第10話 楽園の真実

 ソラとルナが潜入した「ゼロ・ユートピア」は、まるで未来都市の理想形のようだった。


 空中に広がる都市は、美しい光に包まれ、整備された公園、きらめく水辺、豊かな緑が広がっている。街を歩く人々は穏やかで、笑顔を絶やさない。

 誰もが清潔で、美しく、まるで「楽園」にいるかのような雰囲気だった。


 「これが……本当に敵の作った都市なのか?」


 ソラは違和感を覚えた。


 敵対企業の残党が築いたはずの都市。

 しかし、そこには暴力や混乱など微塵も感じられず、むしろ平和そのものが広がっていた。


 「おかしい……何かが隠されている。」


 ルナはクリスタルの力を使い、都市のエネルギーシステムを探った。

 瞬間、彼女の目に映ったのは、都市の「もう一つの顔」だった。


 完璧な管理の裏で、犠牲になった人々がいた——。


 都市の下層部。

 そこには、貧困と汚染にまみれた区域が存在していた。

 綺麗な街で暮らせるのは「選ばれた者」だけ。

 不要とされた人々は、都市の外へ追いやられ、見捨てられていたのだ。


 「これは……ひどい。」


 ルナの目が揺れた。


 「この街が豊かなのは、すべてのエネルギーを選ばれた者だけに集中させているから。」


 完璧なエネルギー管理システム。

 その真実は、「管理する者」と「管理される者」の分断によって成り立っていた。


 「ここにいる人たちは、気づいているのかな……?」


 ルナは街の人々を眺めた。彼らは幸せそうに暮らしている。

 でも、都市の外に追いやられた人々の存在を知っているのだろうか?


 「この都市の創設者はこう考えたんだろうな。」


 ソラは呟く。


 「世界を救うためには、限られたエネルギーを効率的に使わなければならない。

 そのためには、不必要なものを排除するしかない……。」


 だが、それは本当に正しいのか?




 豊かさを享受する者と、見捨てられる者。

 それが“平和”と呼べるのか?


 「……私は、この都市を壊すべきなの?」


 ルナは迷った。


 今ここで都市を壊せば、多くの人々が混乱し、豊かな生活を失うかもしれない。

 しかし、このままでは、見捨てられた人々は救われない。


 「ルナ、お前はどうしたい?」


 ソラはルナの肩にそっと手を置いた。


 「俺たちは、破壊がしたいんじゃない。

 “本当の楽園”を作りたいんだろ?」


 ルナはゆっくりと頷いた。


 「……うん。この都市の在り方を変えなきゃ。」


 「ゼロ・ユートピア」は、たしかに理想郷だった。

 だが、それは「一部の人間にとっての楽園」に過ぎなかった。


 ソラとルナは、この都市を変える方法を模索し始める——。

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