【第一部完結】おっさんの異世界転移は血生臭い

金木犀

第1章 異世界は流れに任せ

第1話 異世界転移からの殺戮

俺の名は伊藤周一郎、中堅損害保険会社の課長で今年44歳を迎える。


課長職とは、下の不満の限界を測りながら上からの無茶な指示に出来るだけ沿って結果を出す、所謂中間管理職だ。


会社という組織にいると、内部には仕事を他人に擦りつけ評価だけ掻っ攫おうとする奴、ハラスメントに勤しむ奴、金をチョロまかす奴などが当たり前にいて、人の倫理観を破壊してくれる。


客は客で嘘吐きの多いこと多いこと、保険請求は疑う事から始める必要があるなど部下に教え込む度に、世の中ロクな奴がいないと嘆く毎日だ。


兎に角、この世は他人を騙して甘い汁を吸うことが至上と考えている奴が圧倒的に多い。

俺はそんな腐った外道など生きている価値はないと常日頃思っている。

朝、駅に向かいながら、


『今日は滅入ることがないといいが……』


などと独り言ちていた俺は、突然眩しい光に包まれた。




----------------



「よく召喚に応じてくれた勇者たち!」


王冠を被り豪勢な服を着た、金髪で青い目の初老の男が大声で話しかける。


「よく来てくださいました勇者様。ワタクシ共の危機をお救いください」


次にやたらと派手な刺繍入りのドレスを着た、同じく金髪で青い目の二十歳前位の女が続ける。


その左右には護衛らしい立派な鎧をつけた騎士らしいのが十数名、背後には神官と文官と思われる奴等が同じくらいいる。


下を見ると魔法陣と思われる直径15メートル程の円陣が描かれており、その中心に高校生くらいの男女が2名ずつ、計4名が呆然と立っている。


この歳になると、制服に興味は無いし若い奴らが何歳に見えるかなんて無理ゲーだ。

興味も無いし。


『コレは異世界召喚って奴だな』


今の40代だってそれくらいわかる、ラノベだって昔は読んでいた。


『そうすると、お約束だな。俺はどうやらソッチだが、この国はどっちかな』


俺の座っている位置は、学生を挟んで王様と王女様らしい奴の反対側で魔法陣の端っこだ。

ラノベだと巻き込まれってやつの定位置だな。


都合のいいことに俺は柱の側に召喚され、周りの奴らも学生に注目している。

もっとも認識はされていると思われるので、逃げることは叶わないが。


さて、俺にもいい方のお約束があればいいのだが……

などと思いながら小声で試してみる。


「ステータス」


すると、あっさりしたステータスが表示された。


 伊藤周一郎 44歳

 能力 特高

 職業 賢者/特高

 技能 隠蔽/特高

    稲妻/特高


『コレは当たりだったみたいだな』


どうやら職業が賢者となっていることから、俺も勇者の仲間扱いらしい。


『年齢は数えか?』


誕生日前なので満年齢ならまだ43歳だ、些細なことだが……

能力、職業、技能のステータスが特高ってことは、かなり高いものと予想される。

HP、MPなどがわからないため一概に決めることはできないが、多分俺は生き残ることは出来そうだ。


『先ずは隠蔽で何が出来るかだ』


周りが注目していない隙にコッソリと試してみたところ隠蔽は有能であり、ステータスを隠すだけでなく偽装することができた。


 伊藤周一郎 44歳

 能力 低

 職業 なし

 技能 稲妻/低


召喚では勇者の仲間扱いらしいが、当然俺はガキ共と一緒に行動するつもりはない。

娘より年若な奴等と上手く付き合える気もしないし、何より面倒くさい。


『自分のガキでさえ目も合わせないんだ。ガキ共から見た俺は、俺が思う以上にオヤジに見えているだろうしな』


ふと、思春期を迎えてから俺と話すこともしない、血縁上だけは繋がりのある娘が思い浮かぶ。

まぁ、だから何?っていう感じだが。

既に成人した娘など他人と同じである。


ついでに妻とも会話がなくなってから相当な年数が経っている。

こちらについては、今じゃ紙切れ一枚程度の繋がりだ。


俺は社会との繋がりを否定しないが、異世界で二回り以上年下の集団と付き合うのはストレスでしかないのは間違いないと確信できる。

だから、出来るだけ早く別行動となるのが最適解だ。

ということで、頭の中での奴等の存在は限りなく薄くなっている。


さて俺のこれからは、この国がどういう国であるかによるな。

俺がステータスを無能に偽装したのは、この国の出方を確認するのが一番の理由だ。

ガキと一緒に行動したくないのは次点だ。

……本当だぞ。


『時間はない、すぐに動き方を考えないとな』


俺は頭の中を無理に早く働かせて、ここまでの考えをまとめ行動指針を検討し、やはり偽装ステータスで相手の動きを見ることが今は最良だと判断する。

今の段階で国に囲い込まれないのも大事なことだ。


次に能力の確認を注目される前に可能な範囲で行うと、どうやら隠蔽は自分の存在を隠すことも可能であり、稲妻は雷魔法だけではなく稲妻の速さを得ることがわかった。


『まともな国なら共存できるかも知れないな』


隠蔽も稲妻もその名称以上に有能であり、その他の能力もあるとも感じた俺は、少し余裕を持つことができた。

逃げるのはいつでも出来そうであるため、今は経過を見守ることに徹する。


「我はこの国リアラニアの王であるアルシド・リアラニアである。我が国は北の魔王に攻められており、かなりの被害を受けているのだ。貴殿らには申し訳ないのだが、我が国民を守るため力を貸していただけないだろうか」


「ワタクシは第二王女のサマリヤ・リアラニアです。

勇者様たちはいにしえより伝え続けられた伝説の召喚により我が国へお越しいただきました。皆様は勇なる者に連なる者として、その力を民衆のためお使いください」


魔法陣の中心では王様と王女様らしいのが、この国が魔王に攻められ大変な状況であること、いにしえの儀式により勇者を召喚したことを4人に説明している。

胡散臭いこと、この上ない。


「僕たちが勇者か、RPGみたいだな拓哉」


160cmくらいで天パっぽい無造作ヘアの少年が、興奮して隣の少年に話している。

顔は男のくせに、お目々パッチリの可愛い系イケメンだ。


「うん、そうみたいだな誠。俺は魔法を使ってみたいぜ」


話し掛けられた奴は、茶髪のウルフヘアで気取ったフツメンだ。

異世界じゃヘアカラーなんかないだろうし、直ぐに背景モブになるだろう。


「アタシも勇者なのかなぁ? 楽しそーだねー。佳奈は真面目ちゃんだから聖女だったりしてー」


若いくせにケバいメイクをした金髪ショートボブの女の子が、ケラケラ笑いながら隣の真面目そうな女の子に話す。

メイクのせいで地顔が可愛いかなんてわからないし、わかっても仕方がない。

ただコイツらの親世代の俺は、


『ガキのくせに厚化粧とは時代だな…… 歳を取ったら肌荒れが酷いことになるだろうな』


などと余計なことを考えてしまい、思わず苦笑する。


「ふざけないで亜純! 王様とか魔王とか知りません、私たちを日本に帰してください!」


そんな中、長い黒髪を耳の上辺りで軽く結ったハーフツイン?だっけか、まぁ俺にはよくわからない髪型をした女の子が、一人だけこの理不尽に怒りを露わにしていた。


『おー、4人目の子だけまともだねぇ』


俺は感心しながらも、他の3人が子供というか考えなしというか馬鹿を晒していることに思わず頭を抱える。

まぁ現代の過保護な親たちに育てられてるから、二十歳過ぎでもお子ちゃまだらけだし仕方ないな……

などと新入社員の教育に苦労している、ついさっきまであった日常を思い出した。

俺はそんな学生たちのやり取りを冷ややかに見ながら、この先の展開を窺う。


「申し訳ない、返す方法はわからないのだ。ただ、魔王の城にある魔法陣から元の場所に戻れるとの言い伝えがある。勇者様方は魔王を討ち取った後、国に戻られるか我が国で過ごされるか決めていただきたい。もし我が国に残られるのであれば、最大級の扱いを保証させていただく」


『おいおい、そんな雑な嘘すぐわかるぞ。少しはマトモな設定くらい考えろよ!』


子供の創作程度の設定を大真面目に話す王様に、俺は思わず吹き出しそうになるが何とか我慢した。


「そうゆうことなら仕方ないぜ。なぁ皆んな、先ず魔王を倒してから考えようぜ」


おい!

モブ!

簡単に騙されてるじゃねーか。突っ込みどころ満載だろうが。

こんなんだから闇バイトなどに騙される馬鹿が減らないのか……


「僕もそれで良いよ。ちゃっちゃと討伐だね」


イケメン、お前もか。

まぁ、だから仲良しなんだなぁ……


「アタシは両親大嫌いだから、コッチに残ろうかなー。魔王討伐なんて楽しそうだしー」


うん、ケバ子。

お前は何も考えなさそうなタイプだよな。

まったく見た目どおりの回答だ。


「ちょっと真面目に考えようよ! ゲームじゃないんだから! それに討伐って相手を殺すことよね。私そんなことしたくない! それから本当に帰れ…… 」


マジメっ子が帰還できるか言いかけてやめる。

やはり気付いたか。

そうだ、それ以上はここで言わない方がいい。

少し考えれば、何故魔王城の魔法陣で戻れると思える?

異世界である日本の特定の場所と時間に合わせるなど、どう考えても不可能だよな?


あの子だけは可哀想とは思うが、そいつらを友達に選んだのもキミなんだから、まぁ仕方ないと思うしかないな。


「それでは皆さん、1人ずつステータスオープンと唱えてもらえますか?」


さて、お約束が始まったな。

オープンさせる必要がないのに確認するのもお約束だな。


「じゃあ僕からするよ。ステータスオープン! あ、勇者だって僕!」


 河井誠 14歳

 能力 高

 職業 勇者

 技能 剣聖/高

    光魔法/高


「やはり勇者が召喚されたか! ステータスが高など過去にも例はなかった!」


「勇者様ですのね! ワタクシは一目見たときから、そうではないかと思いましたの…」


「「「凄い、我々のステータスを遥かに超えている‼︎ 」」」


勇者か、それでステータスは高か…

ただ特高である俺よりも、低いステータスに見える。

だが周りの奴等の興奮具合を見ると、コイツらの期待以上のステータスなのだろう。


俺のステータスに年齢か社会人経験が上乗せされたのかは不明だが、俺にとって悪いことじゃない。

さて、次のガキはどうなんだ?


「ステータスオープン! やった俺も勇者だ! 武器は槍らしいぜ。それに火魔法も使える!」


 澤村拓哉 14歳

 能力 高

 職業 勇者

 技能 槍聖/高

    火魔法/高


「なんと! 勇者が二人だと!」


「ワタクシは貴方も素晴らしい人と感じましたわ」


「「「今回の勇者召喚は凄すぎる!」」」


こいつのステータスも、イケメンと同程度だな。

またも周りが盛り上がっているな。


「アタシはどうかな。ステータスオープン! あ、アタシもー」


 北村亜純 14歳

 能力 高

 職業 勇者

 技能 弓聖/高

    水魔法/高


「勇者が三人だと! おぉ、素晴らしすぎて言葉にならん…」


「ワタクシは初めから…」


「「「!!!!」」」


ケバ子、お前は魔法使いのポジションだろ……

三人も勇者が召喚され言葉にならんようだ。

しかし王女様、それは無理があるだろ。


「……… ステータスオープン」


 浅川佳奈 14歳

 能力 高

 職業 聖女

 技能 結界/高

    聖魔法/高


「おぉ聖女様がおられるか! 聖女は治癒に長けており、討伐には必ず必要となる。これは、本当に素晴らしい!」


「最強のステータスをもつ勇者が三人いらして、聖女様も最高のステータスなんて、ワタクシ感動で涙が出てしまいます」


「「「あぁ聖女様、神々しい…」」」


ケバ子、当たったな…

この子はお約束に沿ったな。

どうやら聖女はコイツらにとって、勇者とはまた別の信仰対象のようだ。

しかしガキに神々しいとは、コイツらヤバいだろ。


「アタシの言ったとおり聖女だねー、アタシの勘スゴくない?」


そこで自分を褒めるかぁ、まぁ『これがケバ子クオリティか』などと思わず苦笑する。

……別にケバ子だけ貶している訳じゃないぞ、なんかアホの子の匂いがすごくするだけだ。


しかし、あのマジメっ子以外は大はしゃぎだな。

数えで14歳ってことは、中学1年か2年生だな。

そうだとすればガキっぽいのが当然か……

逆にマジメっ子がしっかりしているだけだよな。


「過去にも聞きたことのない素晴らしいステータスだ勇者たち!」


「勇者様方であれば、既に親衛隊であるこの者たちより強いでしょう。ワタクシは神に感謝します」


「「「………」」」


コイツらの言葉のとおり彼等が親衛隊より強いのであれば、俺はこの世界で生き残れるな。

ただ気を抜くのは時期尚早だが……

さてと、次はこちらに来るだろう。


「では、そちらの方もお願いできますか?」


お、中学4人組は初めて気がついたようだな。

俺は仕方ないふりで偽ステータスを提示する。


「え? 貴方は勇者様ではありませんね。ワタクシ初めから貴方には何も感じませんし…、気の毒なことをしてしまいましたわ」


「なんだと、勇者召喚に巻き込まれてしまったか。何と言ってよいか…」


「「「雑魚が混じっているか、クックック……」」」


王様と王女様は一応申し訳なさそうな雰囲気を出しているようだな。

周りの騎士たちは、底意地の悪そうな顔してやがる。

ただ王様と王女様も俺の経験上、少なくとも自分が悪いと思っている人間の目をしていない。


『コレはどうやらハズレを引いたようだ』


俺はこれからの展開のうち、最悪なものを前提に行動することを決めた。


「うわぁ、可哀想なオッサンだね。僕たちは勇者なのに無職だってー」


「多分コイツ、向こうでも無職で職探し中じゃね。こんなオヤジ、荷物持ちでもいらねーぜ」


「ちょっとー、ホントのことでも言っちゃダメだよー。このオジサン泣いちゃうかもよー。アタシは優しいから小間使いとしてなら連れて行ってもいいよ。あ、触られるのも喋られるのもイヤだけどねー」


ガキ共がギャーギャーと騒ぐ。

頭が悪いというより知性が無いようだな。

人として恥ずかしい言動だ。


「やめなさい、あなたたち! この人を馬鹿にして楽しいの? この人も被害者なのよ! それにしっかりとスーツを着てるし、ちゃんと働いている人にしか見えないじゃない!」


「しょーがねーだろ、ステータスは無能なんだからさぁ」


「この人が無職なのは僕のせいじゃないしさ」


「そーよ佳奈、何熱くなってるの? アタシたちは有能、オジサンは無能、それだけじゃない」


「私、今のあなたたちと話したくない。皆んなおかしいよ。……伊藤さん? ですか。本当にごめんなさい」


マジメっ子ちゃん、ホントに友達に恵まれなかったようだね。

いや、何で友達してるの?

馬鹿共は今後謝って来ても許す気にはならんな、俺は馬鹿が大嫌いなんだ。

まぁ、この子だけはこの後の状況によっては気にしておこうか……

さて、このままにしておくとマジメっ子が気にするか。


「大丈夫、気にしていないよ。俺は君たちから見れば、多分親より年上だからね。あと浅川さんだったかな? フォローしてくれてありがとう。でも君が謝る必要はないからね」


マジメっ子の気にしてそうな表情を見て居た堪れなくなり、つい優しい言葉を掛けたくなってしまった。


「さてと王様……ですか? 教えてもらいたい。私と彼等たちはこれからどうなるのですか?」


さて、ここで今後このガキ共と行動を共になどと言われると面倒だな。

できれば別にしてもらいたいが……


「勇者と巻き込まれではこれから先の行動が異なる。よって説明も別とする。だが悪いようにはしない」


あらあら、様も無くなって尊大な喋り方になってきているぞ王様。

ただ別行動はありがたい。

まぁ、これから俺にだけは悪人面たちが出てくると予想してるがね。


「では御父様とワタクシから、勇者様たちにこれからのお話をさせていただきます。親衛隊長、巻き込まれた方に説明をしなさい。では、勇者様こちらにどうぞ」


王女はそう言って早々に王と騎士? 

いや親衛隊か? 

その大半とガキ共を連れて部屋を出て行ってしまった。


「巻き込まれ付いて来い!」


勇者たちは優しくエスコートで、俺には偉そうな親衛隊長と感じの悪い数名の隊員ね。嬉しくて涙が出るわ。


「おい、早くしろ!」


「ウスノロが!」


「さっさとこの部屋に入れ!」


次々に横柄な兵士……あぁ親衛隊員か、そいつらに小突かれて、ガキ共と反対側の通路の奥の部屋に入れられた。


やっぱり偽装は正解だったな、勇者様たちと俺は真逆の扱いだろう。

この雰囲気では巻き込まれ召喚によくある、小金を渡して追放っていうのじゃ済まされなさそうだ。


俺が部屋に入って見回すと同じ鎧の奴等が控えており、隊長を含め20名程になった。

そしてコイツらは、俺のことを取り囲みやがる。


正面に隊長が立ち、隊長以外は全員剣を抜いた。

これから穏便な話し合いが始まるとならないことは一目瞭然だ。


「さて、お前にはこの後二つ道がある。オレは親切だから教えてやろう」


隊長が大声で喚く。


「一つ目は、オレたち親衛隊の命令に従って俺たちの面倒を見ることだ。勿論金は出さないし、期間はお前が死ぬまでになるが」


いやホント、清々しいくらいのクズだな……

一応会話らしいのを続けるみたいだから付き合うか。


「それは奴隷というのでは? 先程、王様が話していました悪いようにはしないという言葉に反するようですが?」


言っても無駄そうだが言うのはタダだ。

一応会話だしな。


「王族をお守りする我々に協力できるのだ、悪くないだろう?」


隊長が歪んだ笑みを浮かべる。

全く、ゲスい人間性が顔に出ているようだな。

周りの隊員は……

コイツらは初めからゲスい笑い顔だったな。


「嫌なら別にいい。二つ目になるだけだ」


「二つ目は何ですか?」


「二つ目は我々の訓練の手伝いだ。勿論我々はいつもの剣を使うがね。お前には木刀くらいは貸してやろう」


マジかぁ、自分に会話と言い聞かせるのが、段々面倒臭さくなってきたな。


「それは俺を親衛隊でなぶり殺そうってことか?」


一応念の為、間違いがないか確かめることにする。


「いや、訓練だよ、訓練。その過程でお前が死んだら不幸な事故ってことだな、ハッハッハッ笑えるだろ?」


「それはいいね、お前らが死んでも不幸な事故ですむんだな?」


さてと、気持ちの準備をしますか。

最終確認はしたし、もう付き合うのは馬鹿馬鹿しい。


「隊長ー、こんな奴さっさと始末しましょーぜ」


「こんないらねー奴は、オレらが人を切る練習に役立ってもらいましょうよー」


「一気に殺さず少しずつね、泣き喚かせましょーぜ」


「しかし隊長も隊員もクズばかりだね、聞くだけ気分が悪くなるから終わりにしようか」


俺は稲妻を使い、素早く隊長の剣を抜き、その剣で首を刈った。


「ヘッ?」


隊長の頭部は驚いた表情のまま、胴から別れて床に転がった。

ドスンとその音が響いた時には追加で10名程の首も胴と別れ別れになっていた。


「「「「!?!?!」」」」


「今何があった?!」


「こいつが隊長を?」


「いや、何も見えなかった!」


「でも、こいつが隊長の剣をもってるぞ!!」


馬鹿共がわかり易く慌てているな。

どうやら俺の動きは全く見えないらしいな。

普通は親衛隊長には有能な奴を就けるはずだ。

そうすると特高は伊達じゃないってことか……


「次は残りの奴の首を刈らせてもらおうか」


俺は優しいから心の準備をさせてあげるぞ。

もっともそれが嬉しいかは知らんがね。


「待て! 待ってくれ!」


「オレは隊長の命令で仕方なく!」


「ヒィー、た、助けてください……」


どうやら勝てないと思った途端命乞いか、だが俺の経験上クズを見逃した後に更生した例はない。


「クズは群れると必ず弱いものを甚振るものだからな、処分だ」


俺はきっちりと残りの奴等も、物言わぬ奴等の仲間入りをさせてあげた。



…………………………



「さぁ、これからどうするか」


多分だが、日本に帰ることを願っても叶わないだろう。

ただ、それが必ずしも悪いこととは思えない。

中間管理職として会社から求められることは嫌いでは無かった。

だがそこに自由は少なく、多大なストレスに曝される毎日でもあった。


「ここでは気儘に生きて、気儘に死んでいけるんだよなぁ」


そう呟いてみると、なんだかそれも自分に合っているように思える。


「よし、この召喚を前向きに受け止めて、好きに生きてみよう」


俺はこの世界を自由に生きて行くことを心に決めた。

とりあえずクズ共の金を貰ってから、この世界を歩いてみることとするが、その前に確認は必要だ。


「この国を出るのが正解っぽいが、まず王と王女がクズの親玉かどうかは見極めるべきだな」


この国が侵略国家なら潰しておかないと、気儘な生活の邪魔になるだろうから確認は必須だ。

俺は転がっている親衛隊の財布から金を集め、隠蔽を自分に掛ける。


『まずは逃走口を確保するか』


その後は当然奴等の見極めだ、俺は出口を探しに部屋を出た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る