卒業
天ヶ瀬羽季
for YOU
先輩へ。
ご卒業おめでとうございます。
目の前にあるきれいな桜の便せんにはその一文だけ。
中学校時代、特段仲のいい先輩がいなかった私にできた初めての仲のいい先輩。
そんな大好きな先輩は、明日卒業する。
私は何かしたいという一心で手紙を書くことにした。
文房具屋さんに売っていた便箋の中から選んだ一番先輩らしい便箋。
柔らかく包んでくれるような、先輩の優しい笑顔みたいなこの便せんに私は文字を書く。
何を伝えようか、色々考えてみる。
先輩とのメッセージ記録をたどってみると、そこには私の相談事で溢れかえっていた。
長女の私にとってはお姉ちゃんみたいで、家族に話しにくい話ばかりしていたのだ。
特に恋愛の相談が、一番多かった気がする。
恋人がほしいとか、好きな人の話とか…
今まで友達にしかしなかった話を、先輩と話せるのはお姉ちゃんができたみたいでとてもうれしかった。
文化祭の時、好きな人を誘えない私を勇気づけてくれたのも先輩だ。
確か、その時は好きな人に声をかけられないまま終わった気がする。
この時も先輩は優しかった。
一歩を踏め出せなくて、落ち込んでいた私を慰めてくれて…
メッセージアプリを振り返ると先輩の優しさで溢れていた。
書きたいことがありすぎて、進まない。
どうしようかと悩む。
頭を使うときは飴を食べたほうがいいよ。
そう先輩が教えてくれたことを思い出して、ポーチの中を見る。
中には先輩からもらった飴があった。
口に含むとイチゴの味が口の中に広がる。
私は飴をなめながら、先輩への手紙の続きを書き始めた。
『先輩へ
ご卒業おめでとうございます。
明日から、先輩が学校にいないことがとても寂しいです。
階段ですれ違ったとき必ず、声をかけてくれましたよね。
アレ、とてもうれしかったんです。
先輩とのメッセージを振り返ってみたら相談事ばっかりで…
いつも相談に乗ってくれた先輩には本当に感謝しています。
先輩は可愛くて、かっこよくて、優しい世界で一番の先輩です。
ずっと先輩の背中を追いかけてきたのに、それも明日で終わりですね…
この二年間追いかけてきたあの背中を見られないと思うと不安になります。
先輩みたいな人になりたいです。いや、なります。
また会うときには、大きくなった背中を見せるので、その時は私のほうを振り向いてください。
最後に、大好きな先輩。
ご卒業おめでとうございます。また会いましょう。』
書き終わるころには、真っ白な便箋は文字で埋まっていて…
口の中はイチゴの味だけが残っていた。
「先輩へ。またね、大好き」
卒業 天ヶ瀬羽季 @amauki_2023
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