】では【イワレビコ】が勝利しているように書かれているが、何かしらの折り合いを付けて痛み分けのドローになったのだろう、と庚は推測していた。


 一寸法師「【十手じって】ですね………最初は、【銃】を造って秒で終わらせてやろうかと思いましたけど………【イワレ】がゲス野郎だったので、立ち直れないくらい心を折る方向に気持ちを切り替えました」


 一寸法師の笑顔が爽やかでイイ感じなので、庚は【朝廷軍】は『虎の尾を踏んだ』と理解した。


 庚「【十手】………考えたわね。【武器】と【人間の心】の両方を文字通り折ったのね」


【朝廷軍】ご愁傷さま、と庚は思いながら【古事記】は、後の世の者が年表や系譜図をみながら想像力で書き記した限りなくノンフィクション寄りの文献なので、多少の嘘や虚構はあって当然と考えている。   


 一寸法師「投げる、打つ、突く、殴る、挟む、折る………【古代】に【十手】があったら数々の【戦】の結果が違ったものになっただろうな………と思うくらい、【十手】はイイ仕事しましたよ」


 一寸法師が最初に言ったのが【十手】を使った攻撃方法なので、おそらく一通り試したのだろう。


 ウラシマ「兄者は凄い!兄者の一人勝ちだった」


 ウラシマがドヤる。ウラシマは、一寸法師(究)が【先住者】陣営に合流した後は、戦況が【先住者】不利から逆転したと興奮気味に話す。


 庚「今の話だと、灼のほうが先に【古代】に【転移】させられているみたいだけど………どういうこと?」


 庚は、灼と欅が行方不明になる10年以上前には既に究は消息不明だったと言った。


 燎が挙手して、一寸法師(究)とウラシマ(灼)の【転移】後のことならほぼすべて話せると言った。


 燎「【チェンジリング】による入れ替えは、おそらく【スクナ】と【ホオリ】が戦死した直後………故に、先に戦死している【ホオリ】と入れ替えられた兄上(ウラシマ)のほうが前なのだろうと思う」


 燎は、【スクナビコナノミコト】は【朝廷軍】に持ち去られた【ホオリノミコト】の遺体を回収するために、単身で敵陣に潜入したのだと話した。


 燎「【スクナ】は、【お伽噺】の【一寸法師】のモデルになっているので知らない者はいないと思うが、手のひらに乗るほどのミニチュアサイズだった」


 棗「小さいから気づかれずに潜入できるということか………」


 棗は潜入できても、持ち出すのはどうすると訊く。


 燎「【スクナ】は【造化三神ぞうかのさんしん】と呼ばれる【八百万の神々】の中で【最古の神】とよばれる内の1柱、【カムムスビ】の子なのだ。故に、【瞬間移動】的なことができた」


 燎の言葉に、一同は【スクナビコナノミコト】がミニチュアサイズの姿であることを利用して、敵陣に潜入し【ホオリノミコト】の遺体を【瞬間移動】で【先住者】陣営へ戻すという計画だと理解した。


 燎「計画は、『試合には勝ったが、勝負には負けた』と言うべきだろうな………【瞬間移動】で【ホオリ】の遺体は回収できた。しかし………【スクナ】は、一の兄上(一寸法師)が遺体を持って我らの陣営に現れた」


 燎が言うには、手土産に【朝廷軍】数千の首級と【朝廷軍副将・イツセ】の首級を一寸法師は【異次元ボックス】から出してズラリと並べて見せたそうだ。 


 燎「最初は、警戒した………しかし【異世界のホオリ(ウラシマ)】が兄と呼んで、その後にお土産と言って敵兵の首と【副将】の首を並べて置かれたら、歓迎一択だろう!」


 それは追い返したらダメ絶対と、一同は頷いた。


 庚は【古事記】では【ナガスネビコ】に矢を射られて出血多量で、だったはずだがと訊く。


 一寸法師「僕がリークして奇襲をかけさせました。ついでに、動脈血管を貫通させる威力の矢をプレゼントしました!」


 一寸法師のプレゼントした矢に対して、梓が「ドS美少年キター!」とツボった。


【ナガスネビコ】が奇襲に成功したのは、事前情報を入手していたからという説はあるが、それはどうやら【未来人】の陵究(一寸法師)の【歴史知識チート】によるものだったことが判明した。


 洸「究伯父さん、やるな!………これ、灼伯父さんと究伯父さんの立場が逆だったら【歴史知識チート】は無理だっただろうな」


 伯父に対してかなり失礼なことを洸は言ったが、ウラシマは、「それな」と認めている。


 燎は、【ナガスネビコ】は【イワレビコ】を【偽天孫】と思い込んでいたから丸め込むのは簡単かもしれないが、居場所をリークする以外にもあと一手は何か必要になったと思うと言った。


 庚「それなら、究は決定的な『切り札』を持っていたでしょう」


 庚の言葉に対して燎とウラシマが、やはり【未来人】の【歴史知識】かと言ったので【人間】の【宿体】を基準にしたら、この2人は同レベルのようだ。


 梓「究伯父様は、【スクナビコナノミコト】と入れ替わったのでしょう。だったら、【スクナビコナノミコト】を持ってたのではありませんか?」


 手のひらサイズなら衣装に隠すこともできる、と梓は言うが一寸法師は衣装に隠し持っていたことは認めたが、既に【スクナビコナノミコト】は息絶えていたと言った。


 一寸法師「瓶詰めにされて、息をしていなかった………【最高神】3柱の【カムムスビノカミ】の御子に対してする行為じゃないって………何か腹が立ってね」


 それで矢じりがドリルのように螺旋状になった矢を【ナガスネビコ】に渡したと、一寸法師は言った。


 一寸法師「【古事記】では、太陽を向かいにしたから敗走したという記述になっているから………あそこで【イツセ】は死亡が確定したと思う。だったら、より苦痛を味わってもらう方法を取るよね」


 一寸法師がドSだというのが判明した。遙だけがその意見に同意している。他の者たちは、確定していたらリークだけして見物していればよかったのではないか、と思っていた。


 燎「俺の前に出された時は、瓶詰めじゃなかった!」


 ちょっと引いていた所から燎は気を取り直した。


 一寸法師「あんな瓶詰め状態で渡せるわけないよ………あんなの見たら、キミたち【先住者】はブチギレして後先考えずに突っ込むじゃないか」


 一寸法師は、【先住者】の行動を予測して瓶から出した状態で引き渡したようだ。庚は、偶然なのか【亜神】が先を見通してそうしたかはわからないが先に灼がいて後から合流したのが究でよかったと再認識した。


 ウラシマ「しかし………兄者、【先住者】は【ホオリ】と【スクナ】がやられたのだぞ。居場所を知っていれば、みんな追いかけて仇討ちしたかったはずだ」


 ウラシマは、太陽に向かって進軍していたから【イワレ】は奇襲で苦戦したなら、【先住者】たちが追撃しても敗走に追い込めたのではないか、と主張する。


 梓「無理ですね」


 一寸法師がウラシマが理解できるように、どう説明しようかと考えている間に梓が先んじてバッサリ斬る。


 なにゆえ、という表情を燎とウラシマが梓へ向ける。


 梓「灼伯父様たちは、【九州】から【近畿】へ進軍することになりますよね。この場合は【イワレビコ】たちは太陽を背にした好条件です。一方で【ナガスネビコ】は【大阪】から西へ向かったから、この場合は【ナガスネビコ】のほうが太陽を背にしているわけですよ」


 方法がないわけではない。直進せずに【四国】方面へ迂回して【紀州】方面から進軍すれば、【イワレビコ】が太陽を向かいにして【先住者】たちが太陽を背にする状態になるが、無理でしょと梓は言った。


 梓「もしも、【先住者】たちに私が今話した戦略を唱えた者がいたとして………【ホオリノミコト】という絶対的カリスマ存在を失った【先住者】たちは、そんな回りくどい追撃を採用するとは思えません」


 ウラシマは頭に血が上ると他人の話を聞かなそうだし、【大海主之王(燎)】は【先住王】の【チート異能力】で一掃と考えそうだと梓が論破してみせた。


 ウラシマ「全て見透かされていて、ぐぅの音も出せない………」


 ウラシマは、兄者がもう1人いる、と言って言い返す言葉もなくうなだれた。


 燎「因みに、我(大海主之王)が【ブレス】で一掃したらどうなるか聞いてもいいか」


 燎も【大海主之王】の行動をことごとく読まれているのを認めた上で、先の予想に興味を示した。


 梓「【近畿地方】周辺が日本から消滅するよ。威力にもよるけど………最小被害で【名古屋】から【四国】、【島根】あたりまで失くなるかな」


 最小規模でそんなことになるのはヤバい、と燎は梓の予想に返した。


 庚「その結果………【大和朝廷】は【奈良】に落ち着いたのね」 


【古事記】では決戦の地が【生駒】となっていたので、勝利してそのまま【奈良】に都を置いたのだろう、と庚は考えた。


 一寸法師「とりあえず、【イツセ】を討ち取った所で【海の先住者】たちと【朝廷軍】との諍いは、一応は終わったと言えますね。でも、【先住者】は【山】と【陸】にもいますから」


 後は僕の預かり知らないことです、と含みのある言い方をして一寸法師は笑顔で言った。 


 確実に【山】と【陸】で悶着があったのは間違いないと思わせる雰囲気だ。


 庚「【山の民】とは色々あったでしょうね………【土蜘蛛一族】との【戦】が【古事記】にザックリとだけ書かれてるじゃないの」


【土蜘蛛】って【山の先住者】よね、と庚は朔を見た。


 朔は頷く。


 朔「それなら、定期的に【生贄】を捧げてもらうことで手打ちにした。【土蜘蛛】は【目の異能力者】が多い………【目】を失うのは痛手だが、【蜘蛛】は子だくさんだからな。それも鑑みて、【生贄】で手打ちだ」


【山の先住者】は、【土蜘蛛一族】が甚大な被害に合ったが報復はやらなかった、と朔は言った。


 庚は、目先の復讐で【外界けがいの民(古族の無辜の民のこと)】を減らすより、【人間】に対価を要求した采配はデキる者の判断だと言った。


 庚「【先住者】と【人間】の繁殖率を考えれば賢明ね。【先住者】は新しい【生命】が誕生するまで数百年かかる………一方、【人間】は懐妊から1年以内に【生命】が誕生する………十数年待てば【人間】は兵の数が揃うけれど、【先住者】は兵の数を欠いた状態で【戦】に臨まなければならなくなる」


 伊吹が、手を挙げてなぜ【海の民】は【朝廷】と【戦争】になったのかと訊く。【山の民】も【戦争】をしているが【土蜘蛛】という種族単体で、【海の民】とは規模が違う。


 ウラシマ「【イワレ】が【乙姫】に一目惚れして、寄越せっつったのが始まりだったか………」


 ウラシマ(灼)は、【ホオリ】が戦死後に【転移】して来て途中参戦で、開戦の理由がイマイチわかっていなかったので燎に、どうだったと訊く。 

 

 燎「そうだ………【乙姫】は【イワレ】の祖父の妻だぞ!【イワレ】の父親【アエズ】は養母の【タマヨリ】を娶ったりと【古代日本】の婚姻事情はかなりアレだが………直系子孫が祖父の妻を寄越せは………ないわ!」


 祖父の妻ということは祖母ということになる。伊吹は、「おばあちゃんと結婚するって言ったんだ」と言ってドン引きした。


 子どもの思考と想像力なので、微笑ましい感じになっているが【戦争】にまで発展したので、かなりドロドロだったはずだ。


 梓「【古事記】って………近親ネタ多いよね。でも、直系は道徳的にアウトだから!」


 梓の【前世・道徳天尊(太上老君)】はアウト判定を下した。


 朔「梓がマトモな判定をしたな………近親相姦アリとか言いそうと思っていた」


 ちょっとだけ見直した、と朔は梓に言う。


 梓「いや………【古事記】の近親ネタ全部『破滅エンド』じゃん!」


 今の話でまた『古事記の近親ネタ』に『バッドエンド』が追加されたよ、と梓はガッカリする。    




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