夜の村と闇に潜む影

 夜が訪れると、村は一層静まり返った。昼間はかろうじて残っていた人々の話し声も、今は完全に消え去っている。まるで村全体が、何かを待っているかのような異様な静けさだった。


「これは……ただ事じゃないわね。」


 アリシアが鋭い眼光を走らせる。


「確かに、静かすぎるな……普通、夜になれば酒場や家から明かりが漏れてくるものだが……。」


 俺も辺りを見回したが、村の家々は固く閉ざされ、どの窓も厚い布で覆われている。まるで外の何かを恐れているかのようだった。


「エリス、今夜の巡回はどうなってる?」


 俺の問いに、エリスは神妙な面持ちで答えた。


「村の巡回兵も、最近では夜になると外に出たがらなくなりました。ですが、私と数人の村人は、夜の異変を調べるために時折巡回を続けています。」


「つまり、今夜は俺たちがそれを引き継ぐってわけか。」


 俺たちは村の中心部をゆっくりと歩きながら、周囲の様子を観察した。


 ——ザザ……ザザ……。


「……!」


 草を踏む音が遠くで響く。俺たちは一斉に身構えた。


「……誰かいるのか?」


 返答はなかった。しかし、暗闇の奥から何かがこちらを見つめている気配がする。


「気をつけろ、来るぞ!」


 俺が叫ぶと同時に、黒い影が霧のようにゆらめきながら、ゆっくりとこちらに近づいてきた。


「なんだ、あれ……?」


 レオンが息をのむ。影は人の形をしていたが、明らかに人間ではない。その輪郭は曖昧で、揺らぎながら歪んでいた。


「……何かがおかしい。」


 アリシアが剣を構えた瞬間、影が突然動き出した。


「来るぞ!!」


 俺たちは、一斉に迎撃の態勢を取った。

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