白亜の冒険

六角堂なのころな典碌

第一章 薔薇の終焉

 城の騎士団の部隊にあるマスケッティアに編成された白亜は、一兵卒として、周辺の警備に当たっていた。

 大きな戦争や国の揉め事などが無い日々ならば、騎士団としても、日々の訓練以外の職務は自由時間で、警備に当たれと言われた地区のモンスターの討伐のノルマをこなせば、厄介な頼まれごとなどされず、気楽なものだった。

 そうして日々を送っていた白亜に、突然の事件が降りかかる。

 城には後宮というものがあり、王族の奥方がたくさん住んでいる。

 正室ともなれば、一兵卒の白亜など、御目文字叶うわけもなく、騎士団長やマスケッティア師団長の招集で伝令を受けるか、集会のバルコニーに佇む王族の姿を、中庭から遠くで見守るしか見かける機会は無かった。

 しかし、後宮の第三王妃がやたらと、一兵卒の白亜を気に掛けるというか、突っかかるので、しばしば、第三王妃に会うために、白亜は、後宮に行くことがあった。

「あれを頂戴」

「これはまだなの」

と、まるで召使のように白亜に命じる第三王妃に、白亜は冗談混じりに、

「専属のメイドに召し上げて下さりますか?」

と、問うたら、第三王妃も周りのメイドもまるで冷水を浴びせたように白けた視線を向けるばかりで、何度、呼ばれても、何のために第三王妃に会いに行くのか、白亜自身も解らなかった。

 そんなある日、

「青梅を食べたら、幼い子供が死ぬ」

と、いう噂を聞きつけた白亜に、第三王妃は血相を変えて怒った。

 日頃から、城の王様なのに、その自分の夫が気に入らないと愚痴ばかりこぼしていた第三王妃だから、機嫌が悪かっただけだろう。貴族というのは堅苦しそうで、難しい職務でもあるのかもしれないと、その時は思った。

 しかし、それが起きて間もなく、第三王妃は生まれたばかりの王子を抱いて、召使と歓談していた。

 第三王妃に後宮に呼ばれた白亜は、その場所へと進んだ。

 第三王妃は、白亜を見つけるなり、子供を抱いたまま駆け寄り、白亜にぶつかって子供を取り落した。

 取り落された子供は、息絶えた。

「この子よ、この子が私の子供を殺したのよ」

 第三王妃にあらぬ疑いをかけられた白亜は、騒然とした空気の中、罪人としてまつりあげられた。

 容疑者として審問にかかった白亜だが、

「第三王妃が悪い」

と、され、

「王妃の御加減が悪いようだから、病が直ったら、また子供を作ろう」

と、王と王妃が復縁し、代わりに白亜が城をクビになった。

 騎士団の仲間に別れを告げ、白亜は街に出た。

 城下にいるのも気まずいから、別の街に移ろうと、放浪をしていた道中で、ある街にとどまった。

 大戦争ではないが、その街は周辺との勢力争いで、領主が傭兵を募っていた。

 城の騎士団に所属し、マスケッティアの師団にいたという白亜の経歴は、顔が利くもので、腕に覚えありとして、街の傭兵に採用された。

 領主専属の傭兵団に配備された白亜は、宿と決まった給金を受け取り、恩賞を得るために働いた。

 街の法律と争う理由が奇妙なことに気が付いたのは、まもなくしてからだった。

 善と悪にやたらこだわる領主同士の領地戦だ。

 戦場のほうが定職に就きやすいかと思ったが、厄介なことになったと、白亜は思った。

 すぐに出ていくのも内情を知っただけに怪しまれることだし、白亜は、争いが沈静化するまで留まることに決めた。

 クワガタ公園という名の公園のベンチで白亜が休憩していると、公園で寄り添う恋人を見かけた。

 密会だと白亜は思った。

 白い戦闘服の男と黒い戦闘服の女の組み合わせということは、善の男と悪の女の恋人ということになる。

 かといって、こういう組み合わせはよく見ることだし、白亜は放っておいた。

 すると、白亜が東北に遠征しろという領主からの通達があった。

 白亜は支度をして、東北に旅立った。

 白亜は新幹線に乗って、東北を目指した。

 その車中、首都で大停電が起きた。

 あっという間に左遷された白亜にも、首都から程遠い領主のところにも停電が起きたとの通達があり、クワガタ公園の外灯盤も破壊されるような暴動が起きたとの通達も受けた。

 善と悪との争いで、CD焼打ちに至るまで、データ消去の暴動はあったから、そういった争いのうちの一つなのだろうと、白亜は思った。

 東北に飛ばされた白亜は、新しい領主の部隊に迎えられた。

 どうも悪霊討伐の部隊のようで、悪霊の相手などしたことがなかったからと、手順の説明を請うたが、

「黙っていなさい」

と、たしなめられ、白亜はお祓いを受けた。

「神罰によって滅せよ。悪魔は人心を狂わす。今すぐに討伐しなければならない」

 まるで、白亜が討伐されに来たようだと思ったが、黙って待った。

「きえええええええ」

 神官の一喝にビクッとなったが、果てたのは神官のほうだった。

 体力を使い果たしたのかなあ、と、心配になった白亜だが、神官はぐったりと他の人にもたれただけで、すぐに復帰した。

「あなたに罪は無いようですので、部隊に配属します」

 神官に告げられた白亜は、悪霊退治の部隊に編成された。

 しばらく、活動を続けていた白亜だったが、ある日、任務を任された。

 悪路王の討伐だった。

 城止めの地下通路のもののけ討伐に向かったら、二度と帰ってはならないと言い渡され、白亜は悪路王のいる城止めまで連れていかれた。

 体のいいクビだった。

 言うことを聞く必要性が無いかと思ったが、気になるので、何となしに白亜は悪路王を探した。

 白亜は悪路王と会った。

 城止めの地下通路に憑りつく悪霊などではない普通の人間が悪路王だった。

「行き場が無いのか」

と、問われ、

「はい」

と、答えたら、

「召し抱える」

と、通達された。

 白亜は悪路王の専属の兵士に配属された。

 そうして、穏やかな日々が続いていくのかと思った。

 しかし、ある日、町娘に因縁をつけられた。

「あたし、知ってるんだからね。あんたが第三王妃の子供を殺したこと。何? あたしを殺す気? そんなことしたって、皆知ってるからムダよ。あんたと悪路王が第三王妃を殺そうとしてるって、王様に告げ口してやるんだから」

 確かに心当たりはあった。

 しかし、こんな町娘がどうのこうの出来る問題ではない。

 白亜は町娘の言い分を訂正して、そのまま職務を続けた。

 しばらく経ったある日、悪路王の城に騒ぎが起きた。

 火矢が放たれて、街が焼けた。

 慌てて火事を沈静化したものの、きな臭い気配が漂っていた。

 それは、あの町娘の言い分だった。

 どうやら、別の領主が悪路王に戦争を仕掛けるべく、白亜が第三王妃の子供を殺害したことを使って、王様をゆすろうと言うのだ。

 何でも、何処かの神殿に頼めば、子殺しの罪として、賠償金をもらえ、傘下に入れる手段があるようで、王様の城に入るために、白亜の身を預かりたいとの話だった。

 白亜は、断った。

 すると、悪路王も、別の領主の申し入れを断った。

 しかし、何かと因縁をつけて、別の領主が悪路王の領地を襲うので、事が大きくなって仲間が増えないうちに、どれかの条件をのむことに決めた。

 白亜が決めたのは、今までの縁の中で、善と悪の争いをはさむ経歴があったから、事がややこしいことに目を付け、外国のマフィアのところへ左遷されることを選んだ。

 外国のマフィアが塔を建てるから、善と悪の争いがややこしくなり、助からない人々によって、暴動が起きる。

 その呪いを解除すべく、白亜は外国に飛んだ。

 伝手を辿って、外国のマフィアのところに辿り着いた白亜は、近隣の街に潜伏して、塔を壊すために様子を窺った。

 この外国にも奇妙な法律があり、レクリエーションのように呪いの塔に挑む挑戦者を探していた。

 これは話が早いと、白亜は塔への挑戦を申し入れた。

 所属が無い白亜は、冒険者ギルドに登録をして、クエストで給金を稼ぎながら、塔への挑戦を続けた。

「本当に、レクリエーションみたいだな」

 そんな日々にも慣れたある日、善と悪の争いの領主が白亜に通達をした。

「外灯盤を直せない限り、第三王妃の子殺しはお前の罪だ。しかし、外国から本国への帰還は許さない。外国のまま、外灯盤を直せ」

 白亜は困惑したが、どうやら東北に出る時の大停電の影響で、いまだに暴動があるらしい。

 塔には暴動の原因となる外灯に当たる装置があるはずだと白亜は賢明に調べ、塔の中から外灯の装置を見つけ出し、善と悪の争いの領主の領土の呪いを解いた。

 すると、

「帰還しろ」

と、言われたので、

「もう、所有物ではないので、お断りします」

と、断ったら、やたらと話がこじれた。

 また、いちゃもんをつけられてはたまらないと、白亜は善と悪の争いの領主のところに行くことにした。

 そして、白亜は領主と会い、外灯盤の確認に向かったら、公園の外灯盤だけではなく、橋の外灯分電盤まで壊れていた。

「私が旅立った時に壊れたのは、外灯盤のはずで、外灯分電盤のほうは壊れていなかったはずだから、こうして壊れるのは、私の責任ではありません」

 白亜は領主に言った。

 迷惑な旨を伝えると、領主は引き下がった。

 白亜は外国に旅立った。

 塔のある街のほうが様々なことをしやすいからだ。

 そうして、白亜の冒険は続いた。

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