時を止める暗殺少女は、ふつうの恋を夢に見る

塔野秋

プロローグ

 三十秒だけ、時間が止まる。


 生徒たちの囁き声も、黒板に反響する先生の声も、グラウンドの声援も。

 何もかもが無音に変わる。


 その中で、わたしの鼓動だけが、やけに大きく響いていた。


 隣の席を見る。

 わたしの鼓動は、速くなる。


 横顔を見る。

 わたしの鼓動は、もっと、速くなる。

 

 手を伸ばす。

 わたしの鼓動は、もっと、もっと、速くなる。


 窓の外を見る。

 わたしの鼓動は、まだ、速いままだった。


 初めて教室で、クロノスタシスを使った。

 ここで使うことは、もうないと思う。

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