第9話 夜会2

 *性描写があります、ご注意ください。 


 気づけば補佐官たちの周囲に近衞騎士が六人。皇帝陛下にも、夜会に集まった全貴族にも、どの角度からでもよく見えるよう、帝室魔術師がスクリーンを展開して上映会開始。昨夜、アヴローラの弟妹の会話の問題発言が流され、ニキータの顔が赤や青に変わる。アヴローラに下賜されたドレスは意図的におとしめ、はずかしめる為で、次期公爵はアヴローラが罰せられて僕が継ぐ、とザラタローズ公爵家の乗っ取りを宣言した証拠になる。


 次は元皇弟、ヴィノグラードフ大公が寄せられた、と仰った映像が流れる。


 映像には皇妃の離宮内『花の園』と、場所と日時が画面下に表示。登場人物は全裸の皇太女殿下と補佐官たち。広いベッドの上、まだ十七才で未成年の皇太女殿下は、補佐官四人と最後まで淫らな行為をしている。皇太女殿下が「嘘よ、捏造よ!」などと叫んでいたが近衞騎士に拘束され、さるぐつわを噛まされた。


 補佐官たちは青かった顔色が白く、おとなしく拘束されていた。映像は続き、皇太女は、見目よい複数人の男性と口や不浄の穴までも使い淫らな行為のかたわら、変わった小瓶に入った飲み物を飲んでいる。婚姻前の女性は目を固く閉じ、親やエスコート相手が耳を塞いでいるが、映像内の該当貴族たちは顔色が変わり、逃げようとした者たちは近衞騎士に確保された。


 ザラタローズ領内で家畜を選抜して繁殖行為も見た上で、登場人物たちは家畜以下のけだものだとアヴローラは思う。それに『花の園』で皇妃と皇太女が、複数の男性と同衾していたことから推測すると母娘が共謀。皇太女が下賜したドレス姿のアヴローラを『娼婦』と貶し、アヴローラを全貴族の前で断罪して社交界から排除したかった可能性がある。上映会は終了。儀仗官の声が響いた。


「ザラタローズ公爵家、公妹こうまいエリザヴェータ・イヴァーノヴナ・ザラタローザ、及びラマーシク侯爵令息、イサーク・ボリスラーヴォヴィッチ・ラマーシク、ご入場です!」


 赤の深いVネックドレスの女性が、燕尾服を着た男性にエスコートされて陛下の前に立ち、深いカーツィをする。スカートは深いスリット、ウエストの左右は肌が見え、腹部には赤い椿の花と葉のブローチ。バストから両肩までクロスした生地が首の後ろで留められ、背面はヒップギリギリまで開いており、とても長いダイヤモンドネックレスが首を起点に背中から腰のあたりまで輪になり下がっている。ボディスタイルに自信がなければ着られないドレス。


「エリザヴェータ・イヴァーノヴナ・ザラタローザ、遅参して申し訳ございません。ご無沙汰しております、皇帝陛下」

「許す、楽にせよ。本当に久しぶりだな。大和やまと帝国において椿の研究者としての活躍、余も耳にしておる。いつこちらに戻った?」


「先程、戻ったばかりでございます。私の姪が、いわれなき中傷や侮辱をされると聞きまして居ても立っても居られず。今後はザラタローズ領で椿の研究をする所存でございますの」

「そ、そうか」

「陛下、可愛い姪のそばに行って、よろしゅうございまして?」

「そなたはザラタローズ公爵の妹だ、当然のこと。素晴らしい研究者の帰国を歓迎する」


 もう一度、深いカーツィをしてから、満面の笑みでアヴローラに向かって歩き、ガバッと力強いハグ。淡い金髪を結い上げた赤紫色の瞳で背も高い、アヴローラの叔母エリザヴェータ。


「会いたかったわ、アヴローラ!」

「遅かったな」

「アヴローラが陛下の御前にいたから、入口で止められたの。兄様も久しぶり」

「俺はついでか」

「アヴローラに会いたかったんだもの」

「わたくしもお会いしたかったですわ、リーザ叔母様」

「もう、アヴローラったら。私をリーザ姉様と呼ぶように言ってるでしょ」


 ぎゅうぎゅうとハグされるかたわらで、大和帝国でエリザヴェータは椿の、薬用植物の研究をしていたイサークは公爵に挨拶をしている。イサークは帝都ザラタローズ公爵邸の家令オニーシムの兄、ザラタローズ公爵領本邸家令の息子だ。叔母を落ち着け、アヴローラもイサークに挨拶。革命終了後に別れてから、数回しか叔母もイサークも帰国していなかったので、本当に久しぶりだ。


「あー。ザラタローズ公爵家の再会中だが、続けてよいか?」

「どうぞ、続けてくださいな」

「リーザ姉様、陛下に失礼ですわ」

「あら、大丈夫よ」


 苦笑している陛下も何も言わず。次に登場したのは大学の学長と、ニキータの担当教授にマリーヤの担当教授。学長たちが陛下にご挨拶して、アヴローラに聞きたい事柄があると言う。アヴローラが了承すると、ニキータの担当教授から紙を一枚渡された。十分後に、紙に書かれたテーマについて要約し、こちらの質問に答えて欲しいと言われたが、すぐに述べる。マリーヤの担当教授も同様で終わり、学長が宣言する。


「ニキータ・ペトローヴィチ・ザラタローズと、マリーヤ・ペトローヴナ・ザラタローザの学位を剥奪、在学抹消する!」


 会場からどよめきが起こり、陛下がアヴローラに尋ねる。


「アヴローラ・ペトローヴナ、心当たりは?」

「畏れながら申し上げます。わたくしはリツェイ在学中から弟妹に宿題を教えており、二人が大学在学中は手本にしたい、と言われてレポートを書きましたし、参考にしたいと頼まれて卒業論文は絶対にわたくしが書いたものをそのまま提出しないと約束させた上で、論文を二本、書きました。弟妹を姉として助けたわたくしの甘さが、アカデミズムの冒涜に繋がったのです。学長、教授方に心よりお詫びいたします」


「謝罪は不要。アヴローラ・ペトローヴナは論文二本を剽窃ひょうせつされた被害者である。よって、アヴローラ・ペトローヴナ・ザラタローザに、経済学と文学両方の学位を授ける」


「学長、わたくしは学位をいただけません。既に学位をお持ち方々や、在学中の学生に対して失礼ですし、不平等だと不満の声が上がります」

「一般教養課程は学部共通で、あなたも既に受講した。レポートも卒業論文も、この場で即答したモノローグも素晴らしい出来栄え。会場の皆様、異議があるなら挙手を、賛同なら盛大な拍手を」


 挙手はなく、盛大な拍手が会場に響き、陛下からも「受けるように」と言われては断れず、アヴローラは学長から二つの学位を授けられ、卒業論文は2人の名前を抹消後に、改めてアヴローラの名前で大学が印刷・製本するとのこと。


 亡き公爵夫人の実家アトキン侯爵家も『花の園』に出入りしていたので家族が言い争い、アヴローラの妹マリーヤが泣きながら庭園へ行くのを止める状態ではなく、アヴローラも叔母と会話していたので気づかなかった。

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