5話 ぎゅぎゅっと!なんちゃっておにぎり①

 私は、サジェット食堂の厨房で悩んでいた。

 バイトとして採用されてから4日。

 肉じゃがは私もリチャトさんも思ったよりも評判が良く、飛ぶように売れていった。


 リチャトさんに、私が考案したメニューがメインメニューになりつつあることをどう思っているのか、聞いた。


「そりゃああたしの料理がよりもあんたの料理がって思うこともあるけど、お客には美味しい料理を食べてほしいからね。私も負けないよ」


 と、懐の深い答えが返ってきた。

 その言葉に思わずじんわりして、泣きそうになってしまったのは私の中だけの秘密だ。


 とはいえ、もっと肉を入れて欲しいという要望もあり、リチャトさんと色々と改良をしていた。

 そのため、新メニュー考案にここまで時間がかかってしまったのだ。


 やっとまとまった時間が取れる……

 ただ、新メニュー考案とは言っても何を主軸に作っていくか、あまりまだ定まっていなかった。


「どうしよっかなあ……」


 ギィギィと丸椅子を揺らし、思考を練る。

 肉じゃがは、お肉をたっぷりにしたにもかかわらず、まだ増やして欲しいとの要望が出た。


 やはり、お肉を主軸にすればいいのか……

 しかしそれでは、今までと何も変わらない。

 思い切って、お肉を使わないメニューにしたところで、それを受け入れてもらえるかはわからない。

 ただの自己満足でおわる料理は提供する意味がない。


「ここで悩んでるだけでも仕方ないか」


 ここの生活に少し慣れたとは言え、まだ日常生活がどうなってるか把握しきれているわけではない。

 それを知らずに、寄り添った料理ができるわけがない。

 思い立ったら即行動。

 リチャトさんに声をかけて、少し外に出ることにした。


 この村には、大体300人ぐらいが暮らしていると言う。

 ただ、王都と隣国ナージェニス王国とを繋ぐ街道が通っているため、多くの旅人が立ち寄る中継地にもなっている。

 ちなみに、色々スパイスなどを輸入しているソントウルは南側にある。

 ナージェニス王国は、東側にあるのだ。


 一歩外に出ると、さまざまな人種の人々が行き交っている。

 主には、冒険者のような姿をした人が多いが、時々炭坑夫のような格好をしたような人もいる。

 ここは元々海の底だったみたいで、5000年前の災厄の影響で、陸地へと進化したらしい。

 そのため、塩が結晶化した岩山がたくさん存在し、それを掘り起こす職業に村の人たちは主についているそうだ。


「お、セントラルの嬢ちゃんじゃねえか!肉じゃが、美味かったぞ~」


 ぼーっと人の流れを見つめていると、1人のおじさんが声をかけてきた。

 肌は褐色で、炭坑夫の格好をしている。


「ありがとうございます!えーっと、どなたでしたっけ……」

「はは!忘れちまったか?リウーラの旦那だよ!嬢ちゃんからすると俺はお隣さん!」

「ああ!コアシトさん!えっと下の名前が……」

「ヘラルドだぜ!ヘラルド=コアシト!!覚えてくれよな!」

「はい!もう覚えました!」


 いけない。お隣さんを忘れてしまっていた。

 えへへと頭を抱えつつ聞きたかったことを聞く。


「ヘラルドさん。今、食べることで困っていることってありますか?」

「そうだなあ……困っていることか?」

「はい。どんなことでもいいんですが……」

「ううむ。そうだ!昼にな、お腹が空いて仕方がないんだ」

「昼……ですか?」


 話を聞いていくと、どうやらここでは昼ご飯という習慣がないらしい。

 今まで、家か食堂でしかほとんど食事をしたことがなかったので、気づいていなかった。

 そういえば、家でもお昼は抜いてしまっていたかも。

 忙しすぎて、ただ抜いているという意識だったが、今考えれば食生活が乱れてしまっていた。


「ありがとうございます!ちょっと参考にさせて頂きます!」

「こ、こんな意見でいいのか!?」

「はい!とっても役立ちました!」

「じゃあいいけどよ……新しいメニュー出すなら、真っ先に食べさせてくれよな?」

「もちろんです!」


 ヘラルドさんにぺこりとお礼をして、食堂に戻る。

 私にはもう新メニューの構想が固まってきた。

 ふふふとこれから作るものに思いを馳せ、楽しみのあまりにまりと笑ってしまった。

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