第15話 ミセス・ジェリーの判断

レゲエミュージシャンのコールマンが、ジャズバー「エクワイア」のオーディションを受けることになった。


レゲエ音楽は、ジャズとは、明らかに違う。しかし、エクワイアのジャズバンドは、実は、世界のどんな音楽も演奏できるスキルを持っている。だから、コールマンのレゲエ音楽の話も、バンドメンバーが聞いたとき、大して驚かない。むしろ、バンドメンバーは、ジャズばかりよりも、レゲエ音楽の様な、違う音楽もやってもいいと思っていた。

ミセス・ジェリーの言った約束通り、コールマンが、ステージに立つ。コールマンの歌がどのくらいのものか、トムや、ジョンや、シンディーや、Hは、かたずをのんで見守る。コールマンは、マイクに向かう。「あー」というと、

「では、ジャマイカのレゲエの神様のボブ・マーリーの曲の『ライブリー・アップ・ユアセルフ』を知っているか?」

と、バンドメンバーに尋ねる。ボブ・マーリーは、エクワイアのバンドメンバーは、全員、その曲は知っていた。その曲は、彼の代表曲だ。バンドメンバーは、頷く。

コールマンは、ニヤッと、白い歯を燃せて笑うと、

「では、先ずは、それを演奏してくれ。俺が、歌う。」

と言って、足でリズムを刻み、曲が始まった。

コールマンは、小気味よく歌う。店全体がジャマイカの風に包まれる。

カリブ海に浮かぶ島国、ジャマイカの潮風がヤシの葉を揺らすように吹き抜ける。

ミセス・ジェリーは、ふふんと言って、

「なかなかいいわね。」

と上機嫌だ。ミセス・ジェリーは、Hに、演奏の中、耳打ちする。

「この店の闇仕事を彼が飲んだら、この店で、雇ってもいいと伝えてちょうだい。」と言う。そして、ミセス・ジェリーは、「後で、事務所にコールマンを寄こしてね。」と言うと、事務所に引っ込んでしまった。


Hは、コールマンの歌を聞く。メンバーも聞く。コールマンの持ち歌を次々と演奏するバンドメンバー。コールマンは、エクワイアのバンドメンバーならできると、まるで、あらかじめ知っていたようだった。数曲披露した後、Hは、コールマンに歩み寄り、先程のミセス・ジェリーの通達を伝え、事務所に聞くようにと命じる。コールマンは、嬉しそうに、口髭からこぼれる歯を見せて笑った。


ミセス・ジェリーの判断によって、コールマンは、エクワイアの一員となる。


エクワイアに新しいメンバーが加わった。ジャズバーにレゲエ音楽である。

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