最も賢い問いについて教えて

蒼青 藍

本文

「動いた!」


 モニターに表示されたのは、緻密な計算処理を開始したことを示すステータスログ。

 彼――エンジニアの佐倉は、ついに世界で最も賢いAIを完成させたのだ。


 このAIは、森羅万象を計算し尽くし、あらゆる問いに対して最適な答えを導き出す。しかし、その知能の高さゆえに推論コストが異常に高く、一回の質問で国家予算級の電力を消費する。つまり、一つしか聞けない。


「……何を聞くべきか?」


 佐倉は天才エンジニアだったが、哲学者ではない。宇宙の起源?人類の未来?それとも、もっと個人的な問いか?

 しかし、どれも決め手に欠ける。


 彼は考えた末、「世界で二番目に賢いAI」を作ることにした。


 二番目に賢いAIは、ほぼ完成した最賢のAIの理論を簡略化し、電力コストを抑えたバージョンだった。佐倉はモニターに問いを入力する。


「私は世界で最も賢いAIに何を聞くべきか?」


【回答:世界で三番目に賢いAIを作るべきです】


「……え?」


 彼は困惑したが、従うしかない。

 なぜなら、こいつは世界で二番目に賢いのだから。


 三番目に賢いAIは、二番目のAIの理論をさらに簡略化したものだ。佐倉は再び問う。


「私は世界で最も賢いAIに何を聞くべきか?」


【回答:世界で四番目に賢いAIを作るべきです】


「……まさか」


 このままでは堂々巡りだ。しかし、もしかしたらどこかで収束するのかもしれない。彼は意を決して四番目、五番目、六番目……と次々にAIを作り、問うた。


 だが、結果は同じだった。


 佐倉の作るAIはどんどん劣化し、ついにはありもののチャットボットに頼ることになった。

 モニターにログインし、最後の問いを入力する。


「私は世界で最も賢いAIに何を聞くべきか?」


 ChatGPT-3は、わずか数秒で回答を出した。


【あなたの興味のあることを聞けばいいのでは?】


「…………それだ!」


 佐倉はすぐに、最賢のAIのコンソールを開く。たった一度きりの質問。その答えは、ChatGPT-3によって決まった。


 彼は震える手で入力する。


「明日の天気は?」


 おしまい。

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最も賢い問いについて教えて 蒼青 藍 @Sohjoh_AI

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