ミリタニアと悲劇の少女

泉谷 匠海

第1話:新たな日々

それは、ある夜のこと。辺りは静寂を極め、闇が満ちる。そんな夜闇の中を少女・・・イルミナは走っていた。


「はぁはぁはぁ、ここまで来れば・・・大丈夫かな・・・。」


イルミナは何かから逃げているようだった。イルミナがそう呟いた瞬間、陰から人影が現れる。


「お嬢さん、こんな夜中にお一人ですか?」

「え・・・?」


そこに現れたのは、フロックコートを身に纏った怪しい男。男はイルミナの戸惑いを無視して語り始める。


「ある少女の話をしましょう。その少女は生まれつき”特別な力”を持っていたそうで、皆から異端だ、異能者だと蔑まれ、排他されて来たそうです。その少女の能力は人の優れた部分を限界を超えたその先まで強化できるというモノだそうです。当然、その力に目をつけた組織があった。その組織は少女の力を使い、世界を統一しようと少女を捕まえようとしたんです。」

「・・・!!」


その語りを聞いたイルミナは恐怖に支配される。なぜなら、”同じ”だからだ。


「ところで、お嬢さん・・・いや、イルミナさん。この話、聞き覚えがあるんじゃないですか?」

「い・・・嫌・・・!誰か・・・たすけ・・・!」


瞬間、男がイルミナに向けて飛び出す。


「貴方のことですからねぇぇぇぇ!!」

「嫌あぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


イルミナが男に捕まる・・・・・・・・と、思った。


「嬢ちゃん、目瞑ってな。」

「え・・・?」

『バースト・フレア』


そう呟きながらイルミナの背後から一つの人影が飛び出す。


「こんな綺麗な女の子相手に下衆な手段使いやがって。お前は地獄行って反省しとけ・・・!」

「なんだ貴・・・ぐおあぁぁ!!」


男が言い終わる前に飛び出した青年の魔術が起動し、3つの火球放たれる。そのうちの1つが男に命中し、吹き飛ぶ。それを見た青年がイルミナに話しかける。


「嬢ちゃん・・・イルミナだったか?もう大丈夫だ。お前の命は俺たちが預かる。」


青年は真っ直ぐな目でイルミナの目を見てこう言った。それを聞いてイルミナは本能でこう思った。「この人は信じていいんだ」と。そして青年は吹き飛んだ男に向けて言い放つ。


「お前、世界統一主義の一派だな?」

「あぁ、そうさ。世界統一にはその女の力が必要なんだ。だからここで回収する。」

「回収・・・だと・・・?人を物みたいに言いやがって。」

「実際、その女は利用されるだけの道具だ!物として扱って何が悪い!道具として使い古された後には私が奴隷にでもしてやる。その方が社会貢献だ!」


男は完全に歪んだ思想の持ち主だった。それを黙って聞いていた青年はイルミナにこう尋ねる。


「イルミナ、お前はあいつのところに行きたいか?」

「い、嫌だ・・・。絶対やだ!!」

「そうか、わかった。じゃあ、俺に任せていい。」


青年はズカズカと男に近づいて行く。それを見た男はナイフを抜き、大きく振り上げる。瞬間、青年の脚が跳ね上がる。


「大振りだ。そんなの誰にも当たらねぇよ。これでも喰らっとけ。」


青年の突き刺すような蹴りが男の顎にめり込み、再び吹き飛ぶ。


「ごあ・・・!!」


冷酷な眼差しで睨む青年を尻目に男は逃亡を図ろうとする。しかし、青年はそれを許すような人間ではない。即座に男の髪の毛を掴み持ち上げ、何をするかと思えば、なんと青年は大きく拳を振り上げ、殴り始めたのだ。純粋な暴力。それが男から徐々に意識を刈り取っていく。そして顔面に十数発拳を浴びせた時、完全にその意識は途切れたのだった・・・

青年は男の意識がなくなったのを確認すると即座に通信魔術を起動する。


『アクセス・カーティルチャンネル』


腕に装着された通信魔導器から女性らしき声が漏れ聞こえる。


『ターゲットは無事保護したの?』

「当たり前だ。小さな怪我はあるが、命に別状はない。」

『それならよかったわ。今そっちにアルマを向かわせてるから、合流したらこっちに戻りなさいな。』

「了解だ。」


そんな会話をして通信を終えた。青年は通信を終えた後、少し考えてからこう言った。


「自己紹介がまだだったな。俺の名前はノア。ミリタニア帝国軍が一翼、特殊部隊「カーティル」の一員だ。よろしくな!」

「ノアさん・・・。助けてくれてありがとうございます。でも、帝国軍の、それも特殊部隊がなんで私を助けたの・・・?」

「あ〜そのことか・・・。ここじゃ盗み聞かれる可能性もある。一旦俺らの拠点まで来てもらえるか?それから全てを話す。その方が安全だし、安心できるだろ?」

「わ、わかった・・・。」


その時だった。イルミナの目が駆け足で近づいてくる中性的な見た目の青年を捉える。


「お二方!お待たせしました!」

「おぉ!アルマ!よく来てくれたな。」

「ノア先輩、説明はしたんですか?」

「いや、あっちに戻ってから話そうと思ってな。」

「そうですか。わかりました。イルミナさん、初めまして。僕の名前はアルマと言います。僕たちの拠点に来てくれるんでしたね。それじゃあ行きましょうか。」

「は、はい・・・。」

「おう!」


二人が返事をすると、アルマが矢継ぎ早に呪文を唱える。


『メタスターシス・カーティル』


その呪文が起動した瞬間、三人の足元に法陣が現れ、三人を光で包んでいく。そしてその光が晴れた時、三人がいたのは赤いカーペットの部屋だった。その部屋にはきめ細やかな金髪の妖艶な雰囲気を放つ女性が佇んでいた。


「ただいま戻りましたよ〜っと。」

「エレナさん、今帰りました。」

「あら、早かったわね。それと・・・その子がイルミナさんね?」

「あ・・・はい・・・。」


イルミナが怯えた声でそう答えると、エレナと呼ばれた女性が優しい声で言った。


「怖がらなくていいわ。ここには貴方の味方しかいない。敵がいたらすぐにわかるからね。」


それに呼応するようにノアが続く。


「イルミナ、言ったろ?お前の命は俺らが預かるって。」


それを聞いた瞬間、その場の安心感からか逃げ延びながらの生活が終わることからの安堵からかイルミナの目から涙がこぼれ落ちる。


「う・・・・うぅ・・・。」

「おい、エレナ!泣いちまったじゃねぇか!お前の顔が怖いからじゃねぇか?」

「んな・・・!あんたねぇ!人の顔をなんだと思ってんの!?元はと言えば貴方がちゃんと説明してないからでしょ!?」

「まぁまぁエレナさん落ち着いて・・・。」


ノアがからかい、エレナが怒る。そしてそれをアルマが諫める。これが普段の日常である。そんな場面を目の当たりにしたイルミナの目には涙はなく、その顔には優しい微笑みがあった。

その微笑みを見たノアが話し始める。


「そういう訳で、イルミナ今回お前を保護することになった訳を説明するぞ?準備は大丈夫か?」

「う、うん。大丈夫です・・・!」

「わかった。じゃあ話すぞ。単刀直入に言えば、お前を守り抜くためだ。」

「守り抜く・・・?」

「さっきお前を追ってた連中、あいつらは世界統一主義って言ってな。世界を統一した一つの国にしようって考え方を持ってる言っちまえば過激派だ。それに加えて最近じゃ魔族も魔王復活のためにお前を追ってることがわかった。だから帝国軍はこう判断した。『その子を守り切れば世界は守られる』ってな。」

「私を守ることで世界が守られる・・・?」

「あぁ、過激派も魔族も私利私欲のためにお前の力を使おうとしてる。それも世界に影響を及ぼすほどのな。だからその力を守り切って、世界を救おうぜって話だ。」

「それって・・・私が死ねばいい話ですよね・・・。私が死ねば、全てが解決しますよね・・・!」

「何言って・・・」

「私を殺してください。そうすれば世界が救われ・・・・」

「馬鹿野郎!じゃあなんで俺がお前のこと助けたんだ!俺はお前に生きて欲しいから助けたんだ!少なくとも俺はお前に生きて欲しいと思ってる。そのためなら、俺は一生お前の味方だ。一生守ってやる。」

「え・・・?」


今まで何度も死ねだの消えろだの言われ、差別されて来たイルミナには理解が追いつかなかった。いつの間にかその目には再び涙が満ちていた。


「おい・・・。また泣いちまったじゃねぇか・・・。やっぱりエレナの顔が怖いからだろ・・・これ・・・。」

「だ・か・ら!あんたは人の顔なんだと思ってるの!!」


エレナがノアに殴りかかる。それを必死に止めるアルマ。それを見てイルミナは泣きながら声を上げて笑った。


「ふふふっ!みなさん、仲良しなんですね?」

「あぁ!仲良しだぜ!!」

「はぁ??何言ってんの?私はあんたなんか嫌いよ!!」

「喧嘩するほど仲がいいとも言いますし・・・。」


三人が冗談混じりにそう言っていると、「ふぅっ」と息をついてイルミナが話し始める。


「いいですよ?私、みなさんに守られます!」


それに応えたのはノアだ。


「本当か!?」

「でも、一つ条件があります。」

「ん?なんだ?」

「私もみなさんの仕事を手伝いたいです・・・!」


その目には強い覚悟が宿っていた。その目を見て、三人は覚悟を受け取る。その上でノアが続ける。


「その言葉、重いぞ?俺たちの手伝いってことは生死に関わることになる。俺らはそういう薄汚い家業だからな。それで後悔しないか?少しでもあるならやめとけ。」

「絶対に後悔しません。みなさんの厄介になるんです。少しは手伝わせてください・・・!」


そう言ってイルミナは深く頭を下げる。


「エレナ、どうする。」

「そうね・・・魔力眼で見たところ鍛えればかなり優秀ね。ノア、アルマ、護衛を兼業に頼めるかしら。」

「「了解!!」」

「頭を上げなさい、イルミナ。今日、この瞬間から貴方は「カーティル」の特別将校に任命するわ。これに関しては国軍少将の私から上層部に進言しておく。安心して任務に当たりなさい。」

「・・・!!ありがとうございます・・・!!」

「明日には軍服と部屋を支給するわね。今日は私の部屋で眠りなさいな。」

「わかりました!!」


こうして、イルミナは逃亡する地獄から脱却し、帝国軍での新たな暮らしが始まることになるのだった・・・・・

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