2話 さっぱり!ヘルシーサラダ②
「さてチヒロさん。どうすればいいかしら?」
「そうですね、普段はどうされていますか?」
「コーンは実の部分だけ削いでるわ。トマトは3つに等分して、大葉は添え物にしか使ったことがないわ」
「そうなんですね!では、私のやり方でしてもいいですか?」
「ええ、いいわよ。ただし、美味しく作ってね?」
「もちろんです!」
よし!と気合を入れるために腕まくりをして、清潔になるよう入念に手を洗って料理スタート。
今回目指す料理は後味さっぱりサラダだ。
なぜ目指すかというと、ここは異世界。
先程食生活の違いについて聞いたように、同じ食材、調味料があるとも限らない。
だから、せめて近い味になるようにしていこうと考えたわけだ。
「まず、確認しておきたいのですが、ここにはポン酢とオリーブオイルはありますか?」
「オリーブオイルはあるけど、ポンズは聞いたことがないわね」
「そうですか……では、醤油もありませんよね?」
「ショウユも初めて聞く単語ね。ちょっとわからないわ、ごめんなさい」
「いえ!そんな謝らないでください!でしたら、コーンをいつものように削いでもらえますか?」
「わかったわ!」
リッタ夫人がゴリゴリとコーンを削いでいる間に、私はポン酢の代用をどうするかを考える。
私が知っている代用法は全て醤油を使う、もしくはめんつゆを使うものだ。
醤油がなければ、醤油を使うめんつゆもない訳で。
「うーん、どうしよっかなあ」
うんうんと悩みながら、本来の目的を思い出す。
さっぱりとしたものを作りたいのだから、レモンを使うのはどうだろうか。
ただ、レモンだけだと酸味が強すぎる。まだ幼いリベラルが食べれる味にはならない。
ふと昔見たレモンの味を中和する記事を思い出した。
「あの、クリームチーズと黒胡椒はありますか?」
「クリームチーズならあるわ!黒胡椒は隣国のソントウルの名産なんだけどね、お土産でもらったもの残ってたかしら……少し探してみるけど、今すぐ必要?」
「いえ!仕上げで使うので大丈夫ですよ!あと、ここに鶏はいますか?」
「鶏は庭にいるけど、鶏肉を使うの?」
「そうですね、鶏肉を使ったサラダもありますが、今回は卵が欲しいんです!」
「ええ!卵を食べるの!?なんてむごい……」
悲しい顔になってしまったリッタ夫人を見て直感でまずいと感じる。
不信感を持たせてしまえば、二度と台所に立たせてもらえないかもしれない。
「ここの人たちはいつも動物の肉を食べてるんですよね?なのに卵だけはむごいと言うのですか?新しい命も、成長した命も、どちらもかけがえのないものです」
「た、確かにそうね。そんなこと、考えたこともなかったわ……いいわ、後で取ってきてあげましょう」
「ありがとうございます!では、コーンを削ぎ落とせたら、一列ずつに切ってください」
リッタ夫人が納得してくれたことにひとまず胸を撫で下ろす。
言ったことは間違いではないが、暴論に近かったので見ず知らずの私の話を聞き入れてくれるかは博打だった。
これで、ポン酢問題が解決したところで、私は野菜に取り掛かる。
あらかじめ冷水に浸しておいたトマトを引き上げ、2cm角ぐらいにザクザクとざく切りしていく。
ざく切りしたトマトはボウルに入れ、今度は大葉だ。
香りを強く出すため、バチンッと大きく何回も叩く。
「ちょ、ちょっと!何してるの!私たちが大切に育てた野菜よ!?そんな乱暴に扱わないで!」
コーンを切り終わり、黒胡椒を探していたリッタ夫人が信じられなという風にこちらを見る。
私は安心させるように、にっこりと微笑んだ。
「安心してください。大葉はこうやって食べると、より美味しくなるんですよ!」
「そ、そうなの?料理屋でもこれはしていたの?」
「ええ、していましたよ。私に任せてください!とっても美味しいサラダを作りますから!」
納得しきれない顔をしながら戻るリッタ夫人に内心ビクビクする。
リッタ夫人が怒るのも当然だ。
ここは異世界なんだから、私の常識は通用しないのだ。
そのことを改めて心に刻もうと誓った。
大葉を叩き終わったあと、細切りにしていくと大葉のいい香りがふわっと広がる。
よし、今日もうまく香り出しができた、と満足する。
「ええ!大葉って切るだけでこんな香りがするの?まるでハーブみたいね」
「さっき叩いていたのもあるんですよ!叩くことによって大葉の香りを強く引き出すことができます」
「へえ、そうなのね。味がどうなるのかわからないけど、好きな香りね」
良かった、大葉は好き嫌いがわかれる匂いと味だ。
リベラルが食べられるように、リベラルのボウルだけとりあえず大葉を入れないでおく。
「あっ!黒胡椒あったわ!これでいいかしら?」
「完璧です!ミルは……なさそうだから手で潰しましょうか。では、コーンをさっと炒めてもらえますか?」
「コーンを焼くの!?コーンはそのまま食べるしか食べ方はないと思ってたわ!」
「それだとかたいでしょう?香ばしさも出すために、少し焼き目がつくまで炒めてくださいね」
コーンを炒めるということを知らないということは、もしかして料理の幅もものすごく狭い中でリブヘンブルグは発展しているのでは?
そんな不安がよぎったが、今は関係のないことなので料理に集中しよう。
よし、今からドレッシング作りだ。
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