8話 しゅわしゅわ!すっきりサイダー②
じーこじーこと長い坂を登り始めて20分弱、眼前に大きな岩山が広がってきた。
きらきらと光をうけてところどころが光る。
岩塩自体は見た事がなかったが、あれがそうなのだろうか?
あたりをキョロキョロとしながら自転車を押していると、ヘラルドさんが岩陰から出てきた。
「お!嬢ちゃん!来てくれたのかー!助かる!」
「いえ!出前もお店の一つの業務になっていくでしょうし、お客様第一号は大切にしないといけませんからね!」
「ははっ!それは嬉しいなあ!それで、おにぎりは?」
「この中に!あと、サービスで疲労回復ドリンクも持ってきました!」
「それは助かるなあ!じゃ、中に入って!」
こっちこっちと手招きするヘラルドさんについていくと、岩山が一部くり抜かれ、洞窟になっているところが出てきた。
中に入ると少しひんやりとしていて、ぼんやりと光魔導装置が灯っている。
何人かの塩掘師さんたちが中で休んでいた。
「ここの保存装置の中に入れておいてくれ。で、ドリンクっていうのは?」
「わかりました!ドリンクはですね、その名もレモンサイダーです!」
「サイダー?またこりゃ初めて聞く名前だな」
「ふふ、百聞は一見にしかず、ですよ。今から作りますので、少しお待ちください」
「それは楽しみだな。俺は堀師たちにおにぎり分けてくるから、勝手に自由にやっててくれ」
「わかりました!ありがとうございます!」
そう言って、手に持てるだけおにぎりを持って行ったヘラルドさんの背中を見つめながら、私もやりますか、と一息いれる。
準備中、うまいうまいと堀師さんたちの声が聞こえて、思わず頬がゆるんでしまった。
ゴトゴトと、保存装置から炭酸の瓶を1本取り出し、カシュッと音をたてながら開ける。
久しぶりに聞いたさっぱりした音に、少し懐かしさも感じながらレモンをザクザクと適当に輪切りにして切っていく。
コップに炭酸が抜けないよう、慎重に注ぎ、ぽいぽいとレモンの輪切りを入れて、とろりと蜂蜜をスプーンいっぱい分入れ、くるくるとかき混ぜた。
ふといいアイデアが思いつき、遠くでおにぎりを配っているヘラルドさんに向けて声をかける。
「あっ……そうだ、ヘラルドさん!!自由に使える塩ってありますか?」
「あるぞ!みんな仕事中は舐めてるんだ……これだ!どうだ?」
「ありがとうございます!助かります!」
受け取ったばかりの塩をぱらぱらとひとつまみもない程かけ、完成だ。
「ヘラルドさん、レモンサイダーできました!」
「おお!ありがとうな!ふむ……レモンが浮いている水か?いやでもなんだこのキラキラしているの……」
「そんな訝しげな目で見ないでくださいよ!とりあえず、飲んでみてください!」
ジトっとした視線を見ないように視線を逸らしつつほらほらと手を振って促す。
おにぎりは美味しそうに食べていたのになんでサイダーはだめなんだ!
そんな言葉を飲み込みつつ、恐る恐るコップに口をつけるヘラルドさんを見る。
こくりと喉が上下して。ヘラルドさんの顔にぱあっと花が咲いた。
「こ、これはうまい!ぱちぱちと弾ける感じも新鮮だし、何より頭がすっきりする!これはいいぞ!」
「それはよかったです!疲労回復効果もあるので、ぜひこの堀場でも普及させたいのですが……」
「そうだな、他の奴らにもウケるかどうかだが……ほら、へマート、これ飲んでみろ」
へマートと呼ばれた男性がこちらを向いて走ってくる。
「なんでしょうか、親方」
「これ飲んでみろ」
「は、はい……んっ、ぱちぱちする!?なんですかこれは!?あ、でも美味しい、疲れがすっきりします!」
「よかったです!!お塩も入れているので、効率的に摂取できる上、塩分の過剰摂取も控えられるんですよ!」
へマートさんにも好評で、無事、レモンサイダーは堀場に提供されることになった。
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