聖女と魔女、運命の交差

神月 璃夢【りむ】

第1話 運命の出会い

聖女セラは、街の外れにある大聖堂で静かに祈りを捧げていた。彼女の瞳には、迷いのない強い意志が宿っている。幼い頃から聖女として育てられたセラにとって、正義のために戦うことは当たり前の使命だった。


「セラ、新たな使命をあたえる。」


大司教の低く響く声が、荘厳な大聖堂にこだまする。セラは跪き、静かに問いかけた。


「はい、大司教様。どのような使命でしょうか?」


「森に闇の魔女が潜んでいるとの報告があった。彼女を討つのだ。」


 闇の魔女。その存在を聞いた瞬間、セラの中に強い敵意が生まれた。闇の魔女とは、邪悪な魔力を操り、人々を苦しめる存在。セラは大司教の言葉を胸に刻み、使命を果たすべく森へと旅立つことを決意した。


 深い森へと足を踏み入れたセラは、辺りを警戒しながら進んでいく。風が木々を揺らし、不穏な気配が漂っていた。やがて、森の奥に小さな小屋が見えてくる。その中には討つべき相手がいるはずだ。


「ここにいるのね、闇の魔女……。」


 セラは剣を握りしめ、慎重に扉を開けた。すると、中には一人の女性がいた。長い黒髪と淡い緑の瞳。彼女は驚いた表情でセラを見つめていた。


「……誰?」


 震える声。その姿は、邪悪な魔女というよりも、ただ怯える少女のようだった。しかし、セラは油断しない。


「私は聖女セラ。お前を討つために来た。」


 剣を構えるセラ。しかし、目の前の女性——ライムは、ただ悲しそうな瞳でセラを見つめるだけだった。その姿にセラは一瞬、迷いを感じてしまった。


「なぜ……? 私は何もしていないのに……。」


 ライムの言葉にセラは動揺した。彼女の目には涙が浮かび、その言葉には真実味が感じられた。


「お前は闇の魔女だ。邪悪な存在であると聞いている。」


「違う……私はただ、この森で静かに暮らしていただけ……。」


 セラの中で、確信が揺らぎ始める。これまで信じてきた「正義」と、目の前のライムの姿。その間に違和感が生まれた。


「もし、本当に邪悪な存在なら、なぜ怯えているのだろう……?」


 その思いがセラの心に引っかかり、彼女は剣を下ろしたのだった。


「真実を知る必要がある……。」


 そう心に決めた瞬間、セラの運命は大きく変わり始めた。


「もし、お前が本当に邪悪でないのなら、それを証明してみせろ。」


 セラの言葉にライムは目を見開き、何かを決意したように頷いたのだった。


 セラはライムとの日々を過ごす中で、彼女の内面に触れていく。内気で控えめなライムは、心優しい女性であり、森で静かに暮らすことを望んでいるだけだった。彼女の料理の腕前や、動物たちに対する優しさに、セラは次第に惹かれていった。


「セラ、食べてみて。私の作ったスープ……。」


「……美味しい。」


 ライムの手料理を口に運びながら、セラは驚いていた。敵だと思っていた相手が、自分のために食事を作る。それは、セラが今まで知らなかった温もりだった。


 二人は徐々に心を通わせていくが、セラの中には常に使命感が付きまとっていた。聖女としての責任と、ライムに対する感情の間で揺れ動く心。その葛藤は日に日に大きくなっていった。


 ある日、森の中で二人は散歩をしていた。ライムは木々の合間から差し込む光に目を細め、セラの隣を歩いていた。セラはそんなライムの姿に心を揺さぶられていたが、同時に彼女に対する疑念も捨てきれなかった。


「ライム、あなたは本当に何も悪いことをしていないの?」


 セラは思い切って問いかけた。ライムは一瞬立ち止まり、彼女の瞳を真っ直ぐに見つめた。


「私はただ、静かに暮らしたいだけ。誰も傷つけたくないのよ。」


その言葉にセラは何度も悩まされることになる。しかし、二人の関係が深まるにつれ、セラはライムの言葉を信じたいと思うようになるのだった。


セラが抱える悩みはそれだけではなかった。村人たちは魔女の存在を知り、セラに討伐を迫る声が日に日に大きくなっていった。


「聖女様、あの魔女を早く討ってください!」


 村人たちは、セラに討伐を迫る。ライムが悪ではないと知った今もなお、セラはどうすべきか決められずにいた。


「私にとって、正義とは……?」


 悩み続けるセラに届いた一通の手紙、そこには


「もし魔女を討たなければ、お前自身が罰を受けることになる。」


 セラは手紙を握りしめ、ライムを守ることを決意した。


「ライム、私はあなたを守りたい。」


 セラは、ライムへの感情を自覚し始めた。しかし、ライムはどこか寂しげな表情を浮かべた。


「私は、セラの負担になりたくないの……。」


「そんなこと言わないで! 私はあなたと一緒にいたい!」


 涙を流しながら叫ぶセラであった。

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