9話 ほくほく!じゃがいもは待つのも仕事③
その日の昼。
いつも通りサイダーとおにぎり、最近注文が増えたハンバーガーを受け取りに厨房にヘラルドさんが顔を出した。
「よお!今日もいつもの受け取りに来たぜ。そういえばチヒロ、うちのがえらくハンバーガー気にいっちまってよ。また注文数増えるかもしれねえがいいか?」
「こんにちは!もちろん!塩堀り夫さんの中では塩をかけて食べるのが流行ってるんですよね?」
「そうなんだよ、塩を摂りすぎてるやつもいるから俺が気にかけてやんないといけねえんだけどな」
「塩の摂りすぎは怖いですからね!そうだ、今から少し時間もらえますか?」
「ああ、これを休憩所まで持って行ったら時間はとれるが、どうしたんだ?」
「ちょっと助けてほしいことがあって」
「チヒロの頼みなら仕方ねえなあ。俺は一応塩堀場から離れられないから、仕事が終わってからでもいいか?」
「なら、お伺いしてもいいですか?ちょっと長くなってしまうので……」
「チヒロがいいんなら俺は構わないぜ」
「ありがとうございます!昼落ち着いたら伺いますね!」
「了解!おっと、待ってる奴もいるし、とりあえずこれだけ持って行くな!リチャト、今日も用意してくれてありがとうな!じゃあチヒロはまたあとで!」
バタバタと出ていったヘラルドさんを見送り、リチャトさんに早上がりの許可を取る。
今日はそんなに混雑していなかったから、今から追いかけていってもいいと言ってもらえた。
お礼のサイダーを2本取り出し、保存装置にいれれば久しぶりの自転車に飛び乗った。
「こんにちは!さっきぶりですね!」
「思ったよりも早かったな!まあ座りなよ!で、どうしたんだ?」
「実は、畑の水が足りなくて……水を引く方法を考えてるんです」
「川から直接運んじゃだめなのか?あの畑のすぐ後ろにあるじゃねえか」
「それが、毎回汲んで運ぶのも大変で……だから、水路を作ろうと思うんです」
「水路……?」
「はい。灌漑って言う手法なんですけど、川から畑まで水を引く小さな溝を掘ろうと思って」
「そんな技もあるのか!農業ってのもなんかおもしれえもんなんだな!」
うんうんと頷くヘラルドさんにそっとサイダーを手渡す。
手で礼の形を作ったヘラルドさんは、そのまま栓をあけた。
カシュッと心地よい音が響き、そのままごくごくと勢いよく飲み干して、ダンと机に置けばきらりと光る眼で私を見つめた。
「ただ、人手が必要だね」
「そうなんです。そこが問題で。うちはヘールさんしか男手がいないから、そんな状況でも効率的に溝を掘れるコツを教えていただきたくて今日は来たんです」
「だからってわざわざこんなサイダーまで持ってきたのか?チヒロ、やるようになったな!」
ガハハ!と大きくのけぞって笑うヘラルドさんに、返事をせかすように言葉をつづけた。
「まあまあ……で、どうでしょう。別に無料でとは言いません。塩堀場で培ったコツを伝授していただけませんか?」
「そんなへりくだらんでも、なんでも教えてやるよ!俺も手伝いに行ってやる!ヘールの野郎だけに任せてらんねえよ」
「ほんとにいいんですか!?わあ、助かります。本当にありがとうございます」
「いやあ、そこは俺の専門分野だからよ。ただ、俺だけしか流石にいけないけどいいか?ここの塩堀場止めるわけにはいかないからよ」
「ヘラルドさんに来てもらうだけでも全然変わりますよ!」
そんな話をしていれば、すぐ後ろで休憩していた塩堀師たちが様子を窺うようにしてこちらを見ているのに気付いた。
私がヘラルドさんの後ろを見ているのに気づいたのか、ヘラルドさんも振り返る。
それと同時に、1人の塩堀師が私に近づいてきた。
「おい、チヒロ。お前、本気で畑なんて作ろうとしてるのか?」
「え?はい。もちろん」
「そうか……肉だけ食ってりゃいいって思ってたが、お前の料理食ったら、ちょっと考えが変わったんだよ」
「ああ……俺もスプラウトのスープ、けっこう気に入ったし……」
「水路作るんなら、手伝うぜ!」
わらわらと私の周りに人が集まる。
少しずつみんなの意識が変わってきてることを実感し、目頭が熱くなった。
「そんなこと言うなら総出で手伝うか!そっちの方が半端じゃねえし、粋ってもんだろ!」
ぱんっと大きく手を打って、ヘラルドさんが塩堀場全員の視線を集めた。
みんな、口々に任せな、や、頼ればいいじゃないか水臭いな、など声をかけてくれる。
「チヒロはそれでいいか?」
その言葉に頭がとれるほど大きく頷いた。
「ありがとうございます!皆さん、よろしくお願いします!」
こうして、溝の問題も解決し、あとは実際に工事を行うだけとなった。
綿密に計算し、設計図をかいていくヘラルドさんはちょっとかっこよかった、だなんて絶対本人には言わないけれど。
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異世界に転移したので国民全員の胃袋を掴みます りゆ @piyosn
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