第4話:カーティル、集結

イルミナたちが訓練している時と同時刻、とある辺境の地にて・・・

そこには、カーティルの軍服を着た男二人が佇んでいた。


「軍に指定された座標はこの辺りのはずだな、リオール。」

「そうじゃなぁ。レオ。この付近に魔族の反応があるはずじゃ。」


リオールと呼ばれた大男はいかにも古強者といった体躯であり、もう一人の男・・・レオもまた細身ながら鍛え抜かれた戦士の風格がある。両者共に猛者だ。

その時、レオが遠見の魔術を起動する。


『ディスタント・ビジョン』


その呪文は高度な魔術であり、簡単に習得できるものではない。そしてレオが『ディスタント・ビジョン』で魔族の住処を探していると、ついに発見する。


「見つけたぞ。西に800メートルだ。障害物はない。ここからでも狙撃はできるが、どうする?」

「流石の才能じゃわい。わしは突っ込むが、お主はここで狙撃しているといい。」

「了解だ。敵の混乱を招いてくれ。」

「承知じゃ。」


そう言うと、リオールは爆発的な踏み込みで西へ向かう。


「久しぶりに暴れるぞい!」

「無茶はするなよ。」

「おうよ!」


瞬間、リオールが爆発的な踏み込みを見せる。そのスピードは弾速を超え、音速に迫る勢いだ。


「はあぁぁぁ!!」


そしてリオールが廃れた集落に入ったと同時、魔族が複数現れる。その魔族たちに言葉を交わさせる暇も作らず、リオールの奇怪な戦闘が幕を開ける。


「おっと、炸裂弾じゃ・・・落としてしもうた。」

「なに!?貴様ぁ!!」

「退け!!」

「逃げろ!!」


刹那、リオールは強烈なバックステップを踏む。その直後に爆発。その爆発をもろに喰らったのは3体の魔族のみ。リオールは無傷だ。その理由は特殊に加工され、前方にだけ爆炎が舞う仕様が施された爆薬だ。そのおかげで後方にいたリオールは無傷だったというわけだ。

その爆破の煙が晴れた頃、リオールの眼前には視界に入るだけで30を超える魔族がいる。万事休すか・・・・誰もがそう思うだろう。だが、ここにいる男を舐めてはいけない。30年にわたりミリタニア帝国皇帝の懐刀、カーティルの室長を務めてきたのだ。もはやその強さは帝国軍内最強格とも言えるだろう。それに加え、リオールは極度の戦闘狂。敵が手強いほど燃えてくる。


「久々に燃えるのぉ。若い頃を思い出すわい。『猛拳』と呼ばれたあの日々を・・・!」


その時、リオールの全身の筋肉が隆起する。


「さぁ、かかって来るといい。わしが全員骸にして魔王城に着払いで送りつけてやるわい。」


その言葉を聞いた瞬間、申し合わせたように魔族が一斉に襲いかかる。だが、それを見ても一切動じない。それがリオールの強みだ。その時既にリオールの奇策は発動していた・・・・


それより少し前、レオはというと、リオールのとある動きを待っていた。


「あのリオールのことだ。何か合図があるはずだ。それを待とう。」


リオールは戦闘中、近接戦闘中心の自身の動きを仲間に知らせるため、ある特殊な動きをする。その動きというのが一定の間隔で三連続の爆発を起こすというものだ。この行動には自分の無事と、後方支援部隊への合図が込められている。

レオはその合図を待ちつつ、周囲の”音”に耳を研ぎ澄ます。並外れた聴覚と狙撃の能力、それこそがレオをカーティルに至らしめる所以だ。

その時だった。草むらからガサっと小さな音が聞こえる。


「そこにいるのは何者だ?出てくるといい。」


そう言ってレオは草むらに体を向ける。するとそこから、一つの影が飛び出す。


「さすがは国家最強部隊の一員だ。だが、この俺には勝てんな。」

「その姿、魔族だな。」

「おうよ。我が名はアルト。この周辺の魔族の中じゃ最強と言っていい。」

「ほう?ならばこの裏の世界、力比べと行くか。」

「楽しみだねぇ。あんたの実力が!」

「ならば行くぞ・・・!」


その瞬間、レオが矢継ぎ早に呪文を唱える。


『アイシルク・ピアス・バースト』


放たれたのは3本の氷弾。だが、アルトは簡単に当たるほどの魔族ではない。その全てを躱し、レオの懐に入る。


「懐取ったあぁぁ!!」

「ふん、その程度か。容易だな。」

「なんだ!?」(まずい、何かある・・・!)


そしてレオは拳を固め、何かの予備動作に入る。瞬間、レオが震脚を踏み抜く。


「んな・・・!まさか!」

「今頃気づいても遅い。実に容易だったぞ。魔族・・・!」


放たれたのは、岩をも穿たんばかりの崩拳。それはアルトの鳩尾を完全に射抜いた。遠距離からの狙撃だけでなく、近距離戦においても一流の戦いができる。それこそカーティルが誇る最高戦力、レオの真骨頂だ。


「が・・・・ぐふぅぅぅ・・・。」

「ほう?まだ立ち上がるか。面白い。」

「貴様如きに・・・負けていられるかぁ!!」

「ならば、貴様の底力、見せてみろ・・・!」

「があぁぁぁぁぁ!!」


アルトは雄叫びを上げながら突進してくる。だが、レオがそれに返したのは・・・冷酷無比な視線だった。


「悲しい突進・・・。最後は苦しませずに逝かせてやる。」

「舐めるなぁ!!」

『インパルス・ピアス』


『インパルス・ピアス』。その魔術は電属性で最高峰の狙撃魔術であり、圧縮された超高電圧を前方に向けて放つ魔術だ。

そんな最高峰の魔術が容赦なくアルトの胸に突き刺さる。


「ご・・・あ・・・。」


それを喰らった瞬間、アルトは力なくその場に倒れ伏す。超高電圧を喰らったアルトは既に事切れていた・・・。その勇姿を見届けたレオはその事切れたアルトに向けて手を合わせ、冥福を祈る。その一連の動作には「死ねば皆仏」というかつて仏門に降ったレオならではの考えが籠っていた。


「見事な勇気だったぞ。尊敬に値する。」


そう悲しげに呟いてレオは再びリオールの方へ目をやる。


「先の戦闘中、合図はなかった。相当手こずっているようだな。少々支援といくか。」


と、思ったその時だった。リオールであろう3回の爆発音が鳴り響く。それはごく小さい音。だが、その小さな音も拾うのがレオの地獄耳だ。


「今の爆発音、リオールだな。ならば、こちらも動くとしよう。」


そう呟くと、リオールのいる方角の空に向けて左手を伸ばすレオ。そしてある呪文を呟く。


『マジック・レイ』


その呪文は魔術により人工の太陽を生み出す魔術だ。レオの手から放たれた人工太陽はリオールの頭上高くで光り輝く。そして・・・


「そろそろじゃな・・・?」


何かを気取り、その場から爆発的な踏み込みで離脱するリオール。それを遠見の魔術で確認したレオは即座に次の行動に出る。その行動は、実に予想外のものだった。なんと、なんの変哲もない爆薬を取り出し、空高く投げ放ち、そのまま腕を交差して前に突き出す。そしてまたも呪文を唱える。


『ウィンド・ピアス』


その呪文は風の弾丸を光速で撃ち放つ術だ。そのタイミングは計算し尽くされていた。なんと落下してきた爆薬にベストタイミングでヒットし、そのまま前方800メートルまで飛ばして見せたのだ。その爆薬の効果範囲はものすごく広く、多くの魔族を巻き込んで爆発四散したのだった。その爆風が晴れたことを確認したリオールは陰から飛び出し、残った魔族の殲滅を開始する。そのやり方は実に卑怯の一言。遠距離から六角手裏剣やら炸裂弾を飛ばすやら多岐に渡る。それが始まってから30分が経った頃。ついに魔族の増援が止まったのだった。そして魔族の殲滅が完了したことを伝えにレオの元へ戻る。


「レオや、殲滅完了じゃ。今回の援護も完璧じゃったぞい。流石は同期じゃ、わしのことをよくわかっとるわい。」

「ふん、このくらい当然のことだ。リオール、先ほど本隊から通信があった。今すぐに本部へ戻れとのことだ。」

「了解じゃ。それじゃ転移魔術で戻るかのう。」

「そうだな。行くぞ。」

「おう!」

『メタスターシス・カーティル』


レオがそう呪文を唱えると、二人を光が包んでいく。光が晴れるとそこはいつもの赤いカーペットの部屋だった。二人はかなり長期の任務だったため、帰ってくるのは久しぶりだ。そこにもう一人、帰還した人物がいた。その人物は長い青髪をポニーテールの要領で束ねた小柄の女性だった。


「おぉ!アリスちゃん!お主も帰っておったか!」

「リオール室長、レオさん!お久しぶりです!お互いかなりの長期任務でしたからね。会えなかったのも仕方ないです・・。」

「アリス。”始まりの地”の調査はどうだった?」

「バッチリ完了しましたよ!今までわかっていなかった古代魔術に関しても少し進展しました!」

「ほう?それはまた見事だな。後ほど聞かせてくれ。」

「もちろんですとも!」


そんなことを話しているとその部屋に四人の人影が入ってくる。そう、エレナたちだ。


「あら、早かったじゃない三人とも。」

「リオールのジジイ!生きてやがったか!」

「人をなんじゃと思っとる!」

「みなさんご無事なようでよかったです・・・!」

「さぁ、これでようやくカーティルのメンバーが揃ったわね。じゃあ会議を始めるわ・・・とその前に、紹介するわ。うちの新たな・・・というか特別将校のイルミナよ。上に申請したら軍階は中佐になっているわ。だから、この中だとアリスやアルマと同じね。直属の上官はノア、大佐よ。それ以外のメンバーも仲良くしなさい。仲の良さこそ戦闘時の連携に繋がるわ。」

「「「「「了解!」」」」」

「じゃあ早速会議を始めるわね。まず最初の議題よ。私たちに与えられた任務は3つ。1つはこのイルミナの完全保護。2つ目は魔族、および世界統一主義の壊滅。3つ目は”始まりの地”とそれに関連する古代魔術の調査よ。魔族や世界統一主義に関してはレオとリオールに、”始まりの地”に関してはアリスに任せて動かしていたけど、これからは私が陣頭指揮をしながらその都度部隊を編成していくわ。異論はあるかしら?」


するとノアが声を出す。


「一ついいか?」

「なんでもどうぞ?」

「今はイルミナの完全保護を優先して考えるべきだと思う。だからだな、それに一定の戦力を割くことになるだろ?それで他が疎かになったら本末転倒だ。俺はイルミナも通常の任務に連れて行くべきだと思う。」

「あなた正気!?イルミナはまだ成長段階。連れて行けるわけが・・・」

「だからだよ。成長段階なら飲み込みも早いだろ?ならいっその事任務に連れて行って守りながら戦い方を教えてやればいい。」

「なるほど・・・。一理あるわね・・・。わかったわ。それも視野に入れて考えてみる。」

「あんがとさん。」

「それじゃあ、今日の会議はここまでね、今は皆体を休めなさい。」

「「「「「了解。」」」」」


会議が終わり、各々の部屋に戻っていく中、イルミナはエレナにこんな質問をした。


「エレナさん、なんで室長のリオールさんじゃなくてエレナさんが指揮をとっているんですか?」

「あぁ、それはね、上がそう判断したのよ。私はカーティルの中で三番目の立ち位置。それに加えて学生時代は戦術学を専攻していてね。指揮をとるのに最適だったのよ。でも室長は長年軍階が上の人間がやる風潮だった。そこで二つを分けてしまえってなったのよね。そういう訳よ。」

「なるほど・・・そうだったんですね!」

「さ、あなたも”色々と”疲れているでしょうし、早く部屋に戻って休みなさいな。」

「はい!お疲れ様でした!」

「お疲れ様〜。」


そうして7人は各々の部屋に戻って行った。

この時はまだ、誰も想像もつかなかっただろう。イルミナの加入をきっかけにとんでもないことに巻き込まれるなんて・・・

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ミリタニアと悲劇の少女 泉谷 匠海 @takumi0913

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