幻界伝鬼録
@Murakumo_Ame
第1話 序章
「こんなものかな?」
少女は化粧を施した。
教師に感づかれないようにナチュラルメイクにする。やはり〝学校〟に行くにはそれなりの身だしなみを整えなければならない。化粧をしないと周囲から浮いてしまう可能性がある。絶対にばれないように気をつけなければならない。
教師にばれたら大目玉である。警戒すべきは教師だけではない。学校を巡回する大人の目も気にする必要はある。
「同じ生徒の中にも密告する奴もいるだろうし。気をつけよう!」
怒った大人達に囲まれるのは高校生になっても怖い。
学校は社会から隔絶された独特の閉鎖社会と言っていい。そこには独自のルールがあるのだ。ルールから外れた者には教師からの制裁や生徒からの苛めという理不尽な罰則が課せられる。少女は自身の強さを自負しているが、それでも学校そのものに牙を向けられれば一溜りもない。
浮かないように、より化粧に気合を入れる。バレない様に細心の注意を払いながら支度を整える。
「忘れ物はないようにしないとね。学校についたら途中で帰れないし」
もう一度鞄を確認してみる。教科書類や文房具は入っていない。いらないのだ。全て置き勉されている。自分一人じゃない。皆そうしているはずだ。だから鞄の中には必要不可欠の物しか入っていない。
「はぁ~……」
いつもどおりの日常を生きることは意識すると難しい。けれど学校に行けば気のおける友達に会える。自分は社交的な人間だと自負しているのできっと大丈夫だろう。
「帰る時は友達と手を繋いで一緒に帰れるといいかな」
少し弱気になる自分の頬をパンパンと叩いて気合を入れる。
「友達が困ってたら助けないとねっ!」
幼少期から何も変わっていない。彼女は情に厚いところがあるのだ。大切な友達から教わった優しさを決して忘れてはいない。そして少女は一人前のつもりだった。だから学校に一人で登校するくらいで音をあげてはいけない。
最後にお守りの数珠を身に着けると、少女は学校に向かった。
扇乃宮高等学校までの道のりは長い。途中までは電車等の交通機関で移動できる。だが途中で降りてからは徒歩で向かわなければならない。周囲に人気がない場所にあるのだから交通の便が悪いのは仕方ない。
足早に学校に向かう途中に酷い眠気に襲われた。
(マズい……。ここまで来るのに体力削られちゃったかな……。体力には自信あるんだけれど)
何とか意識を保って見えてきた校舎まで進んで行く。途中で何人かの大人に会ったが、自分を一瞥するだけで気に留めていないようだった。制服から学校に向かう女子高生としか認識されなかったようだ。
「化粧もバレてないみたい。案外分からないものね。これならいつもどおり過ごせそう。後は平常心を保つだけ」
すれ違う大人達に会釈して少女は駆け足気味に校門をくぐった。
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