第33話 混ざり合ってややこしやー

「アヴローラ、私の義娘を助けてくれて感謝する。本当にありがとう」

「いいえ、大公殿下。わたくしが勝手にしたことですもの。叱責されてもおかしくない行為です」

「あなたがナターリヤの苦痛を和らげたのは事実。エドゥアールドが留学中なのに、私はナターリヤの苦しみに気づけなかった。ナターリヤに何かあれば、あなたは罪に問われる恐れもあるのに、ナターリヤの身を助けてくれた」


「アヴローラ様、改めて私もお礼を伝えたくて、こちらに先触れもなく押しかけました。あの時、アヴローラ様が私を助けてくださったからこそ、私はエドゥアールド様と結婚できました。つわりで苦しかった時もすぐに対応してくださり、二人の子供も出産し、育児疲れや精神的に不安定な時も乗り越えられたのです。直接お会いできませんでしたが、ハーブティーに添えられたお手紙にどれだけ励まされたか。どうか私と大公殿下の気持ちを、受け取っていただけませんでしょうか?」

「そこまで仰るなら、受け取りますわ」


「そして、もうひとつ。私の前世は佐々木です」

「パワハラ受けてた佐々木さん?!」

「そうです。副社長が配置替えを白川会長に進言されたおかげで、私は助かりました。バリ島から戻られたら副社長のお役に立ちたいと思い、インドネシア語の勉強を始めたのですが」

「あー、うん。なんかごめんなさい」

「いえ! それで、エドゥアールド様ですが、前世の梶原承太郎です」

「ジョジョなん?!」

「はい。副社長がそう呼ばれたと聞いております。後程まいりますので、確認してください」


「そして、今は大公だが、俺も前世があるんや、いとさん」

「もしか、白川のお父ちゃん?」

「せや。あんなことになって、ほんまに申し訳なかった。俺がもう少しバリ島にいてたら、あいつを無理矢理にでも引き離せたのに」

「お父ちゃんは悪くない。私かて気をつけてたけど、悪いのは犯罪者。お父ちゃん、顔色悪いし、ハーブティー処方しようか? その前に体質やらアレルギーやら問診するけど」

「頼むわ、ほんまにしんどいねん」

「ほな、前世の芙蓉ふようお姉で侍女のファイーナと、前世のティナで家政婦長のタチヤーナ呼ぶわ」


 前世で私の仕事ぶりを認めてベッドハントしてくれはった白川会長と、会長の会社でパワハラ被害を受けていた佐々木さん、部下の梶原さんまで転生してたとは思いもよらず。人払いしていたので、ファイーナとタチヤーナを呼び出し事情説明。大公殿下の問診をして、ハーブティーを出した。リーザ姉様に説明して納得してもらえたし、お父様は前世のカンテミール公爵なので、すんなり受け入れた。


「アレクサーンデル様、お越しいただいたのに、申し訳ございません」

「今は俺の父親が世話になってんねんで? 謝罪するのはうっとこの家族やって」

「バリバリの大阪弁。お父ちゃんに習ったって言うてたもんな」

「せやでー。まさか今世で父親とは思わへんで、俺も聞いてびっくりしてん」

「いとさん、このハーブティーは飲みやすいし、楽になったわ。代金支払うから、とりあえず一週間分出してくれるか?」


「ええでー。代金要らへん言うたら、とんでもなく高価な物をくれそうやからいただくわ。いただくで思い出した。オリバー、お見舞いのピオニーの花束も、ローディナ帝国では珍しい果物もありがとう。久しぶりに、ちゅーか、今世では初めて食べてん。大好物ばかりで嬉しかった」

「よかった。でも、まだ体重戻ってへんやろ」


「あと少しやし、大丈夫」

「それでフェンシング、いける?」

「いけるいける。ザラタローズ公爵家に婿入りする場合の慣習や。婿入りしてくれるんかな?」

「婿入りさせてください。種目はどれにする?」

「勝負がすぐに決まる、サーブルでかめへん?」

「かまへんけど、ほんまに大丈夫?」


「勝負前に言うのはおかしいけど、私ではアレクサーンデル様に勝てると思えへん。だからといって辞める気はないし、手抜きはせえへん。それがザラタローズ公爵家の次期当主になる、わたくしの覚悟ですの」

「お互いに、前世と今世が混ざりますね」

「事情を知らない人間がいる前では、アレクサーンデル様とアヴローラ。それ以外はオリバーとアリアードナのいとさん。皆様もよろしくて?」


 皆が納得したものの、一番混乱するのはわたくしだわ、とアヴローラは思いながら、ファイーナとタチヤーナの手を借りて着替えた。公爵家にはフェンシングのピストや判定機など全てある。アヴローラは身長が低いし、腕も短い。フェンシングでは短所となるが、幼い頃から徹底的に鍛えられた。まともに戦えるようになってからは、男女問わず使用人たちが対戦相手になった。そこで様々な戦い方を学ばせてもらえたのは、公爵令嬢という立場故の幸運だ。その恩に報いるためにも、全力で挑む決意をするアヴローラ。お互いが審判をするオニーシムの前に立ち、防具や剣の検査を受けて、いざ勝負。


 結果は延長戦になり、勝者はアレクサーンデルに決まった。が、アレクサーンデルが納得できないと言い出した。


「いとさん、魔法は習得した?」

「基礎は習得、次から応用する予定」

「俺は数種類の魔術が使えんねん。いとさんは魔法で勝負して欲しい」

「ほな、外の練習場に行こか。認識阻害の結界張れば、他人に見られへん。お互いの身体の表面にも薄い結界張るわ」


 ゾロゾロと皆で練習場に移動。審判不要なので公爵や大公殿下とナターリヤ妃殿下には椅子が用意され、タチヤーナ、ファイーナ、オニーシム、執事のヴァレンティーンは後ろに立って控える。アヴローラはそこに強固な結界を、戦う二人には動きを妨げない伸縮性のある結界を、周囲は認識阻害と遮音の大きな結界も張った。 


 開始の声を出せば、アレクサーンデルが詠唱を始めたので、アヴローラはアレクサーンデルの足元の地面を一気に削る。当然、アレクサーンデルは落ちて、驚きから詠唱が止まる。突風でアレクサーンデルを上空に吹き上げ、大量の水球を叩きつけ、バランスが取れない状態をイバラの蔓で固定。薄い結界の表面に残った水分で蔓が膨れて視界を妨げ、冷気で氷結。その氷を破壊する手段で炎ではなく爆炎で包み、視界が開けたところで、四方八方から雷撃。その場に座り込んだ、アレクサーンデルのそばに行きアヴローラは尋ねる。


「わたくし、アレクサーンデル様の詠唱を止めましたので、是非とも拝見しとうございます」

「俺は氷と水、身体強化が使えるけど、いとさんの足元にも及ばへん。これが基礎?」

「基礎」

「たとえばソードに属性付加したり、ソードで攻撃しながら同時に魔法も使える?」

「属性付加も、同時攻撃も防御もできる」

「無詠唱で魔法使えるんや」

「練習時はイメージ掴むために言葉にしてん。慣れたらイメージすればできるようになってん」


「俺、ボロ負けやん」

「フェンシングはアレクサーンデル様が勝ちましたわ。負けたと申すなら、婿入りできませんが」

「アレクサーンデルの勝ちです! 着替えてから申し込みさせてください、お願いします!」

「では、ポールディニクにしましょう。タチヤーナ、サロンに用意をお願い。皆様をそれぞれのお部屋に案内してね」

 *ポールディニク=ローディナ伝統の、アフタヌーンティー

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