第29話 回復
アヴローラが自室のリビングへ行くと、テーブルの上、花瓶に花が飾られていた。いつもならバラをメインにした花が、今日は
「まぁ、白と青のピオニーだわ。青はとても珍しいのよ、素敵ね」
「青はそんなに珍しいのですか?」
「五年くらい前に、やっと青色が完成したの」
「ヴィノグラードフ大公家第二皇子殿下からのお見舞いでございます。お手紙はこちらに」
「ありがとう、ファイーナ。食後に読むわ」
時間は昼過ぎだが、アヴローラは朝食。いつもは蕎麦の実
「おはようございます、アヴローラお嬢様。完食なされてなにより。体調はいかがですか?」
「おはようヴァレンティーン。体調もよくてよ。まずはストレッチとウォーキングから始めようと思っているの」
「それがよろしいかと。ヴィノグラードフ大公家第二皇子殿下には、公爵閣下に届ける、お嬢様が考案なされたラップサンドを召し上がり、お言いつけの回復薬をお飲みになられて驚かれた様子」
「最重要顧客用の回復薬は、元々体力や魔力の高い方だと、特に実感なされるわ。ピオニーの花々もアレクサーンデル様からのお見舞いだそうね」
「殿下自ら早朝の庭で、花束をお作りになられたと仰られておりました」
「尊い御身の方が、手ずから花束を。ならば花言葉もご存知でしょうね」
「花言葉を教えていただけますか?」
「白のピオニーは『清浄』や『謙虚』、青のピオニーは『心の安定』『穏やかな日々』だけど『未来への期待』と『夢と希望』もある、の」
段々と頬が赤くなる様子のアヴローラを見て、ヴァレンティーンはピオニー全般の花言葉、『頬を染める恥じらい』を思ったが、口に出さない。すると一輪のピオニーが、白から薄いピンク色に変わった。元からか、アヴローラの気持ちがピオニーに反映したのか、妖精のイタズラか。
「お、お見舞いのお手紙を読まなきゃ」
ヴァレンティーンが、ペーパーナイフで上部を切りアヴローラに渡すと、中はカードだった。
『あなたの回復をお祈りします』
それだけだが、アヴローラの体調を考えて負担にならないよう、カードにしたのだろう。流麗な文字、さすがは皇子殿下だとアヴローラは思う。ファイーナとヴァレンティーンにも見せると、お嬢様もカードでお返しすれば、と。夕食後に書くから、アレクサーンデル殿下がお見えになられたら、今朝のように朝食と回復薬を提供するように告げ、恥ずかしさを隠すためか、着替えてリハビリをするわ、とアヴローラは急いで離席した。
翌日からアレクサーンデル殿下のお見舞いの品が大量の果物になり、使用人たちにお裾分け。わざわざ輸入されたのか、ローディナ帝国では珍しい果物でアヴローラの大好物ばかり。ただ果物も果物言葉も甘い。ビワ(治療・変わらぬ愛)、水蜜桃(私はあなたのとりこ)、ライチ(初恋・恋の喜び)、リュウガン(幸福)とリュウガン花のハチミツ、マンゴスチン(魅力)。マンゴスチンは世界一好きな果物で、過去のアヴローラがバリ島の市場でキロ単位で購入し、爆食いした記憶がある。
アレクサーンデル様への御礼もカードからお互い手紙になり、アヴローラの食欲や体力も回復、リハビリから鍛練に移行。精霊王たちや妖精たちとも親交を深め、体内の魔力ではなく、自然界に存在する魔力を使い様々な方法を習得。しかし体重は、三キロしか戻らなかった。一週間寝込んで五キロ落ち、普通なら回復に三週間かかる。五日でここまで回復できたのでよしとする。メイドたちから毎日、全身を磨かれるのは想定外だった。
そして叔母のエリザベータからアヴローラに、前世の玉緒お嬢様だったと打ち明けられ、再会を喜んだものの伴侶だった誠一郎様はいなかった。エリザベータは「自分のわがままに振り回したから、もし転生していても幸せならそれでいい。植物がメインになるがザラタローズ領政の補佐をする」と宣言した。アヴローラにファイーナとヴァレンティーンがいるように、エリザベータにはイサークと妻のイリーナが、体調管理や身の回りの世話をしていた。エリザベータは研究に没頭すると、寝食を忘れる。なので、今後もイサークとイリーナがエリザベータ付きになるそうだ。
夕方、久しぶりに公爵が帰宅。サロンで三人お茶を飲みながら公爵が話す。明日は休みで、明後日は皇宮で今回の事件について、陛下も交えての報告会が行われる。なので、アヴローラとエリザベータは、朝の
「報告するのは全て処理済み。そこから大揉めに揉める。エリザベータは我慢を、アヴローラは最低限だけ発言。私とヴィノグラードフ大公殿下がなんとかまとめる」
「兄様、私も参内しなきゃならないの?」
「今回は絶対だ。参加することに意義がある」
「わかったわ」
「アヴローラ。明日の昼過ぎにヴィノグラードフ大公殿下と、アレクサーンデル殿下がお越しになられる。お前の正直な気持ちを聞かせてくれ。アレクサーンデル殿下と結婚する気はあるか?」
「希望いたします。殿下は聡明ですし、ダンスをした時に鍛えていらっしゃるのがわかりました。お見舞いの品々もお手紙も、わたくしの気持ちや体調などを最優先にお届けくださいました。殿下なら、ザラタローズ領政の即戦力になりますし、領民も受け入れると思います」
「ザラタローズ家では次期当主が女性の場合、婿入りする男性と戦い、男性が勝てば認める慣習がある。先代の母は七才の時、父から求婚されて十年後、母が負けたので結婚したそうだ」
「十年もの間、祖父は祖母に勝負を挑んだのですか?」
「そうらしい。母が負けたのは、その一度きり」
「戦うのはフェンシングですか?」
「刃を潰したソードでもいいが、翌日は皇宮に参内するからアザや傷を見せられない。フェンシングが妥当だな。殿下はお強いが全力で戦いなさい。負けるからと最初から手を抜くのは殿下に対して無礼になり、ザラタローズ領の領民を裏切る行為だ」
「はい、お父様」
「夕食前に面倒を片付けてくる。パーリム侯爵がマリーヤに求婚した。商談も兼ねて、契約書を作成したからサインする。マリーヤは私物のみ持参、我が家の使用人は誰一人付き添わない。アヴローラ、同席しなくていいぞ」
「いいえ、あの子はわたくしに文句を言いたいでしょうから同席します。最後ですもの」
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