13話 つるっと!もっちりフォー⑤
つるっつるるっ
のどごしのいい麺がノンストレスで喉を潤していく。
ざくざくと玉ねぎがいいアクセントを残して食感に面白さを残す。
うん、ちゃんと美味しい、私が1から作ったんだ。
完成した余韻に浸りつつ夢中で麺を啜っていたが、隣のリチャトさんの反応がないことに気づく。
ずるずる音を立てたのがよくなかったかな、と少し嫌な予感を抱きつつ、リチャトさんの方を見た。
「これは、本当に、なんだい?」
じっと私の方を見つめ、真剣な顔で聞いてくる。
「これはフォーという料理です。私の郷土料理ではありませんが、他地域を代表する料理として有名でした」
私の言葉に、リチャトさんは眉間に皺を寄せ、顔をしかめる。
「こういうのも頭の中に入っているのかい?」
「いえ、これは……その……ここに来る前にとっていたメモが荷物の中に入っていて」
「びっくりした、こんなに美味しいものも全部頭の中にあるのかと思ったらちょっと怖くなってしまってね!」
「そ、そこまで天才じゃないです!」
ふふ、とリチャトさんが笑みをうかべて、スープを吸う。
「うん、美味しい、本当に美味しいよ。これは売れるね」
「本当ですか!嬉しい!」
「もう私が許可しなくても良いほどチヒロはいい腕を持ってるよ。私よりも料理が上手い」
「それはないです。こんな私を雇ってくださったのは、他でもないリチャトさんですから」
2人で顔を見合わせてにんまりする。
リチャトさんの目尻によった皺も、喜んでいるように見える。
「じゃあ、正式にメニューに決定だね」
「やったー!冷やしても美味しいので、あったいものと冷えたものを用意してもいいですか?」
「そうだね……なら区別するために冷やした方はレクフォーって名前にしようか」
「レク?」
「ああ、ソントウルの言葉で、冷やすという意味さ。ちょっとソントウルの料理に似ていると思ってね……そうだ。少し付け加えてもいいかい?」
「全然大丈夫ですよ!」
リチャトさんが戸棚からいくつかの小瓶を取り出し、さっさっと色とりどりの粉をスープに入れる。
少し火にかけて香りをたたせると、今まで嗅いだことの無いような、だけどどこか懐かしいような、そんな香りが厨房に広がった。
「わあっ、いい匂い!」
「良かった良かった。きっと合うと思ったんだよ。今入れたのはソントウルの香辛料さ。匂いもだが味も良くなったと思うよ」
ほれ、とスープを入れた小皿を受け取り、味を楽しめるように目を閉じながら啜る。
ふわりと香辛料の香りが鼻いっぱいに広がり、一瞬で幸せな気持ちになった。
「とっても美味しいです……!レベルアップした!」
「だろう?これが合うと思ったんだよ、味付けはあたしに任せな!」
もちろんです!と心の中で叫びながら無我夢中でスパイス入りのスープを啜る。
本当に美味しくって完璧に魅了されてしまった。
リチャトさんはやっぱり凄い料理人だ。
改めてそう実感しつつ、また1口スープを啜った。
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