死なばもろとも

てりやき

 今日という日に名前をつけるなら、絶望、が一番しっくりくる。

 そんなことを考えながら、やけに静かな夜の多摩川の河川敷に座り込んだ。


 たった一夜にして、家も、仕事も、お金も全て失って、残ったのは借りた覚えのない借金だけ。

 正直、今日、何が起こったのかもよく思い出せなかった。


 唯一理解できたのが、夫が実は詐欺師で、そして私は彼に騙されたということだけ。

 当然、未だに受け入れることができていなかったが、最早そんな自分の心境すら、どうでもよかった。

 受け入れようと受け入れまいと、この現状は変わりようがないのだから。


 高架下のコンクリートはひんやりしていて、座っているとむしろ寒いぐらいだった。

 遠くから電車が近づいてきたのだろうか。ガタンゴトンという音がどんどん大きくなって、それに合わせるように頭上の高架も揺れを大きくさせていった。

 そして、とうとうガタンゴトンという音以外何も聞こえなくなって、電車が風を切る気配だけを私はかろうじて感じていた。


「殺してくれ」


 その声は、自分で聞き取るのが精一杯だった。

 あっという間に電車は通り過ぎて、ガタンゴトンという音も徐々に小さくなっていった。

 私は、せっかくならもっと叫べばよかったな、などと考えながら、目の前の漆黒の川を眺めた。


 今日は、自殺するにはもってこいの日だ。

 そうして私は、川の音に被せるように、ようやく声を上げて泣き始めた。

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