第6話 レベル上げ厨、【称号】を手に入れる


 3月19日。


 今日も今日とて、俺は朝から新宿ダンジョンへとやって来ていた。


「おい、もしかして……」

「アイツじゃね……?」

「ああ……昨日のイカれた……」


「ん? 何だ……?」


 新宿駅の中にある探索者協会支部の中に入り、更衣室で着替えてからダンジョンへ移動する間にも、なぜか周囲の人たちから視線を向けられている気がした。


「…………」


 思わず周囲を見渡すと、なぜかさっと視線を逸らされる。


 服装とかがおかしいのだろうかと確認してみたが、特におかしいところは見られない。


 俺としたことが自意識過剰になっているのだろうか?


 少々不思議に思いつつも、誰も何も言って来ないし、もう気にしないことにしてダンジョンへ移動した。


「さて、今日も元気に殺っていくか……っ!!」


 昨日は疲労のせいで中途半端な時間に帰ってしまったが、もはや一層のモンスター相手に緊張することはない。ならば、昨日のように途中で疲労が限界に達することはないだろう。たぶん昨日のは気疲れっぽかったからね。


 そんなわけで、意気揚々とダンジョンの奥へ歩き出していく。


 道中、夜の間に個体数が回復したのか、多めに発生しているスライムたちを適当に長剣で斬り裂きつつ、経験値の多いゴブリンさんを探す。


 程なくして、今日一匹目のゴブリンさんが見つかった。


 俺はぱあっと表情を輝かせると、親しい友人に出会ったかのように、軽快な足取りで近づいていく。


「ゴブリンさ~ん!!」


「グギャ? グギャァアアアアアアッッ!!!」


「――死ねぇッ!!」


 ゴブリンさんの肩口に向かって袈裟に剣を振り下ろし、胸の中心まで斬り裂く。


 まだまだ一刀両断とはいかないが、もはやレベル1ゴブリンさんなら一撃だ。


 俺はドロップした魔石を拾って背中のリュックへ入れつつ、次の獲物を探して歩き回る。


「う~ん、しかし、これだけ楽に勝てるなら、もう第2層に降りた方が効率良いか……?」


 第2層に出現するモンスターはスライムとゴブリン。これは1層と同じだが、違う点が2つほどある。


 一つはモンスターのレベルが上がっているということ。「現代ダンジョン攻略Wiki」によれば、レベル2~3のスライムとゴブリンが出現するらしい。たぶんだが、今の俺なら十分に倒せる強さだろう。


 だが、もう一つの違いというか問題がある。


 1層ではモンスターはほぼ単体でしか出現しない。これはモンスターが発生する位置が、互いに離れているのが理由だ。


 しかし、第2層では同種のモンスター同士で、最大3匹の群れを作って出現することがあるのだ。このため、通常2層以下では「パーティー」を組んで探索することが推奨されている。


 ちなみにパーティーとは、単に仲間と組んで探索する集団を意味しない。ダンジョン入り口にある黒のオベリスクに、「パーティー結成」という機能が存在し、その機能を用いて結成した探索者集団のことをパーティーと呼ぶ。


 これの利点は、戦闘での貢献度に関係なく、全てのメンバーが同じだけの経験値を得られることだ。


 戦闘での貢献度で得られる経験値が変わってしまえば、アタッカーばかりが強くなり、タンクやヒーラーが成長しないということもあるため、この機能は探索者たちに歓迎されていた。


 それにパーティーを組むためのハードルも、想像するよりは高くない。


 探索者協会が提供するパーティーメンバー募集のためのマッチングアプリ「ダンジョンペアーズ」というものがあり、友人知人に探索者がいなくとも、このマッチングアプリを使うことで初対面の人ともパーティーを組むことができる。


 まあ、これは違う意味で大人気なんだけど。――ダンジョンに出会いを求めるのは間違っていると思います!!


 ともかく。


 俺自身の話に戻るが、俺はこれからもパーティーを組むつもりは一切なかった。


 なぜなら、パーティーを組むと経験値が人数によって等分されてしまうからだ。パーティーの最大人数は5名で、つまり入手する経験値は最大5分の1まで減ってしまう。


 レベル1スライムの経験値は「5」だから、5人パーティーだったら「1」まで減ってしまう計算だ。


 レベル1ゴブリンでも、経験値が「10」なので一人当たり「2」の経験値しか得られない。


 もちろん下の階層で強いモンスターを狩れば経験値は増えるし、人数が多ければより強く、より経験値の多いモンスターを倒すことも可能だ。


 しかしそれを加味しても、レベル上げという観点ではソロの方が圧倒的に効率が良い。


 だいたいにして、これがゲームならば主人公以外のキャラクターのレベル上げをすることでも気持ち良くなれるから良いが、現実のこのダンジョンでは自分以外の他人のレベルを上げたところで、俺自身はちっとも気持ち良くなれない。


 そういう意味でも、やはりパーティーを組む選択肢はないだろう。


 ――と、少々話が脱線してしまったが……、


「やっぱり、予定を繰り上げて第二層に潜ってみるか?」


 戦ってみてダメそうだったら一層に戻れば良い。


 今のステータスなら、二層のゴブリンさんたち相手でも、逃げるくらいはできるだろう――と、俺は自身のステータスを改めて確認してみる。


――――――――――――――――

【名前】鮫島 武男

【レベル】『3』 次のレベルまで経験値『165』

《HP》32/32

《MP》18/18

《筋力》20

《頑丈》12

《知力》6

《精神》12

《敏捷》17

《器用》12

【STP】『0』

【SP】『0』

【スキル】《刀剣類装備時ダメージ上昇Lv.3》《狂化Lv.1》

【称号】《狂人》

――――――――――――――――


「…………おやぁ?」


 何ですかぁ、これはぁ?


 見慣れないスキルと見慣れない称号が、いつの間にか生えてますねぇ?


 とりあえず、スキルと称号の詳細をステータス画面で確認してみる。


――――――――――――――――

【称号】

《狂人》――多くの者に狂人と認められた者の証。スキル《狂化》を獲得する。


【スキル】

《狂化Lv.1》――スキル発動中、《筋力》2割上昇、《知力》2割低下、被ダメージ1.2倍。

――――――――――――――――


 ……多くの者に狂人と認められた証、じゃねぇよ!


 いったいなぜこんなことに!? 身に覚えがなさすぎる!!


 俺は本気で混乱した!!



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る