ぽりぐろ

末座タカ

プロローグ(三月〜七月)

中高一貫校の合格発表は土曜日だった。

インターネット発表はあるが、家では落ち着かないので、さくらは自分の目で見にゆくことにした。

父とには、結果を見たらすぐ帰る、と言って家を出た。

土曜出勤の母も、午後は休みにして早めに返って、合格のお祝いをしてくれるはずだった。

電車をのりついで学校に行き、さくらと同じように自分で確認しにきた他の受験生たちといっしょに十一時の発表を待った。

家族連れの受験生もちらほらいた。

係の人が受験番号をはりだした。

他の生徒達におされながら、手元の受験票と、掲示された紙の上の番号を何度も見比べた。

さくらの番号はなかった。

頭の中が白くなったきぶんだった。

しばらく掲示された紙のまえで立っていた。

家に帰りづらくて、ぼんやりと学校の周囲を歩き回り、夕方になってから電車に乗った。

家には、さくらの合格を疑わない母が買ってきたケーキが冷蔵庫の中にあった。

さくらが報告するまでもなく、さくらが不合格だったことは、父も母もインターネットで確認したらしかった。

母は結果をみるとすぐに、お休みはとりやめて土曜出勤の職場に戻ったということだった。

母がいない家で、さくらは父と二人でケーキを食べた。

父が何か言ってくれたが、何も見にに入らなかった。

夜になってから、祖母から電話がかかってきた。

父の母で、田舎で一人暮らしをしている。

父は伝えづらそうに、さくらが不合格だったことを告げた。

父の話す様子を横で聞いていると、祖母は、さくらの母がショックをうけたらしいことを気にしているらしかった。

以前から母は、祖母のことをしきりに気にしていた。

母が、さくらを中高一貫校にいれることを主張したのも、祖母のことを気にしたからだった。

祖母は、高校の教師を長年勤めて、また、さくらの父を有名大学に進ませた。

おばあちゃんには負けないわ、というのが母の口癖だった。

父とかわった電話口で、祖母に、人生は長いのよ、と言われたが、さくらには慰めにはならなかった。

さくらは、自分がくやしい、ということよりも、母が大きなショックをうけているだろうことが分かって、悲しかった。

その日は、夜遅くまで待っていたが母は帰ってこなかった。

父に促されて、さくらは寝た。

さくらは地域の公立中学校に進学することになった。

お母さんはいそがしいから、と言いながら、制服の準備や各種手続きは父が率先して動いた。

あわただしく入学準備をして、あっという間に入学式がおわった。

クラスには馴染めなかった。

通学路で、かわいい制服を着た、中高一貫校に合格をした生徒たちの姿を見かけたり声を聞くと、そちらを見ないようにした。

胸がどきどきして、自分の姿がみえなければいいのに、と思った。

毎日夕方は、だれもいない家に帰って、一人で過ごした。

本ばかり読んでいた。

ファンタジーやライトノベル。

新しい趣味だった。

深く考えることなく、物語に引き込まれて、何時間も時間をすごすことができた。

いままでは受験に役立つ読書ばかりで、読む暇がなかった。

また、同級生が話題にしていても、気にならなかった。

その反動だろうか、小遣いをすべて使って、部屋には本の山ができた。

そのうちに、参考書を買うからと言って、父にお金をもらって本を買い込むようになった。

父も、参考書を買うのではないことは分かっているようだが、だまってお金をわたしてくれた。

中学に入ってから、母はさくらとは口をきこうともしなかった。

4月から責任ある地位についたという母は、依然として帰宅時間は不規則だった。

朝食、夕食は父が準備した。

また、さくらに学校の様子を聞くのは、おもに父だった。

父に毎晩、学校の様子はどうだ、何度もといただされ、さくらはそれを重荷に感じた。

「友達はできたか?」

「小学校からの友達もいるから」

「勉強のほうはどうだ?」

「まあまあ」

毎回、当たり障りのない返事をしていた。

依然として、新しい友達はできなかった。

公立中学には、小学校からの知り合いもいたが、さくらがグズグズしている間に、皆早々と新しい友達をみつけてしまった。

クラスの中に仲良しグループがいくつかできだたが、さくらは出遅れてしまっていた。

ぐずぐずしているうちに、募集期間の締切を逃してしまい、課外活動には参加しない。

そして、勉強にも身が入らなかった。

分かりきったことを教えている、とおもってしばらく集中しないでいたら、たちまち授業がわからなくなっていた。

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