第35話 晩餐
男性陣は婚約と結婚に際して話し合いをするらしく、部屋から出た。女性たちは晩餐まで、ゆっくり過ごす。だが、叔母のエリザヴェータがアヴローラに言う。
「アヴローラ、月のものでお腹が痛いでしょう?ナターリヤ様には私がバラ園を案内するから、あなたは自室のベッドで休みなさいな」
「リーザ姉様、何故おわかりに?」
「目立たないけど顎に吹き出物がある。私の母も月のものの日は、吹き出物ができてお腹も内臓が絞られるような激痛で、眠いと言っていたの。母が唯一父にフェンシングで負けた日も、月のものだったんですって。普通は五日くらいなのに、母はたった一日よ。アヴローラは?」
「一日です。リーザ姉様は?」
「二日。ザラタローズ直系の女性は、月のものの日数が短いんですって。私は症状が軽いから日数が短いのは楽だと思うけど、アヴローラは症状が重いから辛いでしょう。母も辛そうだったわ」
「ナターリヤ様、せっかくお越しいただいたのですが、わたくしは少し休ませていただきますね。申し訳ございません」
「これから私たちは家族になりますから、遠慮なさらずにおやすみくださいませ。症状が重いのに戦われたのですね?」
「日程はわたくしの都合でずらせませんもの。では、失礼いたします。リーザ姉様、お気遣いありがとうございます」
アヴローラは下腹部がギューッと絞られる痛みに毎回襲われる。祖母も症状が重く、婿入り希望の帝室男性と、フェンシングで戦った日と状況が同じとは血の繋がりを感じた。自室に戻り、ファイーナが浴槽にお湯をはり、バラのオイルを入れた。アヴローラはゆっくり入浴して着替え、あったかパンツを重ね着。症状のひとつ、頭痛の緩和で頭を冷やしながら、ハーブティーを飲み、アヴローラはファイーナに礼を言って眠った。
晩餐前にファイーナから起こしてもらったアヴローラは、正式な晩餐ではなく、我が家の夕食に友人家族を気軽に招いたと思いなさい、と父からの伝言を受けて、ネイビーブルーのハイローヘムワンピースに最低限のアクセサリーを身に着け、髪は夜会巻きで飾りは無し。化粧も最低限。父と
夕食を摂る時と同じような姿。アヴローラ専属執事のヴァレンティーンが、晩餐の準備が整いました、と伝えに来たら、アレクサーンデル様もお越しになられ、エスコートされて晩餐室へ。
晩餐室にはお客様がいらしていた。ナターリヤ様の祖母リューティク侯爵未亡人のフェオドーラ様に、リャービン大公パンテレイモーン殿下と大公女スヴェトラーナ皇女に大公子ポルフィーリ皇子。身分が高いお方の前で、ドレスではないアヴローラ。ご挨拶をしたら、親戚の集まりなのだから普段通りの夕食と仰る。
間違いではない、確かに親戚。アヴローラの祖父イヴァーンは先帝陛下の弟、フェオドーラ様は妹、パンテレイモーン殿下は末弟。アヴローラとアレクサーンデルの婚約前祝いと言われたら、ありがとうございますとしか言えず。着席したらまずはパンテレイモーン大公殿下から婚約おめでとう、と乾杯の合図で、前菜から食べ始める。実際、大公殿下もフェオドーラ様も皆を名前で呼ぶ。和やかな雰囲気で晩餐は終わり、デザートになったら、人払いをした。ここからは重要な話になるとアヴローラは気を引き締めた。
「まずはアヴローラ、そなたに礼を言う。私が息子の死に生きる気力を失くした間、
「もったいないお言葉でございます」
「私が妻を亡くして病に倒れ片方の手足が動かなかった時も、マッサージとリハビリを使用人たちに教えるだけでなく、私がリハビリしやすいよう邸内の改装をアドバイスして、毎月私の体調に合わせてハーブティーを処方しながら、私の話し相手にもなってくれた。車椅子生活だった私だが皆、その目で確かめてくれ」
パンテレイモーン殿下が車椅子から立ち上がり、ゆっくりだが杖もなしで歩く。晩餐テーブルを一周して車椅子に戻られた。リャービン大公は寝たきりで療養中だと、全貴族には周知の事実。それがご自分の足で歩かれたから、ヴィノグラードフ大公御一家もフェオドーラ様も驚いている。
「そして信じられないかもしれないが、先週私の元に、畏れ多くも女神様が顕現なされた。女神様はアヴローラが大怪我をしたが治癒なされたと。またアヴローラは女神様の愛しい姫であり、守護なさっていると。アヴローラの無償の献身が無駄にならぬよう後押しをなさると仰り、私は自分で歩けたのだ。そして
「いいえ、叔父上。私はヴィノグラードフ大公位すら返上したいと思っております。息子たちも同じです」
「私は外務大臣の職を辞し、ザラタローズ領に戻る所存でございます」
「フェオドーラ姉上。私の意思に賛同願えますでしょうか?」
「もちろん。このままではローディナ帝国は侮られ、また戦乱に巻き込まれます。国民を守る義務が私たちにはあります。私は臣籍降嫁して現在はリューティク侯爵未亡人ですが、必要とあらば帝室に戻り、あなたの手伝いをしましょう。私はあなたの姉、遠慮なく使いなさい。スヴェトラーナ、あなたも覚悟していて?」
「はい。ですが、振る舞いや教育内容などに不安がございます」
「なら、私があなたの教師になりましょう。私は皇女として教育を受けた身。そのままでは現在にそぐわないものもありますから、その時にお互い話し合いましょうね」
「ありがとうございます、フェオドーラ伯母様。アヴローラ様、私からも改めてお礼を申し上げます。兄の葬儀などでリツェイを一ヶ月休学した際には、私のために全ての教科のノートを作ってくださり、大変助かりました。また、亡くなった母の看病や、弟にも優しいお言葉をかけていただいたご恩は忘れません。そして父が自分で歩き、気力体力も倒れる以前より力強くなったのは、アヴローラ様のおかげです」
「スヴェトラーナ様、お気持ちだけで充分です。と申しましてもスヴェトラーナ様の気が済まないでしょう。スヴェトラーナ様も同じクラスだったナターリヤ様とわたくしで、真の友人になっていただけると嬉しいです」
「喜んで! 私たちはそれぞれ立場から、あくまでもクラスメイトでしたが、これからは真の友人になれるのですね。ナターリヤ様も、友人になってくれますか?」
「もちろんです。私も、スヴェトラーナ様とアヴローラ様と真の友人になれて嬉しく思います。よろしくお願いします、スヴェトラーナ様」
「女性の心遣いとは美しいものだ。我々男性は、守るべきものの為に戦う。話を詰めよう」
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