第34話 縁結びの木の怪(11)
「私が旧校舎の木について知っていることはそれぐらい。お役に立った?」
理事長が私の反応を伺っていたので慌てて写真のパネルを返した。
「はいっ!ありがとうございました……。あの、今生徒達の間であの木に関して色々噂されていて、心身の体調を崩している生徒がいるんですが……ご存知でしょうか?」
私は恐る恐る理事長に縁結びの木の怪異について切り出す。理事長はさして驚きもせずに頬に手を当てて話し出した。
「長年女子校に勤めているとね、そういうことが流行り出すのは珍しいことじゃないのよ。昔なんか願い事をするのに髪の毛の一部を土に埋めて祈るなんていうのもあったし。消しゴムに好きな人の名前を書いて誰にも使わせずに使い切るなんてのもあったのよ。
特に女の子は噂話、占い、怖い話が好きでしょう?生徒の間で都市伝説が生まれては消えていくのは自然なこと。それに伴う人間関係のトラブルも同じね。多感な時期でもあるし、心身に影響が出やすいの」
「私はどうすればいいですか?教室内の雰囲気も重くて……」
理事長は穏やかな笑みを浮かべて答えた。ああこの感じ……。怪異を信じていない人の雰囲気だ。理事長は縁結びの木に囚われる生徒達を女子校特有の現象だと捉えているようだった。
「そういう時期は一瞬だから。台風が来たと思ってじっとしていなさい。できることといえばお友達の話を聞いて傍にいてあげることぐらいかしらね」
あの木を切ってくださいなんて言えるはずもなく、私は力なく項垂れた。今学校で起こっている異変を理事長に伝えるのは難しい。オオムカデが校内に現れたのだって、ナナシさんだって見た人にしか恐怖や焦りを共有することはできないのだ。
授業中は皆普通だし、縁結びの木に願掛けしている光景も理事長にとっては「恋愛成就を祈るかわいらしい生徒達」にしか見えないだろう。
「……はい。そうします」
理事長の助けを求めることのできなかった私は頭を下げると、静かに理事長室から退出した。
その夜、私は頭痛がしながらも『Fの心霊現象考察サイト』へアクセスした。『心霊現象考察依頼掲示板』を遡っていく。
「これだ……!」
私はスマホをスクロールする手を止めた。
ユーザー名Unknownさん:この写真に写る少女についてどう思いますか。
画像添付(着物を着た白黒の古い少女の写真)
サイト主Fの返信コメント:随分古いものですね。時代からして明治時代ぐらいでしょうか。少女の周りに黒い靄のようなものが掛かっていて不気味です。私が今まで見てきた経験から何か悪いものに憑りつかれているように思えます。少女の瞳は仄暗く、私達に何か訴えかけているように思いました。身体も透けて見え、少女の身に悪いことが起こっていないか気になります。
この依頼主の添付した写真の少女が似ているのだ。亡くなった女学生がいるという集合写真に写っている少女に……。
「まさか……ね」
一息つこうとした私をどこかで見ているのか。バイブ音と共にスマホが振動した。『心霊現象考察サイト』にコメントがあると通知が入るように設定している。
私は恐る恐る新着のコメントを開いた。
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